福島哲史

Profile

慶應義塾大学文学部哲学科卒。講演・研修、企画を中心に、企業や舞台のブレーンとして活躍、広く、各界へ、さまざまな提言および、表現活動、プロデュースを行なっている。特に発想企画、創造性開発、感性・表現力などを中心に、これからのビジネス手法やクリエイティブな仕事術について、高い評価を得ている。一方で、ライフワークとして、20年来、声のトレーニングを研究所とスタジオを経営しつつ、自らも15名のトレーナーと指導と声の研究を続けている。著書は、「感性がもっと鋭くなる本」、「集中力がいい人生をつくる」など100冊を超える。

Book Information

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自分の知らない世界と「声」を交わして、人は大きくなる



福島哲史さんは、株式会社オフィスヴォイス代表取締役として、企業や舞台、エンターテインメントのブレーンとして活躍、また、長年、ライフワークとして声のトレーニングの研究所を運営されています。著作としては、仕事術、自己啓発、感性や創造力開発などをビジネスマン・一般向けに、また声のトレーニング関連でも音楽・舞台関係者向けに、合わせて100冊以上の本を出されています。福島さんに、出版業界の展望や、今後の言論活動における「使命」などについてお話を伺いました。

「マーケティング」と「ロックヴォーカル」の本で、ほぼ同時に作家デビュー


――福島さんは、ビジネス書のほか音楽関連など多彩な著作がありますが、はじめに執筆されたのはどのジャンルなのですか?


福島哲史氏: 出版に関しているなら、老舗の中央経済社というところから出した『フューチャーチャネリング-感性で読むマーケティング』がデビュー作です。私の講演を聞いた編集者の方がまとめてくれました。そして、同年、関わりのあった音楽出版社からロックヴォーカル向けの声の本を出しました。そのころはいろんな企業の企画のブレーンをやっていました。若かった上に、ロックの本を出していると取引先の企業での信用が下がり、ビジネスに関わっていると声のトレーナーとしての信用が、なぜか日本では下がるので名を分けていました。それが2000年頃になると、研究所にヴォーカルではなくて、だんだん声優さん、役者さん、それから一般のビジネスマンが来るようになって、声のトレーニングを一般のビジネス書で書いてくれという依頼が増えて、ニーズが混じってきたんです。おかげで二つの出版社では両方の名前で書くはめになりました。ペンネームや芸名を使い分けているのは、作家と大学教授やビジネスを兼ねている人にはみられることです。

――様々な仕事を両立させ、またその手法を提唱されていますが、仕事術のアイデアはどのようにして生まれましたか?


福島哲史氏: 仕事術の本は、もともとは、先のデビュー本があまり売れなかったのを別の出版社の社長に「そんないくつも仕事を掛け持っているんだったら、その毎日の処し方を書いて」と言われたんです。そのほうがビジネスマンに役立つということで。それが『究極の手帳術』という本で5万部ぐらい売れた、ひょうたんからこまです。そのせいで、仕事術路線がひかれ、結果として毎年、5、6冊書くことになりました。今の手帳ブームを、先駆けてやっていましたね。日本語での声とことばのレッスンの本などは、大ベストセラーとなった齋藤孝さんの『声を出して読みたい日本語』の5年前に出していました。だから僕の場合は、本というのは、そのときどきの仕事の必要にせまられたものを自分なりにまとめたりしながら、そのまま出してきましたね。ただ世の中の歩みより、いつも三歩ほど早いので(笑)。

――お仕事の中では、ヴォイスコミュニケーションに関する業務が異色ですが、きっかけはどのようなことですか?


福島哲史氏: それまで日本の研究所といえば理工学系の人が経済的なところでもトップだったんです。ところが、だんだん物よりも心の豊かさなどが求められるようになると、人をどうやって集めるか、人をどうやって感動させるかというようなことが問われるようになってきました。当時は、企業が入社式をイベントセレモニーにしたり、運動会を大規模にしたりしていました。それはエンターテインメントのノウハウなんですよね。首相が竹下さんのころ、「ふるさと創生事業」があり、市区町村に1億円給付して箱物、ホールだけは作ったけど、ソフトがなかった。それで、自分のやっていることがそのまま企業に使えると一気に引っぱられたのです。色々な博覧会などもあったし、全国のテーマパークも回りました。今はそのほとんどがつぶれましたが(笑)。そういうなかでソフト、人と人を書くことや話すことでつなげることの重要性を説いてきました。特に日本人には苦手な音声でのコミュニケーション能力の強化法が、ロックに限らず歌手や俳優の声のトレーニングと結びついていったのです。

内容が浅くなる本。「3週間でできる」が「1分で変わる」に。


――多数の本を執筆されている福島さんから見て、以前の本と最近の本ではどのように変化しているでしょうか?




福島哲史氏: われわれのころから言われていたとは思いますが、ビジネス書では、どんどん内容が浅くなってきていますよね。自分の本さえ、本で求められるものは薄くなっている。昔は、それなりに理論的で、独創性がなければ出版できなかったんです。戦前の方々の文章とか本を読むと、1冊に、想いが一生分詰まっていますよね。編集者もレベルが高かったし、きちんとした本じゃなきゃ売れないから、すごく質のよい、職人技みたいな本を作っていた。一方で、僕はそれに反発して、ビジネス書に関しては週刊誌的な扱いでもどんどん回転していけばいいだろうと考えていました。それはそれで一つの考え方だったと思いますが、あまりに行き過ぎた気もします。良くないなとも思っています。

――福島さんが本を出されるようになった1990年ころからの出版界の変化は、どういった変化だったんでしょうか?


福島哲史氏: ビジネス書は専門書をわかりやすく一般的に読めるようにしてほしいというニーズに応じたものだったのです。当時、語学書などがビジネス書で出てヒットしていました。僕はMacintoshの本も書いたんですけど、それは自分がマックを使うのにすぐに役立つ本がなかったからです。ニフティやザウルスの本も、睡眠も感性や集中力の本も、そういう能力や知識が自分の仕事に必要なのに、見合う専門書がなくて、自分で研究して自分に使っていたらそれが本になっただけです。今で例えるとタニタの社員食堂のレシピ本みたいなものです。たとえば、睡眠時間がとれないほど多忙だから睡眠を専門書で調べざるをえなくなった。すると、動物実験、あるいは時下や事故といった特殊な事例、しかも海外の古いものしかないのです。人体実験が許されないからです。それなら今の自分のおかれている過酷な実体験から、ノウハウを導いた方が、そして医療の専門家にチェックしていただいてつくったものの方が、ビジネスマンや一般の人には役立つでしょう。ただ、当時は、そのような本にも、自分の仮説なり理論なり思想を入れていたんです。その部分は、今なら、だいたいカットされちゃうんですね。手帳や声の本でも、能書きっぽいもの、精神論的なもの、思想、信念から出てくるものからカットされる。テレビ的になってきているのです。今日からすぐ使えるノウハウやメニューだけ教えてくれ、みたいな要求がある。昔なら「3週間でできる」というタイトルの本が、今や「1週間でできる」、「1日で変わる」、「10分で変わる」、「1分で変わる」みたいな感じでしょう(笑)。

――そのような「メニュー」だけの本が、読み手にどのような影響を与えたのでしょうか?


福島哲史氏: 他人のメニューやノウハウはテンプレートみたいなものです。それをとっかえ、ひっかえしていても、自らの基準を得て、自ら材料をくみたてて創っていくということへつながらない。つまり、根本的な成長がないということですね。思想を知っていたら、そこから環境に合わせて自分なりの方法とかメニューを作って対応していけるわけです。本当の仕事の力というのは、そこに当たるんです。私の書く本は、「答え」が書いてあるわけじゃなくて「問い」です。僕も買う本には、答えは求めていなくて、自分に問いかけてくる、あるいは問いを作ってくれる本を求めている。読み終わった後に、「わからなかった」で全然構わないんです。正解自体があるわけはないし。自分には、何かしらわからないものがあるとか、自分に見えていない世界が、現実にもこんなにあるんだということに気づくことが大切なんです。本でも映画でも演劇でも、わからないものだと、若い人は「だめな本だね、ひどい映画だね、俺全然わからなかったよ」ってけなすんだけど、わからなかったからこそ意味があるんですね。60代の監督の演劇とか映画を、若い人が見てわからなかったとして、間違っていたり、おかしいわけじゃない。自分がその成長レベルに達していなかったり、60代の監督たちと同じ時代に育ったり、60代にならないとわからないものって、世の中にたくさんある。だからそういったものを認め、取り込まないと、自分は変わらないですよね。自己肯定や共感ばかりが強くなりすぎた。人づきあいも同じです。異質なものに触れるから、自分が成長する。そのきっかけを与えたり勇気を促す最高のものの一つが本だったのに、残念なことです。

著書一覧『 福島哲史

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