永田豊志

Profile

九州大学を卒業後、リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、コンピュータ系雑誌の編集長や、CGキャラクターの版権管理ビジネス会社社長などを経て、2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。 現在は、取締役最高執行責任者(COO)として新しいWebマーケティング支援ツールの開発や経営に携わっている。ビジネスパーソンの知的生産性研究にも取り組んでおり、その執筆活動や講演も好評。過去の著書は、中国、韓国、台湾などで翻訳されている。

Book Information

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――ブックスキャンはご存知でしたか。

永田豊志氏: そういうサービスがあるっていうことは知っていましたけども、その手のサービスがいろいろ立ち上がった後に、著作権絡みの話で下火になったような印象を受けていたので、どうしたのかなと思ってはいました。

――普段読書の中で電子書籍は利用されていますか。


永田豊志氏: たまに海外の蔵書とかで現物がなかなか手に入らないものを、電子書籍として買ったりすることはありますね。送ってもらうと送料も馬鹿にならないので。

――社内資料の共有に関しては、印刷した紙をスキャニングするような形ですか。


永田豊志氏: 会社にドキュメントスキャナーがありますので、貰った資料とかで元データがない場合はスキャニングしてイントラサーバに保管するようにしています。

――オフィス内の書類などもほとんどのものが電子化されているんですか。


永田豊志氏: そうですね。お客さんに配布するもの以外は、極力、ペーパーレスを心がけています。社内会議などでは、紙を配布することはほとんどありません。

――永田さんご自身のデスクに関しても、そんなに紙はないですか。


永田豊志氏: 基本的には紙は捨てるようにしていますね。

――スキャンしたデータを探す時、検索ですぐパッと出せる状態になっているんですか。


永田豊志氏: そうですね。OCRは精度の問題があるので使っていません。しかし、データは作成日やカテゴリで分類しているので、検索に時間がかかるということはありません。

――なるほど。永田さんはそういった資料を読まれる時、どのデバイスをお使いですか。




永田豊志氏: 基本的にはiPhoneで読んでいますね。いわゆる本を楽しむっていうことよりも、僕の場合は資料を調べる方が多いので、画面の小ささはそれほど問題ありません。ほとんどの場合は1回紙で読んでいますので、重要な部分だけを後から探し出すという使い方です。
今は書籍を置いておくスペースが無駄になるので、スキャニングしておいて本自体は捨てちゃうというケースが多いですね。

――本を捨てることに対しての抵抗感はないですか。


永田豊志氏: 昔はありましたけども、とにかく捨てないと片付かないので。サインをいただいたとか、思い出の本以外は資料と同じ、と考えて断捨離しています。

――逆に、読者の方々が永田さんが出された本をスキャニングして保存しておきたいといったような考えについてはいかがですか。


永田豊志氏: 個人で買ってそれを電子化する分には問題ないと思いますけどね。
実際、電子本を出してほしいという声もよくいただきますし。

――永田さんの読書スタイルに関しては、資料としての閲覧が主でしょうか。


永田豊志氏: そうですね。小説なども昔はよく読んでいましたけど、今はビジネス関連がメインですから。基本的には電子書籍を先に読むってことは僕の場合はないので、保存形態が電子書籍で、読むときは紙というスタイルなんですよ。

確かこの辺にあのエピソードがあったなというような調べ方をすることが多いので、横断的に調べる時には電子化していないと非常に不便ですよね。本は会社や移動中、自宅でも読むし、いろんなところで思いついたときに読みたいわけです。大量の資料を常に持ち歩くわけにはいきませんから。

――スキャンしたデータはクラウド化されてますか。


永田豊志氏: そうですね、僕の場合はDropboxというストレージサービスの有料版を使っています。たしか、80GBとかその規模の容量がありますから、とにかく全部ぶちこんでいます。クラウドの良いところは、ハードウェア自体がクラッシュしたりしても困らない点ですね。最初は大切なデータをクラウドにアップロードするのに抵抗感があった時期もありましたが、今はないと仕事になりません。

――クラウドのサービスが出たり、電子化というのが気軽にできるようになって、ワークスタイルの変化は何かありますか。


永田豊志氏: フリーで活躍しておられるような方には、ものすごい生産性の向上ではないでしょうか。まさにノマド的な、どこでもWi-Fiさえ通じれば仕事が継続できるというようなスタイルになったと思います。僕自身も会社の中にいるときはあまり変わりないですけども、海外出張するとか個人的に旅行に行くとかっていうときも、Wi-Fiさえ繋げれば、基本的にはずっとシームレスに仕事が続けられるってのはありがたいです。

――今後追加されたらいいなと思うサービスや、こうなったら便利になるなと思われるものはありますか。


永田豊志氏: そうですね、僕自身はかなり本を買う方なので、電子化して置いておきたいというのはすごくニーズとしては高いんですけど、実際に自炊をするのは非常に面倒くさいですし、数が多いので本当にその作業だけで膨大な時間がかかるわけじゃないですか。そういった面がもっと手軽になるといいなあと思うことは多いですね。

――裁断の作業など、ご自身でやられるんですか。


永田豊志氏: うちは会社のメンバーがやってくれるんですが、綺麗にやるとなったら時間かかりますよね。表紙など紙質が違うと一緒にスキャニングできないとかいろいろあるので、本当は最初から全部デジタルデータになっていればいいとは思うんですけど。

――書籍は月にどのくらい購入されますか。


永田豊志氏: 月に10冊から15冊くらい、ですかね。

――全ての書籍、目を通されますか。


永田豊志氏: すぐに通すものと、ちょっと放置して後から見るものとありますね。あとは資料と割り切っているので、全部を読むわけではなくて、大体中身が把握できたら後半は読まないという様なものもありますし、結構パラパラめくって、もう読まないという場合もありますし。立ち読みしていれば別なんですけど、アマゾンでレビューとタイトルで決めて買っちゃったりしている場合は、想定と違っていたりするともう読まないという場合もありますね。

――1冊の本を書くときの参考資料はどのくらい読まれるんですか。


永田豊志氏: どうでしょうね。2、30冊じゃないですかね。

――1冊の本を仕上げるのに、どれくらい期間がかかるものなんですか。


永田豊志氏: だいたい6か月くらいですね。年に2回くらいのペースで書いていますので、平均6ヶ月くらいですね。100パーセント書く前に全部予定のタイトルとか内容、章立てとかっていうものも決まっていますので、それに沿って基本的には書きますね。ただ予定していた章が実際に書いてみるとあんまりおもしろくなかったりすると、章自体を削ったりすることも多いです。そこは書いていく中で調整ですかね。

――今後の電子書籍が普及した中での出版社の役割は、どういったところに意義があると思いますか。




永田豊志氏: 既存出版社のアドバンテージは、紙の本を流通させることができるということに尽きると思います。全部を電子書籍で読みたいと思っている人は少数派ですから。しかし、一方で電子版も紙の本にバンドルしてもらってもいいのではないかと考えます。

――どういった形の電子書籍だったら読みやすいと思われますか。


永田豊志氏: iPadとかKindleとかを持っていれば、じっくり読むときには便利でしょうが、iPhoneなどを使って移動中に読みたいというニーズも高いと思います。それであれば、Text to Speechなど読み上げ機能とか、スマートフォンに最適化された検索機能があるとか、独自の機能が欲しいですね。

――電子書籍が今後もっと普及して、読み手にとっては読書スタイルの変化はあると思いますか。


永田豊志氏: 電子化するメリットというのは携帯性ということだけではなくて、情報をシェアしやすくなるということがあると思うんですよね。今は例えばホームページであっても、このページの情報が面白いと思えばそれをシェアしたりとか、『いいね!』ボタンを押したりすることができるのと同じようなことを、1冊の本の中で『この部分のセリフがいい』とか『ここの展開がおもしろいよね』みたいなことを読者同士で共有することができる。それが可視化されていって、仮に1章目があまりにもおもしろくなくて読み進めるのをやめようかなと思った人が、3章にものすごい盛り上がりがあることをソーシャルを通じて発見し、頑張ってそこまで読んでみようかなと思うとかですね。あと、資料として使うような僕みたいなタイプが、1冊のビジネス本全部を読まなくても、『ここだけ読んでおけばいいよこの本は』というのがわかれば、買ってそこだけ読むかもしれませんよね。そういった使い方ができるんじゃないかなと思いますね。

――書き手は、今までより読者の顔が見えてくる中で、執筆スタイルの変化があると思われますか。




永田豊志氏: さっき私が言ったようなことが普及してくれば、より細やかな部分で読者視点に立った本を書くということは可能になるんじゃないかなと思います。例えばAmazonのレビューをもらっても、それは1冊を通してこうだったという意見しかもらえないわけじゃないですか。でも、もしそれが、ページごとにココが良かったんだけど、アソコのページはもうちょっとこうした方がいいみたいなことがわかれば、かなり具体的な自分の改善というか読者のニーズを把握するのには役立つのかなと思います。
それから、出版社の事情で言えば、単行本は200ページくらいあって1500円くらいで売りたいというのがベースにあるので、正直書かなくてもいいようなことを書いて200ページにしているような本って、山ほどあるわけですよね。例えば50ページぐらいのちょっとしたエッセイを100円とか200円で売るということは、現在の流通上は難しいわけです。

――中身の問題ではなく。


永田豊志氏: 量の論理は当然働きますよね。それはある意味しょうがない部分もある。出版社も原稿をただ機械的に本にしているわけではなく、編集者が丁寧に編集、加工アドバイスしながら本を仕立てていくということになるわけです。そうなると、当然本のページ数が半分になっても手間はあんまり変わらなかったりするわけですよね。そういうことを考えて1冊の単価はある程度まとまった量がないと経営効率が悪いという出版社の論理というのも解らなくはない。
一方で、電子化によって出版界はかなり多様化するような気がしますね。ハードウェアコストは実質ゼロになるわけですから。例えばカラーの写真集って、カラー印刷であるが故に高いわけじゃないですか。ただ電子化の世界ではカラーもモノクロも全く同じコストになるわけなので、モノクロである必然性が全くなくなりますよね?そうすると今までは写真集って、値段もどうしても高くなっちゃうというのがあったと思うんですけど、素晴らしいアマチュア写真家が自分の作品を発表する場としてというような、今まで本としてはローンチしづらかったものがどんどん出てくるんじゃないかなと思いますね。

――出版形態が多様化しますね。


永田豊志氏: 多様化し、そしてニッチ化すると思います。

――最後に、人生の転機になった本というのをお伺いしてもよろしいでしょうか。


永田豊志氏: ビジネス書ではないですが、もう20年位前かな?『病院で死ぬということ』という本がありました。これは千葉かなんかの終末期医療に携わっているお医者さんが書いたもので、要するに延命治療をしてもその人の幸せには全くつながりませんよという内容の本だったんです。当時、ちょうどターミナルケアや終末期医療の問題が結構フォーカスされてきていた頃だった。
この本を読んで、「改めて1回きりしかない人生だな」ということを痛感したんですよね。延命治療が総じて悪いという話ではないんですけれども、本当に本人が満足して死んでいくということのために、何ができるかという風に考えると、自分自身がもし死ぬという時にやりきった感というか、自分の人生良かったなという風に思えるように生きたいなと思いましたね。
当たり前ですけど、この本を読んで、(人生は)長さではなくて質の問題だというふうな気づきがありました。去年も震災がありましたけど、いつなんどき天変地異が起こって、命が奪われるかもしれないというということを考えると、それを恐れていてもしょうがない。それよりも毎日が自分で精一杯やりきった満足感で満ち溢れていれば、将来の不安も払拭されるでしょう。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 永田豊志

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