大切なのは、自分の幸せを見つけること。自分を満たせば、たくさんの幸せがこぼれていくんです
職業は「質問家」。「やる気」と「能力」を引き出す質問の専門家、マツダミヒロさん。カウンセリング・コーチングの理論をベースに、自分自身と人に日々問いかけるプロセスを集約し、独自のメソッド「魔法の質問」を開発。2004年から開始した日刊メルマガ「魔法の質問」は、クチコミで人気が広がり、読者は毎日2万人。質問を投げかけ、参加者が答える「魔法の質問ライブ」を軸に、日本全国・海外で年間200件以上の講演を行う。『子どもが「やる気」になる質問』(サンマーク出版)、『しつもん仕事術』(日経BP社)など著書多数。ボランティアとして全国の学校を訪問し、「魔法の質問の授業」も行う。質問家の仕事とは、人生観を変えた出来事や影響を受けた本について、お聞きしました。
質問に答えると、魔法にかかったような変化が起こる
――お仕事は「質問家」とのことですが、どのような仕事か、ご紹介いただけますか?
マツダミヒロ氏: その名の通り「質問する」ことを仕事にしています。例えば会社の経営者、管理者などに質問をして答えていただくことで、その人の考え方や行動が変わって、結果売り上げが伸びたり、組織のパフォーマンスが良くなるなど、そんなお手伝いをしています。「何かやりたいことを見つけたい。どうすればいいか」と悩む人たちに質問をすることで、やりたいことや、進みたい道を見つけるきっかけ作りをする。一方で、全国の小・中学校や高校に行って、ボランティアで子どもたちに質問の授業をしています。質問の授業を通して、「僕はこんなことをやりたいのかな」というような夢を見つけられたり、何か目の輝きが変わったり、自ら宿題をするようになったり、部活などで練習するようになったり、子どもたちにそんな変化があればいいなと思っています。この二つが大きな柱で、あとは、質問に関する本を書いたり、僕と同じように質問しに行く人を養成する講座を開催したりもしています。
――「質問すること」をお仕事にしようと思われたきっかけは何ですか?
マツダミヒロ氏: この活動を始める前、いろいろな人から質問をされたんです。「それって本当にやりたいの?」とか「どうすればうまくいくんだろうか」とか。そういう質問に答えていくと「あ、そうか」って、自分が今まで気づかなかったことをたくさん発見できた。その時に自分の考えや気持ちが変わったり、テンションが変わったり、何か魔法にかかったような変化があった。それで、「質問って面白いな」と思ったんです。質問に答えると魔法にかかったようになるから、「魔法の質問」という名前をつけて何か発信してみようと思ったのがきっかけでした。
――それまでは、別のお仕事をされていたのですか?
マツダミヒロ氏: デザインの仕事をしていて、ホームページやテレビコマーシャルを作っていたんです。それはそれでやりがいはありましたが、自分に「お金をもらえなくても今の仕事ができますか?」と質問をした時に「無理だ」と思ったんですよ(笑)。自分で選んだ仕事をしていて無理だっていうのも変な話で、じゃあ何がしたいんだろうと考えた。過去を振り返って、どんな時が楽しかったか、どんなものにエネルギーを注げるかと考えた時に、僕は東北芸術工科大学の最初の卒業生だったんですが、後輩たちがいろいろと相談に来るんです。その中で話を聞いてあげて、「これからどんなことをしたいの?」とか、「さらにどんなことをするといいと思う?」と質問すると、みんなすごくやる気になって帰っていく。それが面白かったなと思い出した。そんな仕事がもし世の中にあるとしたら、お金をもらわなくてもやりたいなと思っていて、タイミングが来たので始めたという感じですね。
『お金のいらない国』みたいな世の中が作れたら・・・
――普段の、いわゆるデスクワークはどんな場所でされますか?
マツダミヒロ氏: デスクワークは移動中か、カフェかな。拠点は山形ですが、全国各地で講演があるので、事務所で作業することがないんです。
――飛び回っているんですね。何か仕事術みたいなものはございますか?
マツダミヒロ氏: 空き時間で何をするか決めるんですが、例えば次の電車が5分後に来るなら「5分でできることリスト」の中からチョイスして、1分時間があったら「1分でできることリスト」から選びます(笑)。
――リストがあるんですか?
マツダミヒロ氏: 頭の中にあるんです。10分なら「10分でできることリスト」があって、移動も1時間バージョンと3時間バージョンの移動があるので、その時々でやることが変わります。例えば、待ち合わせで相手が遅れてくるとします。「何分ぐらい遅れてきますか?」と聞くんですが、別に早く来てほしいから聞くのではなく、僕がどのリストをやればいいのかを確認するためなんです(笑)。それで「10分です」と言ったら、これができるなと、という感じです。
――怒っている暇はないといった感じでしょうか?そういったお考えは、昔からですか?
マツダミヒロ氏: 怒っても何も事実は変わらないので(笑)。僕はメールマガジンを8年前に始めたんですが、毎日継続させるためにはどうしたらいいか考えたんですね。最初は頑張らないとできない状態でしたが、慣れてくると10分あればできるようになった。継続するためには、10分の空き時間を見つけることがポイント。だから、空き時間探しにすごく敏感になったと思うんです。
――移動中や空き時間に読書はしますか?読書はどのくらいの時間リストに入っているんでしょうか?
マツダミヒロ氏: 読書もしますね。30分のリストかな。「読む」モードの場合は30分で、この本から何か情報を取りたいなという場合は5分の時もありますね。本の使い方は、情報を取る方が多いと思います。
――どんなジャンルの本を読まれますか?
マツダミヒロ氏: ビジネス書が多いです。小説もたまに読みますが、ウェイト的には少ないです。僕、本を読む時に自分に質問するんです。「この本を読んだ後にどうなっていたら最高ですか?」、「この本から得たいものは何ですか?」って。そうすると何を得ればいいのかがわかる。例えば200ページの中から、今日はこの要素が必要というのがすごく明確になるので、読むのが速くなるんです。読むというよりもサーチですね。
――マツダさんに影響を与えた本はありますか?
マツダミヒロ氏: 長島龍人の短編小説で『お金のいらない国』(ネットワーク地球村)。あのシリーズが大好きで、あんな世の中を作りたいなと思うんですけど(笑)。僕の活動の中で、少し実験というか、チャレンジしていることがあるんです。一般的には、ものを頼んだり、仕事を一緒にしていくときに、「じゃあいくらでやってね」って必ずお金で解決しますよね。逆に自分が何かを提供した時にもお金をもらうわけです。僕は、まずは自分が提供するものにお金を発生させないことにした。すると、それが広がっていくんですね。僕は全国各地で講演をしますが、運営にお金が発生しないんです。別に全国各地に社員がいるわけではなく、各地の方が講演を手伝ってくれるんです。「手伝ってあげたいな」と思った人がやってくれている。それは、こちらが提供しているから。だから、僕たちの会社やチームの人数がすごく少なくても、すごく大きいことができるんじゃないかなと思うんです。
――対価としてのお金を求めていらっしゃらないんですね。
マツダミヒロ氏: 具体的な話でいうと、僕と同じ「魔法の質問」の講座を開くことができる認定講師がいて、講座を開いていいよということになるんですが、普通はそこでライセンスフィー(利用許諾料)が発生するんですよ。僕は、ライセンスフィーもいりません、勝手にどうぞみたいな感じ(笑)。そこはお金をもらっていない。その人が五千円でやろうと一万円でやろうと自由にどうぞという感じでやる。するとみんないろいろ手伝ってくれるんですよね(笑)。当初は何も考えていなくて、自分が逆の立場だったら一番やりやすい方法は何かだけを考えて、自分だったらこれがいいなと行き着いたんです。
ゴールはどこか?ゴールはいつか?
――電子書籍についてお聞きしたいんですが、書き手として電子書籍はどんな変化をもたらすと思われますか?
マツダミヒロ氏: 「より多くの人に届く」に尽きると思いますね。コストも安くなります。例えばiPhoneのアプリって85円くらいで買えるじゃないですか。1000円は出せないけれど、85円だったら出せる人はすごく多いと思うんですよね。
――85円というのは、ほとんどタダみたいな感覚ですが、それでもいいと思われますか?
マツダミヒロ氏: いいですよ。僕はよく「ゴールはどこか?ゴールはいつか?」という質問をするんです。著者の立場で「本を買ってもらいました、それがゴールです」だと言ってしまうと、それは大変ですよね。ちゃんと1000円で売ってくださいという話になりますが、そこはゴールではなく、スタートなんです。お客さま、読者と僕のいい関係を築く第一歩。僕は本を出したいのではなく、本を通して自分の理想の世の中ができたらいいと思っている。そのための活動をいろいろとやっているわけです。本を出すのも、メールを出すのも、講演会をするのも、商品を作るのもそのため。「この人はこういう考えで、こういうことを伝えているんだ」ということに共感したら、私もここに行きたい、これを作りたい、一緒にやりたい、体験してみたい、という人が出てくると思うんです。すると、僕たちがやっている活動を手伝ってくれる、活動に加わって一緒に楽しんでくれるきっかけになるなあと思って。本を買ってもらって終わりではなく、そこがスタート。
――読者のみなさんが、マツダさんの書籍を裁断し、電子化されることについては、どう思われますか?
マツダミヒロ氏: ただうれしい(笑)。電子書籍をもっと出していった方がいいのかなって思います。
――マツダさんご自身もブックスキャンをご利用いただいているとか。
マツダミヒロ氏: 僕は本をたくさん持っていて、随時いろんな人にあげていたんですが、あげるには至らないというか自分の手元に一応置いておきたい本が1000冊ほどあるんです。捨てるに捨てられないし、どうしようかと思って。で、ブックスキャンだなと(笑)。情報が必要なときに検索もできますしね。
シャンパンタワーの法則
――マツダさんにとって、したくないことって何ですか?
マツダミヒロ氏: 僕は、一人でも多くの人が、その人らしく生きていける世の中になったらいいなと思うんですよね。それが僕の目指すところ。昔、僕が前の仕事をしていた時、すごく頑張ってがむしゃらにやっていたのに、全然成果が出ない時期が長かったんですよ。この仕事にシフトしてから、力を抜いて自分がいいと思ったことをただ単にやっていく、そうするとうまくいくことを発見して。要は、自分が好きで、得意で、人から求められることをやればいいと思うんですが、そんな人が一人でも多くいたら。Aの作業が得意でBの作業は苦手な人がいる、その一方で、Bの作業が得意でAの作業は苦手な人もいる。そういう人たちがチームを組んでやっていけたらいいなと思うんです。それが僕の行き着きたい場所。そこに向かうのが「やりたいこと」で、そこに向かわないものが「やりたくないこと」です。
――お金が基準ではない。
マツダミヒロ氏: この仕事を始めた2003年ぐらいは本当にお金がなくて、どのくらいないかというと、1日数百円はあるかなぐらいな感じ(笑)。前に立ち上げた会社をいろんな事情でやめることになって、その時の負債も結構あったので、支払いばっかりだったんです。で、まず何をしたかというと、生活レベルをいきなり下げたんです。ほとんど支出がないような状態で暮らした。でも、すごく楽しかったんです。そのおかげでちっちゃい幸せをたくさん見つけることができました。例えば、山形には温泉がたくさんあるんですが、50円で行ける温泉もあるんです。そこで、みんなが働いている時に、平日の昼間から温泉にのんびり入って「いやあ、なんだか幸せだね」みたいな話をするわけですよ。お金と幸せ度数は全く比例しないことが発見できた。お金があっても幸せじゃない人もいるし、お金がなくても幸せな人もいる、それなら何のために働くんだろうと考えたんです。で、「お金じゃないのかな」と思って。
――お金がなくなって、お金に執着しなくなった。
マツダミヒロ氏: 最初は執着してましたよ。でも、執着しても現状は変わらないので、幸せを見つけること、楽しさを見つけることを大事にしたという感じですね。大切なのは、自分の幸せを発見すること。あと、僕が講座で伝えていることに「シャンパンタワーの法則」ってあるんです。シャンパンタワーって、一番上から注ぐじゃないですか。その一番上を自分自身と見立てるんです。2段目を身近な人たち、家族などに見立てて、3段目を友だちとか一緒に働くスタッフ、4段目をお客さまと見立てるんですね。そのときにどこからエネルギーを注いでいくかと考えると、例えば、とりあえずお客さますべて=売り上げすべてを優先すると、4段目から満たす。お客さまも大事だけど、一緒に働いている人たちも大事だよねと考えると3段目から注いでいくことになって、家族や身近な人たちの幸せも考えるとなると2段目から。でも全体は完成しない。全体を完成させるには、やはり一番上から注ぐ必要があります。一番上のグラスが自分自身のグラスで、自分が満たされていないと、そこから下を満たすことはできない。満たすときも全部降り注ぐのではなく、あふれた分だけでいいんです。自分がいっぱいだからこそ次を満たせるし、満たしていけば、たくさんの幸せがこぼれていくんです。
――最後の質問ですが、マツダさんにとっての読書、本はどんな存在ですか?
マツダミヒロ氏: 本は今までの世の中が凝縮されたもの。今日までの世の中で、いろんな人がいろんな経験をしたものがぎゅっとそこに凝縮されていると思うんですね。イマジネーションもそうだし、実用的なものもそう、知識もそうだし。それを100円でも1000円でも5000円でも、値段は様々ですけれども見ることができる、得ることができるのはすごくありがたいことだと思います。作家さんたちの頭の中で描かれたものに触れることができるわけじゃないですか。それは楽しいことですね。
――マツダさんの本にしても、考えに触れることができるわけですね。読者へのメッセージをいただけますか?
マツダミヒロ氏: 僕の本には、ほとんど問いかけが入っているんです。読むというより答えてほしい本なので、この質問が気になるなとか、答えてみたいなとか、もしくは絶対答えたくないなと思ったときに、答えを出してみてほしいですね。すると変化が起きて、変化は成長につながるかもしれません。ぜひ、質問に答えてみていただけるとうれしいですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 マツダミヒロ 』