福島哲史

Profile

慶應義塾大学文学部哲学科卒。講演・研修、企画を中心に、企業や舞台のブレーンとして活躍、広く、各界へ、さまざまな提言および、表現活動、プロデュースを行なっている。特に発想企画、創造性開発、感性・表現力などを中心に、これからのビジネス手法やクリエイティブな仕事術について、高い評価を得ている。一方で、ライフワークとして、20年来、声のトレーニングを研究所とスタジオを経営しつつ、自らも15名のトレーナーと指導と声の研究を続けている。著書は、「感性がもっと鋭くなる本」、「集中力がいい人生をつくる」など100冊を超える。

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本の賞味期限が短くなり、よい編集者がつぶされる


――求められる本が変わったことで、出版社や編集者にも変化はありますか?


福島哲史氏: 僕は編集者に育てられたという程じゃないけど、編集者に本の内容を吟味してもらったり、表現を変えてもらったりすること自体が勉強になっていたので、何でも引き受けていたのです。今は編集者の方が年下になって、こっちが書いた通りに出版されてしまう。仕事で実践することと、書物として伝えるというのは、別の技術ですよね。本というのは、新しい場所を切り開くようなところがあるんです。だから、声のトレーニングでも、アンチエイジング、語学、小中学生の教育と、現実の実践の延長上に、コラボレーションできる。出版社には、そういうものを本という形に企画する力、編集する力があり、売る力がある。それらがだんだん著者、さらに読者の方に一方的にゆだねられているような気もしますよね。これは商品の流通に似ていますよね。メーカーが強い時代から、流通が強い時代、そして、消費者が強い時代になる。今はネットで盛り上がってバーッと売れていく。テレビも出版、新聞も、これまでの仕掛けがだんだん通用しなくなってきた。自ら賞味期限を短くしてしまっている部分はありますね。

――本の売れ方、売れる本にも変化が起こっていますか?


福島哲史氏: 以前と違って勝ち組と負け組がはっきりしてきた。売れる人の本は売れて、売れない本と両極になって、その周りにいたようなサブカルチャー的な人たちがなかなか出ていけないように思っています。昔は、3万部、5万部をコンスタントに売って、講演で食べている人が少なくなかった。1冊書いて2ヶ月食べられたけど、今はたぶん1冊書いて1、2週間食べられないんじゃないですか。以前は新刊本が11ヶ月ぐらいは書店にあって、1ヶ月ぐらいは平積みになっていた。年に10冊ぐらい出していた時もあるんですが、8冊ぐらいはどこの書店でも並んでいました。今なんか1週間たたないうちに消えてしまいますからね。いわゆる時間をかけて育てていくような著者とか、最初は読者に理解されないけど新しい才能のあるような人たちが、伸びることができない環境になってきている感じはありますね。出版社は増刷しないと利益が出ません。お互いに売れない本を出すと評価が下がって次に出せなくなるので、そこそこ安全に売れるような本ばかりになった。

――福島さんが関わった、いわば「古きよき編集者」はどこへいってしまったのでしょうか?


福島哲史氏: よい編集者はたくさんいたんですけど、有能で転職や独立した人も少なくありません。まじめな方にはうつになった人もいます。社員がみんな働いている中、平気で休暇を取るような人は生き残りましたが(笑)。市場縮小のなかで、編集者は売るという重い責任を負って、部下はリストラされ、その分の仕事を全部抱え、期限はいつもギリギリ、パソコンでレイアウトから装丁デザインまで一人でやらなくてはいけなくなった。コンスタントに無理をして、つぶれて仕事できないでいる社員と、遊びながらもたまにヒットさせて生き残っている社員のどっちが働いているのかなどといっていましたが、今となると、どちらのタイプも出版社にはいられなくなりましたね。

電子書籍のメリットは、「機能性」と「オーダー生産」


――出版界では、電子書籍、電子出版の登場が変革をもたらすといわれていますが、電子書籍はどのような存在になるでしょうか?


福島哲史氏: 著者が書いてすぐに電子書籍として流せば、出版社を通さなくても売れますよね。ネットで100円ぐらいで売っても本の印税と同じ収入になります。今までの書籍では、著者は印税を定価の1割くらいをもらっていたわけですね。どちらにしても本の収入というのは、著者の労力、支出、そして作品の価値などと全く関係がない(笑)。紙を束ねたモノとしての原価に流通費などをのせて定価にして、それがいくつ売れたかのパーセントでしたから。実際僕のところに来た話では、電子版では1冊300円ぐらいで売り、印税何十パーセントっていうんですけど、紙版よりも売れない場合が多くて、ほとんど成功していないですよね。そうすると今までの印刷物のように原価がかかっていたほうがその1割の収入でも多かったということもいえます。もう一つは、モノとしての価値、ビジネス書は装丁が簡単になっていますけど、それでも、モノとしてあると愛着心がもてる。LPのレコードを持っていて、すり切れていくんだけどジャケットも持っていてファンだという人と、ネットでダウンロードしてファンだという人の、愛着度の違いって絶対あるでしょうね。

――それでは、電子書籍の優位点と言うか、メリットはどこにあるでしょうか?


福島哲史氏: どこでもいつでも見られるというところは、電子出版のほうがいいでしょう。辞書、事典は、一番早くネットにとってかわられましたね。いつでも取り出せるとか、編集して自分だけに役立てるとか、雑誌の切り抜きとか、情報や知識はデジタルに限る。思想書などと、ビジネス書もそういう点では、根本的に考えるためのものと、仕事や生活に日々使うようなものと分けて考えたほうがいいですよね。電子書籍を読んで、よい本だったから紙の本を買う人がいるのもいいことだと思いますね。本だけだったら絶版になってしまうものが、電子書籍で生き返るのも、すごくいいことです。売れない本をたくさん処分していることを、なんとかしなきゃいけないですよね。本は在庫で税金がかかるから捨てざるを得ないんですね。何でも、売れる分だけのオーダー生産が本当は一番いいんですよね。それと音楽、画像や動画の流通の変わり方と、もう分けては考えられなくなってきているということをあげておきます。

才能を集めるには、業界を底上げするシステムが必要。


――電子化に限らず、複製や二次利用など、著作権の問題はどのようにお考えですか?


福島哲史氏: 著作権の問題で、主張しているのは大体、もうかっている人たちなんですね。印税で何億円ももうけている人は、もういいと思うんですよ(笑)。取材に10億円かかると言われたら、そういうのもあるかもしれないけど、普通の著者がトントンか赤字でやっている中で、何回も増刷して、3次、4次利用して、もうけている。だいたい1年かけて書いたものだったら1億円ぐらいを上限に、あとは社会に還元すべきですよね。まあ、彼らからしたら、立ち読みされたりレンタルで、それでも1割も入っていないぞということかもしれないけど。テレビもレンタルビデオも、そんなものがでたら売れなくなるぞって言っていたけど、作品やその人の名前が知られて、ペイできるんであれば、あまり規制しないほうがいい。ヤミで流れていても、次の作品が出た時は最初から売れますよね。もちろん、よい面と悪い面と両方あります。著作権やパテントというのは守らないと権利者は困る。でも、社会や文化としてどう考えるかは、また別の問題です。

――利用された際にお金が入るシステムがないと、若い才能が出にくくなるという指摘についてはどう思われますか?


福島哲史氏: 確かに実力がある人が稼ぐのがこういう世界だし、成功するっていう夢がないといけないんだけど、今は金持ちになりたいから表現しようなどという日本人は少ないんでしょうね。貧しいままでもなりたい人はなっている。そういう面では、ある程度トップの稼ぎを制限して、その分を貧しい人に回して、できれば社会、ムリなら業界だけでも潤うようになれば理想的だと思います。業界がどうであれ、才能のある人ってどこでも現れる。ただ才能っていうのは、お金が回っている業界に行きますから、そういう意味でいうと、出版にも才能が集まるようにした方がよいのでしょうね。でも、こういった業界という区分けさえなくなっていくから、本人がやるかやらないかだけでしょう。

ネットメディアで遠のく「自分の器」を破る契機


――電子書籍のほか、ブログやTwitterなど、新しい電子メディアで文章を読む人も増えていますが、これらのメディアの可能性はどう思いますか?


福島哲史氏: 新しいメディアがたくさん出てくるのはとてもいいことだと思います。その中に新たに専門家が出てきているというのもいいことです。僕の書いてきたテーマの一つが仕事術でしたから、ブログとかTwitter、Facebookといったものも、僕が30代だったら先陣を切っていたと思いますが、育ってきた環境がありますから(笑)。デジタルの分野が得意な人がやればいい。他の若い人ができることからは、大人は早く身をひくべきでしょう(笑)。20年以上前に、僕が「手帳術」で書いたこと、ビジネスマンや社長にアドバイスしていたこと以上のことを、今の中学生や高校生が全部実現しているんですよ。たとえば、僕の手帳術では「駅のホームで思いついたことでも瞬時にポストイットにメモをすること」とあります。でも今、モバイルフォンでは、書くだけでなく、それをほぼ同時に他人に伝えられます。常に書いて、人に伝えられるから、また書く気になるわけです。すぐにそのレスポンスまでもらえる。SNSなら大して発信しなくとも、欲しい情報が集まってくる。おのずと、ネットに巻き込まれてしまう。でも同時に自分の情報をとられています。いつの日かSF映画のように誰かに支配されていることになりかねません。

――ブログやTwitterの書き手の文章、あるいは読者の特徴は感じられますか?


福島哲史氏: 「表現」とは、本当にすごいものは、当初、否定されるようなものでした。今はわかりやすいもの、すぐ共感できるもの、すぐ得するもの、人に言いやすいものばかり流れます。フローばかり。考えさせたり、反感をもつけどどこか納得させられるものなどは、スルーされる。Twitterなどはストックされた専門家の思想や知恵より、そのとき断面を切りとっただけのおもしろいだけのフローな情報に有利なツールだと知るべきでしょう。ネットでは非難されるようなことを書くのを極端に恐れるようになりかねません。みんな賛成ばっかりのつながりを求めるようですね。そういう環境は良くないですよね。世界中から自分と合う人を探してつき合っていくというのは、今まではそういう人と出会えなかった人にとっては、とてもいいことです。しかし、自分が嫌いかも知れない人とか、自分が合わないかもしれない人を避けることになってしまいます。例えば、家族であったら合わなくても一緒に住まなきゃいけないときもある、パートナーなったからには、違う面があることに気づいてきても簡単に別れられないとか、就職した会社で生涯がんばるとか、人というのは社会のなかでは制限下でやるべき義務もあります。自由を制限されたところに本当の幸福もあったのです。今の人たちは、家の都合とか、親や上司の薦めで見合い結婚なんて考えられないでしょう。でもそういう結婚をしたから不幸だったのかと言ったら、違う話ですよね。嫌になったら出ていくと言っていたら、9割は失業、転職、家庭崩壊や離婚になります(笑)。嫌なことを避けるのが決して幸せになる道じゃないわけです。ずっと嫌なことでも一瞬で報われるということもあります。嫌なこと、つらいことが多いほど、一瞬が輝くわけだから。その制限下で自分の器を破ってみることで嫌なことも好きになれて、自分が大きくなる可能性が出てくる。残念だなと思うのは、それを今の自分の器で「これしかできない」とか、「これは嫌だ」と閉じこめてしまっていることです。異質だからこそ接して大きく学べるのですから。

著書一覧『 福島哲史

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