神田昌典

Profile

上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済部に勤務。戦略コンサルティング会社、米国家電メーカーの日本代表として活躍後、1998年、経営コンサルタントとして独立。2007年、総合誌で“日本のトップマーケター”に選出される。現在、ビジネス分野のみならず、教育界でも精力的な活動を行っている。累計出版部数は250万部を超える。

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大人数での読書を通じて、新しい「知識社会」を創作する



経営コンサルタントとして多数のクライアントを抱えながらも、その一方で多くのビジネス書を執筆している神田昌典さん。情報編集術「フォトリーディング」やノート術「マインドマップ®」を日本に普及させた人物としても有名で、常に日本中のビジネスパーソンから注目を浴びている。現在、執筆活動だけでなく、全国で読書会を主宰したりと精力的に本と関わっている神田さんが、いま考えていることをお伺いしてみました。

お菓子作りのレシピのように「誰が読んでも実践できる本」を書きたい


――ビジネスからライフサイクル論まで、幅広いジャンルについてお詳しいですが、子供の時から読書はお好きだったんですか?


神田昌典氏: 僕が最初に買った本、小学校の時に買った本は料理本だったんです。学研の、女の子のためのマンガがたくさん載っている料理の本。お菓子作りが趣味で。シュークリームとかカスタードプディングとか、そういうのを小学校2年生位で作れたんです。

――菓子作りですか! 普通はあまりやらないですよね?


神田昌典氏: 普通はやらないかもしれないですけど、うちの母が働いていたので、自分で料理するのが結構好きだったんですよね。多分、そのときの影響だと思うんですけど、お菓子の本って基本的には、誰が読んでも作れるじゃないですか?だからこそ、私は自分の本が、誰が読んでもできないと気持ちが悪いんです(笑)。レシピと同じように。

私が開発した全脳思考®という思考法があるんだけれども、あれも基本的に「ステップ1は何をやって、ステップ2は何をやって、ステップ3は何をやって」という行程がある程度決まっていて、それを全部ふまえられると人生変わるね、というもの。そういうメソッドを作るのが好きなんですね。私の読書遍歴が、お菓子本が最初だったというのは、今もこうやって私の仕事に影響を与えていると思います。

成功者は、いつの時代も「成功者」になれるわけではない


――では、ご自身にとって転機になった本はありますか?


神田昌典氏: 自分が読んだ本ではなくて、書いた本なのですが、『あなたの悩みが世界を救う!』(ダイヤモンド社刊)という本です。

『あなたの悩みが世界を救う!』というタイトル通り、自分が最も悩んでいた時に書いた本だったんです。「みんな悩んでいるだろうけど、悩んでいる事で人って強くなって周りを救うんだよね」という風に自分の悩みを本にして出版したことが自分自身の転機になりました。

読者には申し訳ないですけれども、毎回、粒の揃った本が出せるかというと、必ずしもそうではなくて。分厚い本も出すし、薄い本も出すし、そういった中でやっぱり道のりはありますね。7年前位から考えていた世の中の流れというものを、今ようやく出せるようになってきたりとか。だからやっぱり段階を踏まないと、本当に言いたい事を本にするのは難しい。

――段階とは具体的にどういうことですか?


神田昌典氏: 『成功者の告白』(講談社刊)を出版したのが2004年。2004年ってどういう時期だったかというと、元ライブドア社長の堀江貴文さんが一世を風靡していた頃。いわゆる成功したら、金を儲けて六本木ヒルズに住んで、フェラーリに乗ってモデルと遊ぶのが人生の成功者という時に、「そうじゃないんだよ」ということをこの本で言っている訳ですね。

それから、僕が書いた『人生の旋律』(講談社刊)という本があるのですが、それは戦後の動乱の中で戦争を体験した人がどのように生きて死んでいくかというノンフィクションです。いわゆるオーラル・ヒストリーなんですね。そして、その後に書いたのが『お金と正義』(PHP研究所)という未来小説なんです。2004年頃からずっと言っているのは、2015年から時代が変わるぞ、ということ。世の中の価値観がひっくり返るので、英雄だった人たちが戦犯になる。英雄というのは一体何かと言うと、今の時代の価値観の中で成功している人。大成功している人というのが逆に一夜にして戦犯になるというのが歴史の通例なので。

経営コンサルタントという立場の私が、拝金主義に基づいた経営をやっていたら、クライアントを道に迷わせてしまう訳です。具体的には、一夜明けてみたら、「父ちゃんなんて最低だ」といわれるような家族を作っちゃうかもしれないじゃないですか。とすると、その後の2004年頃からは、そういう拝金主義の世の中の潮流に対しては「そうじゃないでしょ」というアンチの言葉を投げかけないといけない。だけど、投げかけるにあたって、直球で言ったって誰も聞いてくれないんです。

直接言えないのであれば、潜在意識の方からアプローチしないといけないので、私が何をやっていたかというと、ミュージカルを作ってみたり、近未来小説を書いてみたり。私自身の気付きを、メタファーとして世の中に伝えてきたということなんです。

――今はもう直接、ダイレクトに言うようになったんですか?


神田昌典氏: ある程度は。東日本大震災後、世の中が大きく変わったので、ダイレクトに出してもいいかなと思い書いたのが『2022―これから10年、活躍できる人の条件』(PHPビジネス新書)という本ですね。でも、言っていることは昔から変わらないんです。

電子の時代はもう、終わっている


――世の中を変えるものとして、電子書籍の存在というのは、出版界全体に影響をもたらすと思いますか?


神田昌典氏: 基本的に変わらないんじゃないかと思っています。確かに色々な面で読書のパターンというのは変わってくるけれども、本がなくなるまでには、まだ時間がある。

それは書籍の歴史を見ていると分かると思うんですけれども、本って流通が整うまでにかなり時間が掛かっているんですよ。どういうことかと言うと、導入期と成長期と成熟期を出版業界全体でみて、私が試算してみたところ、2025年とか30年位までは書店は残る、みたいな感じでした。

――2030年ですか。紙の本の価値はどういった点だと思われますか?


神田昌典氏: 「出版界に大激震」という議論は、常にあるんですけれども、意外に(出版界は)しぶといんですよ。とっておきたい本が電子書籍になるというケースはあったりしますけれど、印刷物としての本は、やっぱり電源を繋がなくても、いつでも24時間パッとめくれるから強い。そして書き込めるし。風呂に持ち込めるという点でも、媒体価値はあります。

一つの本をオンラインで同時に読むんだったら会っちゃった方が早くて。今はどちらかといったら、喫茶店での「朝活」「読者会」などが急速に伸びていることからも分かるように、電子書籍の時代は終わった、と私は思うんです。

――え、始まったばかりではないんですか?


神田昌典氏: もう終わりました。要するに電子の世界というのは、2011年までで情報インフラとしてのインターネットが完成された。そうするといわゆる、水道の蛇口をひねれば水が出るようなもので、情報自体の価値は極めて安くなるんです。そこで利益は出しにくい/出にくい/出せない。つまり、電子媒体のインフラを作る作業は大体終わったということになります。そうなると電子の時代はもう、あって当たり前のものだから、「それを使って何をするか」という事が非常に重要になってくるんです。

つまり、電子を使って知識を創造するというのが、これからの15年の流れなんです。「知識創造」が大事なんです。でも、オンラインよりも、今はこうやって人と集うという方が実を言うととても効果的なんですね。人が集まって知識創造したものをデジタルリソース電子でアーカイブ化し、もしくはオンラインで放映することによって、より多くの人に届けていく、という事はあると思うんです。

例えば世界中のプレゼンテーション動画を公開している「TEDカンファレンス」のイベントのように、ひとりひとりが集って、発表会をやっている。TEDが開催されている現地に行って見ようと思うと、まず何十万円もの旅費がかかるだろうけれど、TEDはオンラインで見ることができるので、つまり世界最高のプレゼンテーションを実質無料で視聴できるということです。

そう考えると、インフラが整ってひとりひとりが発信者になり、いわば“放送局”を持てる環境になったいまだからこそ、「人と人との出会いを通じた深層レベルのコミュニケーション」が大事で、その時に、人々が共通意識を持つための道具としては、本というのが非常にいい媒体だと思っています。

より実りがあって、夢に近づける読書方法について考える


――神田さんは本当にたくさんの本を書かれていますが、現在では定期的に読書会も主宰なさっているそうですね。




神田昌典氏: Read 4 Action-リード・フォー・アクション(以下/RFA)という全国規模の読書会を昨年9月に立ち上げました。それが今、立ち上げから9か月で約170回、北海道から沖縄、さらには韓国でおこなわれています。日本でおそらく最大規模のソーシャルリーディング・ネットワークと言えるのではないでしょうか。そこでは、大手出版社さんと言われる、講談社さんや、大和出版、日本実業出版社等々に講演をしていただいたり、勝間和代さんや本田直之さんをはじめとしたビジネス書を中心とした著者の方からバックアップしていただいて、読書会をやっております。

――9カ月の間の170回というは、すごい数ですね。


神田昌典氏: 読書会をただ開催するのではなく、そこに会議を円滑に回し、的確な意見が言える人たちが参加することで、より参加者同士つながり合い、新しい発想が生まれるんですね。また、そこで出会った人たちが共感、共鳴し、そして協力し合いながら、読書会を通じてお互いの夢を実現できたら、それはすばらしいことだと思います。そうしたファシリテーション能力を持った人たちを、私は「リーディング・ファシリテーター」と呼んでいるのですが、こうした人たちが大体日本全国に100人位 いるんです。

今まで開催された170回の読書会に対して全国に100人のリーディング・ファシリテーターですから、一人当たりが開催している読書会は平均1.7回。さらに、このファシリテーターの人数を100人に増やすにあたってのステップをいくつか踏んでいきましたので、読書会を始めた当初からやっていらっしゃる方は10回以上、おやりになっているという勘定になります。

――読書会は「全員で単に本を読む」というだけではないんですよね。


神田昌典氏: 読書というのは色々な読み方があると思うんです。私たちのやっているRFAは、読書会を通じて何らかの形で行動に繋げていこうという目的で行っているので、どちらかというと「本から得られる情報を自分がどのように活用して何のためにやるのかという議論」を、昇華させるという作業になります。たとえば、先日出版された、私が監訳した『ザ・マーケティング』(ダイヤモンド社刊)いう、基本篇・応用篇の2巻あわせて900ページ超えの分厚い本を、その場で3時間で読み、それぞれのダイレクトマーケティングの現場でどう役立てるかという事を読書会の場で話し合っているんです。

英語が読めなくても、英語を読みたくなる読書会とは



神田昌典氏: いま4万部以上売れている『ビジネスモデル・ジェネレーション』(翔泳社刊)という本は、このRFAという場で、本が翻訳される前から、原書を用いて読書会が行われているんです。あの本が4万部も売れたということに少なからず貢献したのが、このRFAだったのです

日本人は英語に対する苦手意識が高く、洋書が読めないと思っている。いやいや、とんでもない、読めないと思っていただけで、みんなが読書会に行けば、読めるようになるんです!

――全然いままで英語が出来なかった人たちが、どうやって英語を読めるようになるんですか? 


神田昌典氏: そういうニーズがあるからじゃないでしょうか?外国には良い本があるのに、その翻訳を待っていたら1年待ったって、2年待ったって洋書は入ってこない。そうしたら英語を読めるようになるしかないじゃないですか。英語を読める能力はあっても、原書を読むほどの英語力はないと思っている人がいて、でも自分より英語力のない人が、すらすら原書を読んでいたりするのを目の当たりにする。そうするとこの人が読めるなら、俺にも読めるよねって当たり前になってくるでしょう? 

また、例えばファシリテーターと呼ばれる人だったり、今“人に何かを教えたい人”というのがすごくたくさんいるんですよ。たとえば、編集法だったり、インタビュー技法などを、全部、教えられるじゃないですか。で、それを小学生、中学生や、高校生に教えるんです。

例えば、ラリー・キングのインタビューや黒柳徹子のインタビューの本を教科書として、子供たちにヒアリングの方法、インタビューをするスキルを身につけるために、読書会をやってみようと思っていたら、無名の人でも黒柳徹子のブランド名を使い、本というものを媒体として借りて、人を集めることができるわけですね。その時の講義というのは、教科書通りに教えればいいと思っている先生がやる講義と比べて、どっちがいいか……。それは誰にでも分かりますよね。

――もちろん明白ですね。


神田昌典氏: 熱意があって、そして自分の仕事で使えて、なおかつ安いんです。学費が安いはずの公立教育においても、授業一コマいくらで計算したら意外と高いものなんですよ。

国の財政が逼迫したときに、教育を国に独占させておく理由はなくなっていくでしょうね。だって、より効率的な、より親身な、より国全体で教えるようなものがあるのに、従来のものはどちらかというと統制がされていて旧来の工業化社会に基づくマス教育が行われていたら、こっちを解体せざるを得ないですよ。

だけど、それがまだ残っているのだったら、民間はボランティアでみんなやるわけですよ。生きがいという名のもとに。まあ、生きがいだけじゃないですね。それで人脈が増えて他に仕事が増えるからやるんですけれども。とすると、教育の独占という物が終わってくる可能性というのはあるわけで、それは別に日本の流れだけじゃなくて世界の潮流なんです。

ここ十数年で必要なことは「アジアの結束を高めること」


――それでは最後に、神田さんの野望を教えて下さい。


神田昌典氏: 野望…あまりないんですよね。無いというのが一体なぜかというと…忙しいから(笑)。あと、わかりやすく言うのであれば、野望というのは転覆させようという感じがするじゃないですか。でも僕はそういうものは全然ないですね。全然、ない。ただ一つ見えている世界というのは、人口動態的に考えて、アジアは一つにならざるを得ないという事はすごく思っている。なので、「アジア・ユニティ」というような経済概念を民間で作りたい。

――政治的な意味合いで…でしょうか?


神田昌典氏: 政治でやるのが一番いいんでしょうけど、政治だといろいろと動きが遅い。だから、こういう事を言うと近隣諸国、中国、北朝鮮とうまくやっていかれるわけがない、みたいな事で政治的な議論に巻き込まれて批判が多くなるんです。でも、政治がどういう状況であったとしても、豊かになりたいというニーズがあり、我々の子供たちを育てていかなくてはいけないというニーズがあり、その中でビジネスが起こるわけです。

ビジネスというのは調和のための最良の手段なんですよね。いわゆるコミュニケーションの仕方です。文化間のコミュニケーションで、いわゆるシルクロードを伝わって行った人が通商によってそれぞれの文化を花開かせていったように。やっぱりビジネスというのは、お互いに嫌い合っているうちは、ビジネスにはならないからね。とすると、根本的には共通点を見つけてお互いに成長ができるから、ビジネスをするわけです。

――つまり、ビジネスの観点から、アジアの融合をめざすということですか?


神田昌典氏: 少なくともアジアのビジネスパーソンは、ビジネスの相手を見極めると思うんです。日本と中国でビジネスをする場合、日本人は優良な中国人を選ぶし、中国人は長期的にやっていかれる日本人を選んだりと自分たちのニーズに合った相手を選ぶ。

仮に中国という国がダメになっても、日本でビジネスができるよう融通してくれる、使える日本人を探して対処するでしょう。
そうしてアジアの国同士で人材の流通、流動が起きていくと、そこに人の営み、例えば恋愛、結婚といったことも起こり、子供も生まれて自然に繁栄してくるわけです。

長期的に、いずれにしろ人口的に考えると日本人というのはヨーロピアン・ユニオンとは言わないけれども、やっぱり緩やかに連携というものをアジアの中で担って作り上げて、その中でのリーダーシップ、いわゆる上からのリーダーシップじゃなくてフォロワーシップと言ってもいいと思いますけれども、それを作り上げないと日本の安定はないわけですね。

――アジア各国と調和していかないと、日本自体が世界で生き抜いていけないということですね。


神田昌典氏: そうですね。だからそういった面では、アジア圏の人たちにアジア・ユニティというものをある程度認識させて、2016年あたりにはアジア国中でアジア万博、アジアエキスポをやってほしいですね。いわゆる今までのエキスポというのは各国が、自国の国力を示すために行っていたものなんですけれども、アジアの国中が、同時にエキスポを開催することで、全世界の中でアジアというものを打ち立てていってほしいですね。そして世の中のアンメット・ニーズ(まだ見つかっていないニーズ)というものをアジアの経済成長があるからこそ、技術も含めて作り上げていくことができるわけですよ。何といったって、ヨーロッパ、欧米を合わせたって人口の7%にしかならないですからね。2050年位には。そうすると我々がアジアの中でリーダーシップをとっていかないと、どうにもならない訳で。そのための教育をやらないといけないから。

そして、2013年にはアジア・ユニティ号という船を出したいんです。いわゆる「国境のない船」という意味で、若手のビジネス・パーソンがそこに集い、お互いの国やお互いの世の中の問題を解決するような会議を行うためのもの(場)ですね。国境のない世界。そうすると、その船に乗っている間にお互いの文化を知ったりその国の美味しいものを食べたり、宗教についてより深く理解をしたり、男女が国際恋愛をしたり、それからお互いの国の言葉を学んだりという事が実現できたら、すばらしいだろうと思いますね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 神田昌典

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