杉井光

Profile

1978年生まれ、東京都稲城市出身。高校卒業後、フリーターを6年、ニートを3年経験。フリーター時代は、アマチュアバンドでキーボードを担当。特技は料理と麻雀。「火目の巫女」で第12回電撃小説大賞〈銀賞〉を受賞し、2006年にデビュー。著書に『生徒会探偵キリカ』(講談社ラノベ文庫)、『神様のメモ帳』、『さよならピアノソナタ』、『楽聖少女』(電撃文庫)などがある。

Book Information

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芸者をやっている友だちにインスパイアされて作家の道へ



杉井光氏: そうしているうちに、高校時代の友人とふとしたきっかけで会いまして、なかなか面白い経歴の人で、高校を卒業したあとに向島で芸者をやっていたんです。

――芸者さんですか。


杉井光氏: 珍しいですよね。その友人が純文学系の小説を書いていまして。読ませてもらったら面白くないんですよ(笑)。だから「面白くないよね」って正直に言いましたね。僕が書いた方が100倍面白くなるんじゃないかなと考えたら、書いてみようかなと思うようになりました。ちょうどその時、家にワープロがあって、そこから僕の投稿生活が始まりました。昔から結構、物語自体を妄想するのが好きだった。だからゲームも作っていた時期があった。何か「ものを作る」ということに抵抗がなかった――と言ったら変ですけれど、自分はたぶん何かものを作って、著作権的な業界で生きていくんじゃないかなという気がしていたので、音楽が小説にスルッと変わっただけみたいな感じでした。

――実際に書いてみてどうでしたか?


杉井光氏: もうダメでしたね。自分で読んで面白くないんですよ。でも、投稿してみて、1回目で最終選考に残っちゃったんですね。スニーカー学園小説大賞っていう新人賞ですね。それで自分には才能があるんじゃないかと勘違いしまして(笑)。そこで残っていなかったら、ひょっとしたら違う道を歩んでいたかもしれない。やっぱり創作するにはある程度のうぬぼれが必要ですよね。あそこで受賞もせず、かといって全然箸にも棒にもかからずではなく、最終選考という、すごい微妙なラインに入ったので、それがすごく良かったです。

――そこでもし受賞していたとしたらどうなっていたと思われますか?


杉井光氏: たぶんつぶれていたと思います。どうやって書いたら面白くなるのかわからずに書いていたので。そのまま書き続けていてもうまくならなかったと思いますし。

ライブ感のあるものに弱い自分には「小説」というジャンルがあっている


――そこから、また書こうと思われたんですね。


杉井光氏: 僕、音楽をやっていてわかったんですけど、ライブ感のあるものに弱いんです。一発勝負で、ここで失敗したらNGというようなもの、つまり演劇とか音楽とかスポーツとか、そういうもの全部がダメ(笑)。いくらでもミスを挽回できて、机の上でいじくり回せるものじゃないとたぶんダメだなとわかったんです。基本的に一人で作って出来上がったものを人に見せるというのが性に合っているなと、音楽をずっとやってきてわかったんです。小説の方がより自分の性に合っていると。小説がダメだったらたぶんゲーム業界に行っていたんじゃないですかね。

新作の勉強のために、資料を読む毎日


――今、本を読まれているということなんですが、今でも本屋にフラッと寄られることはありますか?


杉井光氏: その日のうちに資料本が欲しい時とかは、池袋のジュンク堂に行って探します。マニアックなものを求めてしまうので、店頭には大概ないんですけど(笑)。でもネットで資料を探したほうが早いので、ネットで買う方が多いです。情報を得る手段としても使いますし、9割以上はネットで購入してますね。僕が本を欲しがる時は、資料本という目的がハッキリしているので、キーワードで検索して本を探します。そうするとヒットするのはだいたいAmazonですよね。いまは、(購入目的を決めずに)本をなんとなく求めるということはないですね。

――資料は、どんどんたまっていきませんか?


杉井光氏: そうですね。オフィスを借りた理由に本棚を増やしたいという理由もあるんです。家の本棚は既にいっぱいなので。ただ、僕は持っている本は少ない方だと思いますね。蔵書もたぶん500いっていないんじゃないですか。僕はあんまり資料を必要としないので。

――ストーリーというのは、実体験に基づいたものとかも反映されたりするのでしょうか?


杉井光氏: 一番多いのは、他人のものを読んで、「俺ならこうするな」と思ったものですね。人間はまったく知らないものを書けない。だれかの作ったものの土台の上に自分を乗っけていかないとできないですね。土台として一番多いのはやっぱり他人の作品、小説に限らず映画とか漫画とかです。アレンジに似ているのかもしれません。ゼロから作るわけじゃないですね。

―― 一時、毎月のように執筆スピードがダーッと上がった時期がありましたね。


杉井光氏: あれはたまたま、出版社さんからのオファーが重なったので。あのころそんなに売れていなかったので、全部受けようと思って、片っ端からOKしたんですよ(笑)。そうしたらあんなことになってしまったわけです。別にやったるぜと思ってやったわけではないんです(笑)。当時、自分の執筆ペースをわかっていなかったので、編集さんに迷惑をかけましたね。自分のペースというのは限界までやってみないとわからないですね。今はもう(自分の執筆速度がわかったので)あんまり編集さんに強気なことは言わないんです。

編集者も十人十色、色々なタイプがいる


――杉井さんにとっての編集者の役割といいますか、理想の編集者というのはありますか?


杉井光氏: 編集さんってやっぱり色々いるんですよね。僕は7、8人担当編集がいるんですけど、やっぱり一人一人違うんですよね。話を聞いてみると、編集さんも作家によって一人一人やり方を変えるみたいですね。もう編集×作家の数だけやり方がある、みたいなところがあって、一口で言えないんですよね。すごい極端な例だと、編集さんからアイデアを出しちゃって作家さんに書いてもらうという方もいます。だから、プロデューサーという仕事によく似ているのではないかと思います。

――プロデューサーですか。


杉井光氏: プロデューサーと一口でいっても、人によって全然やることが違う。たとえば音楽プロデューサーだと、自分で曲を作ってしまう小林武史や小室哲哉的なプロデューサーもいるし、アレンジにはかかわるけど曲づくりにはかかわらない方とか、アレンジにすらかかわらなくて、商品をどう売るかそれだけを考えるタイプの方もいます。本当に千差万別で、編集もそんな感じです。一人一職業みたいな感じ。電撃文庫はやっぱり、小林武史・小室哲哉タイプが多いですね。

――じゃあ、本当に二人三脚という感じですよね。


杉井光氏: なので、電撃からあまり出ていかない作家さんも多いですよね。「編集者自身もクリエイターじゃないと」という考えもあるでしょうし、「編集者はクリエイターじゃない方がいい」という考えかたも、たぶんあるでしょうね。作家によって相性があると思います。

――杉井さんご自身は?


杉井光氏: 僕はどっちでもありですね。アイデアを言ってくれるなら聞きますし、使えそうなら使います。やっぱり自分にない視点を提供してくれるのが、編集者の一番大きな仕事だと思います。

著書一覧『 杉井光

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