山本直人

Profile

1964年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。博報堂に入社。制作局コピーライター、研究開発局主席研究員(兼)ブランドコンサルティングコンサルタントを経て人事局人材開発担当ディレクター。2004年8月独立。独立後は、マーケティングスキル、営業能力開発、スキル開発、若年層モチベーション向上等を中心とした人材育成コンサルティング/トレーニング、および商品開発、ブランディング、経営理念開発を中心としたコンサルティング/ファシリテーションをおこなう。青山学院大学経営学部マーケティング学科講師も務める。

Book Information

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1つの固まりとしての「本」は、「情報」と違い全く新しい視点を持てる



マーケティングスキル、営業能力開発、スキル開発、若年層モチベーション向上等を中心とした人材育成コンサルティング/トレーニング、および商品開発、ブランディング、経営理念開発を中心としたコンサルティング/ファシリテーションをおこなう山本直人さん。青山学院大学経営学部マーケティング学科をはじめとして講師としても、また多くの著書を持つ作家として活躍されている山本さんに、仕事から本との関わり合いまで、お伺いしました。

マーケティングの仕事と人材育成の仕事と掛け合わせ


――早速ですが、今現在のお仕事についてお伺いできますか?


山本直人氏: 大きくは、マーケティングの仕事と、人材育成の仕事と掛け合わせですね。結果的に多いのは、企業の中で、マーケティング人材を育成する仕事です。マーケティングの能力を上げたいという場合に、トレーニングプログラムを作ったりします。それから、実践・検証を行う。

――その対象者というのは、新卒だけではなく様々な年齢層の方たちですか?


山本直人氏: やっぱり若手・中堅の方が多いです。あとは特定の部のコンサルティング。定期的に合宿をやって、その部の半年間の活動を振り返って、次の半年間の計画を立てるなどしています。合宿は、2日から3日ぐらいで集中的にやりましょうというのが多いですね。あと別個に商品開発とかブランド開発の手伝いもしています。それは人材というよりも、商品開発コンサルティング、リサーチを一緒にやったりという一般的なコンサルティングですね。

お金をどう使うかを考えるのがマーケティング


――毎回全く違う業種の方々を対象にされてますか?


山本直人氏: 基本的には一業種一社ですね。

――そうなると毎回、頭を切り替えて、沢山引き出しがないといけないですか?


山本直人氏: 広告代理店のコピーライターをやっていたのもありますが、社会人になった時から複数の業種のことを勉強しなくちゃいけない。マーケティングって人がお金を使う時のいろいろな局面の話です。人は何か欲求があってお金を離す。使う人の気持ちになって見れば自然と切り替わるんですよね。人の気持ちになれば、喉が渇いたから飲む、お腹が空いたから食べる、どこか旅行に行きたければ行く、という風に自然と切り替わるんです。ところが会社に勤めちゃうとその切り替えが自然とは出来なくなって、自分の周りばっかりを見てしまう。そこに意外に落とし穴が多い。そういう形でコンサルティングが成り立っているというところがあるんですよね。

視野が狭くなっている全世代の視野を広げるためには?


――若手の方と合宿されたりした際に、最近の若者は、こういう所が変わったなと思われるようなところはありますか?


山本直人氏: 世代の差ってあまり関係ないと思う。いつの時代もちゃんとしている人はちゃんとしている。だけど、最近思うのが、みなさん意外と視野が狭い。それは実は、情報と関係があって、インターネットってすごくあらゆる情報の海に行けるというのが特性なんだけど、逆に言うと自分の好きなものだけ、自分の興味のある範囲だけをクリックしてリンクしていくという傾向が出やすいんですね。これはSNSなどを通して、あらゆる世代が陥りやすくなっているんです。自分の仲のいい友達は気が合うわけで、共通の話題があるわけですよ。でもそういう限られた交流の中で、視点が狭くなってきている。これは世代を越えた問題で、全世代で起きやすいんだと思います。

――狭くなりがちな視野を広げるためにはどうすればよいでしょうか?


山本直人氏: そこを突破できるかどうかという時に、本が重要だと思います。本は、別に紙でも電子でもいいんですが、ある人が1つのことについて書いた、まとまったかたまりになりますよね。かたまりというのは重要で、そのかたまりに対して、読者はどんな読み方もできるんですよね。批判してもいいし、賛同してもいい。その本に対してどう思っても自由なんです。1つのかたまりの本に接して、自分なりに頭を使うことがあると、全く新しい視点が持てるというのが、本と情報の違いだと思う。だとしたら、本は紙でも電子でもどっちでもいいと個人的には思っている。ただ、電子書籍はこれ、というデバイスがなかったようですが、今回Kindleが出た事で変わるんじゃないかなとは思っています。

偶然性や運も大事にしなきゃいけない


――こちらのパソコンは仕事用ですか?


山本直人氏: レッツノートを買ったばかりなんです。仕事をするときには、キーボードがないと話しにならないんですよね。レッツノートは前から使っています。通販で買うとちょっと高いんですけど、中一日で修理して宅配で往復してくれるんですよ。神戸の工場までいって、「エンジニアが確かにやりました」みたいなサイン入りで帰ってくる。だからすごく便利ですね。

2004年に会社を辞めてから7年以上ずっと使えていたんだけど、さすがにそろそろ壊れる前に変えようかなと思っていて。仕事をずっとこれでやって来たので、新しいPCに変えて仕事がうまくいかないとイヤだなと思っていたんだけど(笑)。新しいパソコンに変えて何カ月か経つけど、今の所、悪いことないからいいかなと思って(笑)。会社辞めるとね、結構どうでもいいことで縁起を担いだりしますよね。会社を辞めてからずっと初詣に行ってお札をもらっていたから、今年行かないと悪いことが起こるんじゃないかなと思って同じところ初詣行ったりしています。

――そういった縁起というのを大事にされていらっしゃるんですね。


山本直人氏: やっぱりね、サラリーマンの頃はあんまりこだわらなかったんですけど、自営業とか自分でビジネスをしている人って昔から縁起を担ぐじゃないですか。自分の実力とは関係の無いところで仕事が成り立つという事をすごく感じるからだと思うんですよ。偶然性とか運とか。そういうのも大事にしなきゃいけないんだろうと思いますね。

「情報」という概念を疑う


――電子書籍についてお伺いしたいと思います。電子書籍が今以上に普及していった時に、出版社はどうすることが必要だと思いますか?


山本直人氏: 情報という概念を疑った方がいいんじゃないかと思うんです。佐々木中さんの「切りとれ、あの祈る手を」(河出書房新社)って結構話題になったかと思うんですけど、再読しているんですね。これを読んで、「今まで本の事をちゃんと考えていなかったな」って思いましたね。その中に「情報とは何か」ということで、ハイデガーの「情報は命令である」という言葉を引用している。言われてみると、情報には命令という意味があって、インターネットで見ている色々な断片的な情報って、例えばグルメ情報であれば、「ここに行かないと、あなた、損しますよ」ということだし、天気予報で「明日雨が降るよ」って言ったら、「傘をささなきゃいけない」、「準備をしなさい」という命令なんですよね。だからバラバラな情報がどんどん入ってきていて、無数に色々な所から命令を受けている状態になっているんですね。

――本と情報は違うものということでしょうか?


山本直人氏: そうです。本を読むというのは、命令じゃないんですよ。それは電子でも紙でも変わらない。本を読む時は、さっき言ったように、ひとりの人が考えた物事のかたまりに対して、自分で自由に飛び込めるので、本を読んでいる時の人間は何も命令されていないんですよね。そう考えたときに、本と情報って本質的に違うと思うんですが、あらゆる出版社の人は今、情報に乗り遅れちゃいけないという形で、本を情報として再編成しようとしていると思うんですよ。そこに盲点があるのかなと思います。本を情報ってことにしちゃった時に、結局本が人々に命令を下すようになるわけだけど、そうしたら人々は自由に物事を考えられなくなってしまう。それは重要な感じがしますよね。

――考える余地を与えられるからこそ、本の意味があるということでしょうか?


山本直人氏: うん。極端に言うと、それ以外に何か意味があるのかというか。

筆者は読者を気にせずに書く必要がある


――電子書籍になった時の利点として、小分けに本を出版できるようになるかと思いますが、どう思われますか?




山本直人氏: それは連載小説だってあるわけだから、そういうものはあると思うんですよね。だから問題は、1つのかたまりとして捉えられるかどうかということで、そのための工夫は必要ですよね。1つのかたまり、1つのことについて、1人の人が書いたり論じたり語ったりしたことというのは、小説にしても何にしても同じなんですが、どれも「主題」がありますよね。音楽に喩えれば、主題はメロディーです。一方で、グーグルは新しい「楽譜」を発明したと思う。メロディーを断片化して、受け手がつないでいける。ただし、それは命令の集合体になるのではいでしょうか。
だから、電子書籍であれ本の場合は、その「主題」があり、1つのかたまりとして捉えられるかというのが重要になってきますね。

――電子書籍になって小分けにして出した場合、書き手の書き方は変わってきますか?


山本直人氏: 変わってくるでしょうね。今後重要になってくるのは、ネットもそうですが、読者の反応を気にするのかしないのかということでしょうね(笑)

――山本さんはその点をどう思われますか?


山本直人氏: 実は、気にしない方がいいんじゃないかという気がしますね。書きながら対話するというのは1つの方法だけど、読者の反応と関係なく書く人がいないと、新しく出てくる本の全てが、非常に中間的な物になっていく気がしますよね。読者の要望を聞くことを始めちゃったら、もの凄く画期的な小説とか成り立たなくなるでしょう。だから聞かない方がいいんじゃないかという気がします。その時代に受け入れられず、後から評価されたアートもある。逆にその場で意見を聞いて、その場ではウケたけど、結局残らなかったものもあるわけですよね。

著書一覧『 山本直人

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