読書のアクチュアリティを追求する
小山龍介さんは、新規事業プロデューサー、コンセプトクリエーターとして活躍するかたわら、仕事の効率や生産性を高めるライフハックの著書『IDEA HACKS!』『整理HACKS!』などを出版しています。電子書籍の刊行物も多数出版し、自らもスキャン作業をして本の電子化を行っているそうです。新しい時代の読書について、「哲学」や「能」などとの関連を交えながら、お話を伺いました。
既成概念を壊すことが仕事
――普段、お仕事ではどんなことをされているのですか?
小山龍介氏: 新商品のコンセプト作りや、新規事業を立ち上げるサポートをしています。コンセプトを提案することもありますし、ワークショップを通じて一緒に作っていくことも多いです。その場合は、ファシリテーターという立場で関わります。
――小山さんが関わられた商品をお伺いしてもよろしいですか?
小山龍介氏: コクヨS&Tさんとハック手帳やハックノート、サッポロビールさんでは青いワイン「ブルージュエル」やワインシャーベット、健康系のワイン「お酢とカシスで甘酸っぱいスパークリングワイン」などを開発しました。
新商品開発で重要なことは、これまで当然だと思っていた既成概念を壊すことです。たとえば、青いワインや、ワインとお酢を混ぜるというのは、ありえないとされていたことだったのですが、そうした禁止事項をあえて破ったところに、新しい製品が生まれました。
書籍のハックシリーズも、仕事のやり方について、既成概念を壊す目的で始めました。「当たり前」と思われているところにこそ、イノベーションの可能性がある。ライフハックは、仕事のプロセスイノベーションなんです。
電子書籍用デバイスは、iPad miniが最適
――小山さんと電子書籍の関わりについて伺いたいと思います。現在、電子書籍は利用されていますか?
小山龍介氏: よく使っています。日本のAmazonでもKindleサービスが始まり、できる限りKindle版を買うようにしています。紙の本は、ドキュメントスキャナーScanSnapでスキャンして、そのデータを持ち歩いています。
――ご自身で本をデータ化するためのスキャン作業をされているんですか! 今まで、どのくらい自炊されましたか?
小山龍介氏: 900冊ぐらいです。でもやっぱり自分で作業するのは手間ですよね。スムーズに行けば全然問題ないのですが、スキャンをしていて紙を吸い込んだりとか、2枚重なってしまったりすると、すごい時間がかかります。
――本を電子化することに関しては、どんな印象をお持ちですか?
小山龍介氏: 電子化によって紙の本が売れなくなる心配をしている人も多いですが、実際には、紙の本であっても、売れ行きを促進する面が大きいと思います。
読書好きの人は、本棚のスペースがボトルネックとなって、本を買えずにいます。電子化することで、そうしたボトルネックを取り除くことができるからです。紙の本のスキャンも許可して、読者にどんどん電子化してもらえば、それだけ本棚のスペースが空き、さらに本を買ってもらえる様になると思います。
――小山さん自身の著作に関して、ユーザーがスキャンをすることはどう思われますか?
小山龍介氏: もう僕自身は、どんどんやってもらって構わないと思っています。しかし、出版社の方では、また別の意見をお持ちだろうし、その辺はややこしいですね。でも、時代には逆らえないですよ。
――スキャンしたデータをご覧になるときや、販売されている電子書籍をご覧になるときは何の端末でご覧になりますか?
小山龍介氏: iPad miniがベストですね。大きさ、軽さ、バッテリーの持ち、すべてにおいて最適だと思っています。
――今後デバイスに期待することはどういったことですか?
小山龍介氏: 軽くというのが一番大きいです。今のiPad miniの大きさで、さらに軽くなっていくといいですね。
出版社に今後も求められる二つの機能
――電子書籍では得られない紙のメリットは、どのようなことだと思われますか?
小山龍介氏: 読書体験で言うなら、紙の本は電子デバイスで読んでいるときと全然違うんです。マクルーハンは、透過光と反射光の違いだと指摘しています。画面から光がやってくる透過光は、脳が映像やイメージとして捉えるので、細かなところに注意が向きません。紙などの反射光は逆に、細部にまで注意が行きます。
パソコンの画面では気づかなかった間違いに、プリントアウトすると気づくという経験は誰もがあると思いますが、それは透過光と反射光の違いによるものです。
だから哲学書などの難しい本は、間違いなく紙でないと読めないですね。集中力が必要だからです。
――そういった中で電子書籍として発売されることを想定しての、書き手側の変化というのはありますか?
小山龍介氏: 手書きで書くメモ、Twitterへのつぶやき、ブログへの投稿、本にすることを前提にした執筆、媒体によって書く感覚ってまったく違うんです。
電子書籍の場合、執筆がTwitter的なものに置き換わってくるかもしれません。より即興性のあるリアルタイムなものが、電子書籍として受け入れられる可能性は高いと思っています。
ただ、これを「本」と呼ぶのか、疑問です。本来、本とは束ねて1冊にしたものです。「冊」として綴じられたものを指すわけです。つまり、時間を止めることなのです。Twitterのように、即興的に紡がれて、それがさらに永遠に続いていくようなものとはちょっと趣が違いますよね。
綴じるということで、そこで一旦時間も綴じてしまう「本」の感覚というのは、執筆にも大きく影響していきます。電子書籍であれば、簡単にアップデートできるという点で、綴じるというよりも、区切りをつける感覚に近くなるんじゃないでしょうか。
――今後電子書籍が出ることによって、出版社の果たす役割や目指すべきことは、どういったところだと思いますか?
小山龍介氏: それはドラッカーが言ったように、究極は新しい顧客を創造するということだと思います。「イノベーション」と「マーケティング」です。このふたつの機能は、外注されずに企業内に残ります。同じことが出版社でも言えて、新しいコンテンツを生み出すイノベーティブな編集機能と、その本を世の中に伝えるマーケティング機能は、出版社が提供することになるでしょう。
著書一覧『 小山龍介 』