世界各国に、お気に入りの本屋さんがあります
――先生は、本屋さんで本を買われることはありますか?
伊藤元重氏: 私は本屋に行くのが昔は大好きだったんですけど、いまはほとんどの本はAmazonで購入しています。でも、相変わらず本屋にはよく行っていて、本を大量に衝動買いしたりはしていますね。よく家内と近所の本屋に行くのですが、1回で10冊ぐらいまとめ買いしたりします。
あとは、海外に行ったときは確実に本屋さんに行きますね。世界の主要都市には、やっぱり何か所かいい本屋さんがあるんですよ。たとえば、「ワシントンだったら、この本屋。ニューヨークならこの本屋。ボストンだったらこの本屋」……とかね。それと、大学の近くにもいい本屋さんが多いので、ハーバードに行ったらそこのブックストアに行きますね。
でも、最近、日本では大型書店や駅の構内の本屋さんは売っている本やレイアウトが似ているでしょう? だからあまり面白みがないんです。そうした一般書店の均一化が進む中で、東大の生協の本屋さんはかなりおすすめですね。書籍担当者の目が肥えているのかもしれませんけど、やっぱり東大生が選ぶ本はおもしろい本が多い。彼らの好みが反映された本棚作りをしているから、結果的におもしろくなってるんじゃないかなと思っていますが。一度、お時間がある人は、ぜひゆっくり見ていってほしいですね。
一番有効な情報収集術は、実は自分で「書く」こと
――いまでは本だけでなく、テレビやラジオ、インターネット、雑誌などさまざまなメディア媒体が存在しますが、そんななかで先生が一番情報収集に使われている媒体はなんですか?
伊藤元重氏: インプットの情報源として一番多いのは本ですね。もちろんウェブの文章も読むんですけど。そのときに手掛けている仕事にもよるんですが、私の場合は、そんなに時事性の高いものを常に追いかける必要がないんです。言ってしまえば、一週間新聞を全く読まなくてもいい。
ジャーナリストの人ならばまた別だと思うんですが、私みたいに、研究者の時間軸で仕事をしている人たちにとっては、「橋下市長がこういうコメントをした」「アップルの社長がこんな発言をした」ということは、大事ではあるけれども、直接的にはそこまで必死に追いかける必要がないんですよね。
そして、私の場合、一番大切な情報収集は「自分でモノを書くこと」なんですよ。なにかを書く場合、その前に「調べる」という作業がすごく大事になる。だから、書きながら読み続ける。その繰り返しです。あとは、活字以外で足りない部分は、人と交流して、そこから情報を引き出す。これもすごく大事なことだと思います。
手に入るときは、極力本は紙で読むようにしています
――続いて、電子書籍のお話をさせていただければと思います。現在、先生は電子版も紙も両方読まれていらっしゃるようですが、いま、読書比率として、紙のものと電子のものだとどちらが多いんでしょうか?
伊藤元重氏: 電子も紙も、どちらも同じぐらい購入していると思います。ただ、紙でも電子でも両方どちらでも読める場合は、私は紙で読むことが多いですね。やっぱり古い人間ですから。そして、そもそも、専門書の場合、電子版はとても手に入りにくいんです。電子版だと値が下がってしまうからなんでしょうか、私が読みたいと思ういい研究をしている専門家たちの本は、依然として紙が多いですよね。
もっとも、最近は日本版のAmazonでも洋書はラインナップが結構充実していますから、洋書でも注文してからそんなにタイムラグが発生しない。だから、読みたい本を探してみて、紙版があれば、そちらを購入するようにしています。そして、もしも電子版でしかない場合は、Kindleで購入しています。
ただ、最近は、紙だと本が読めない環境も結構多いんです。毎日、パソコンや大きな手帳を持ち歩いているので、鞄に本が入りきらないんですよ。そういうときに、Kindleが一台あるととても楽です。以前だったら、2週間アメリカに出張に行くとなると、前の晩になると「どの本を持っていこう?」と悩んで、読みたい本をスーツケースに詰めていたんです。でも、いまはなにも考えずにKindleを一台持っていけばいい。そうした手軽さがあるので、電子版で本を読むこともとても多いんです。時間の割合で言えば、多分紙と電子はフィフティフィフティじゃないでしょうか。
本が多すぎて、家内にはよく怒られています
――お話を伺っているとかなりの読書家とお見受けします。紙で購入した場合、本はどうやって所蔵してらっしゃるんですか?
伊藤元重氏: 家はものすごい状態です。だから家内にはよく怒られるんですけど。いまは、自宅や大学、研究室などいろんなところに本が散らばっているんですが、とにかくものすごい量になってしまってますね。
――自炊など、お手持ちの本の電子化をご自分でなさったたりはしますか?
伊藤元重氏: 自分ではやらないですね。ただ、先ほどお話したように、専門書は電子化されていないものが多いんです。だから、どうしても自分にとって大事な本や資料はいつでも持ち歩いていたいから、PDFでコピーしてもらって、パソコンの中に入れて保存しています。
私の同僚の東京大学の先生のなかには、「研究室がキレイなほうがいいから」と言って。
自分の持っている重要な専門書を全部データ化してしまって、本のほうは捨ててしまっていますね。多分、40~50冊ぐらいだと思うんですけど。
――家が広い人はいいと思うのですが、どうしても収容スペースがなかったり、いつでも持ち歩きたい…と思って、自ら本を自炊する人は多いと思います。先生の紙の本を自分たちで電子化する人たちについて、どう思われますか。
伊藤元重氏: それは、構いませんけどね。コピーして、売られたりするようなことがなければ、いいんじゃないでしょうか。別に、「紙じゃなければ読んでほしくない」というような、こだわりは特に持っていませんから。
実際、私自身の本もいくつか電子版で出ていますね。あと、これは電子書籍ではないんですが、漢検の過去問に挑戦できるiOS向けアプリ「漢検に挑戦」などを販売しているイマジニアという会社があるんですが、そこで電子媒体を意識した経済関連コンテンツを作っていて。先日、そのなかにある「経済史クイズ」という経済史が学べるクイズの監修協力をしたんです。電子だからカラーも使えるし、グラフも自由に使える。あと、クイズなども間違えたら「ブー」と音が鳴ったりと、紙ではできないことにいろいろ挑戦していて、可能性はいろいろあるな、と思いました。
――たしかに音や拡大できるグラフなどは、紙ではできない電子書籍ならではの醍醐味ですね。今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
(聞き手:沖中幸太郎)
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