司馬遼太郎、山崎豊子。史実に基づいた小説に夢中です
――ちなみに、最近何か読まれた本ではおもしろかったものはありますか?
北野大氏: 最近はなかなか読めないんですが、面白かったのが増田俊也さんの書いたノンフィクション『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』。
我々の世代にとって、力道山と木村政彦の試合っていうのは世紀の一戦で、のちに「昭和の巌流島」なんて言われたんです。この本によると、あの試合は段取りがちゃんと決まっていたんですが、力道山が途中、急に怒ってしまった。木村さんが蹴ったのが、たまたま股間に当たったりしてしまったせいだと思うんだけど。
でも、一番読む気になったのは、タイトルです。書いたのは北大出身の柔道をやっていた人なんですが、非常に詳しく調べていて、あれは名著ですよ。
日本柔道史、あるいはプロレス史っていう感じです。ああいう人たちが柔道からプロレスに入ってきたんですよね。私たちは、講道館柔道こそが正統派の柔道だって思っていたんですけど、必ずしもそうではなく、講道館っていうのはスポーツの柔道だったとか。柔道はもともと柔術ですからね。
あとは、山崎豊子さんの小説で『運命の人』。山崎さんというのはさすがですね。あの取材力は感服します。私は滅多にテレビドラマを見ないんですが、この本はテレビでちょっと影響を受けたというか(笑)。『運命の人』って、ドラマで本木雅弘さんが主人公でやったんですよ。これは毎日新聞の記者が外務省の事務官を通じて機密文書を持って来させたわけですね。それが大スクープになって…という。結局最後は有罪になったわけですが、もちろん、そのニュースも昔からよく知っていますし、テレビをちょっと見たら懐かしくなりました。
――ルポということですか。
北野大氏: もちろん「事実に基づいたフィクションです」と言ってるので、名前も全部変えていますよ。でも私は、『あ、これは田中角栄だな』とか、すぐに分かりますね。全く創作じゃないんだけど、かなり事実に基づいていて。記事の内容は間違いじゃなかったんだけど、そそのかしてそういう事になったという事で有罪になっちゃったけど。
それから、次に読んだのは、同じく山崎豊子さんの『沈まぬ太陽』。最近、京セラの創業者である稲盛和夫さんが、JALで大規模なリストラをおこなった結果、立ち直りましたよね。この小説を読んで、「やっぱりJALというのは昔から問題があったんだな」というのを知って、やっぱり山崎さんの本は好きになりました。
『沈まぬ太陽』はサラリーマンの悲哀みたいなものを描いた作品ですよね。人間、信念を通すと生きづらいのかな…と。これも、やっぱり完全にフィクションではないんですが、ある程度内容を知っていて、山崎さんの本を読んで、それを更に確認したという感じがしています。
あとは司馬遼太郎さん。実は、僕はそもそも司馬遼太郎さんが好きで、作品をほとんど全部読んでいます。
――史実に基づいた小説がお好きなんですね。
北野大氏: 今、また更に山崎さんの『大地の子』という作品を読んでいます。これは、中国の残留孤児の話ですね。
――長編ですよね。『大地の子』は確か、日中合作か何かで昔ドラマになったはずですよね。
村上春樹作品など、定年したら読んでみたい本はたくさんある
北野大氏: ちなみに、学生時代はね、当時、電車の中の行き帰りで、毎週1冊ずつ岩波新書を読んでいました。
――学生の間にたくさん読まれたのですね。
北野大氏: はい、いろいろな本を読みました。今はとにかく忙しくて。だけど、読みたい本はいっぱいあるんですよね。
たとえば、『ノルウェイの森』の村上春樹さん。私は国連の会議で委員をやっているんですが、出席しているノルウェー人に『村上って知っているか?』って言うと、ちゃんと彼らは村上春樹さんの作品を知っているんですね。ちゃんと訳されていて。『1Q84』も、まだ読んでなくて恥ずかしいんですが、いずれ読んでみたい。定年になってゆっくりできる時になったら読んでみたいなぁとも思っています。
――先ほどの『木村政彦は…』もそうですけど、いま読まれている本は、どういった事がきっかけで手に取られたんですか。
北野大氏: まずは新聞で見つけることが多いですね。『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』は確か、新聞広告を見たのかもしれません。題名に取りつかれて。いいキャッチで、面白かったですよ。
よく日曜日になると新聞の書評欄にいろいろ出ています。まずあれは結構読んでいるんですよ。それから時間があれば本屋さんに行って、ちょっとぶらぶらする。でも、自分が読んだものがベストセラーになったときは嬉しいですよね。「おお、自分には見る目があったんだ」ってね(笑)。ベストセラーになったものを後から読むのは何となく悔しいんです。後追いみたいだから。
――ちなみに本屋に立ち寄られる時は、そのままの格好で、特に変装とかはされないんですか?
北野大氏: 変装はしないですね。まあ、見つかる時は見つかるけど。だから変な本は買えませんね(笑)。
本を買うときには、本屋に行くのが好きなんです
――では、本を買うときはほとんど、書店でなんですね。今はいろいろあるじゃないですか、ネットのAmazonなどで買うことは…。
北野大氏: ないですねぇ。Amazonってあんまり使ったことない。どうも、ネットとかっていろいろ出てくるけど、あんまり好きじゃないんですよね。
あとは、本屋さんのあの雰囲気が好きなんですね。自分の感じるようにグルグル回って見られるのでいい。さだまさしさんの「関白失脚」という歌で、「買い物ぐらい身体を動かせ」ってっていう台詞がありますが(笑)、やっぱり自分で本屋さんに行って面白そうだなと思って買うのがいいですね。
――本屋にずっと通っていらっしゃって、昔と今と、本屋の様子や本自体、装丁などでも、こんな風に変わったなとか、ありますか。
北野大氏: 一番変わったのは、本屋さんに椅子が置かれるようになったことでしょうか。ジュンク堂なんかはね、ちゃんと脇に椅子が置いてあって、そこで読めるようになっていますよね。八重洲ブックセンターなんかも確かそう。海外の本屋さんはだいたいそうなっていますよね。だいたい椅子が置いてあって、そこでゆっくり読めるようになっている。
昔はよく立ち読みなんかしていると、ハタキでこう店主に叩かれたもんですけどね(笑)。せっかく知的空間だからゆっくり本を選んで、椅子ぐらい置いてあって、こう見て、で、気に入って買っていく…という流れが出来上がってきているんでしょうか。
――立ち読みっていうのは決して購買意欲をそぐものではないですね。
北野大氏: やっぱり見て、自分で決めるわけですからね。カメラで撮っちゃうとかは窃盗だけど、ああいう本屋さんの雰囲気というのは大事にしたいなと思います。
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