三谷宏治

Profile

1964年大阪生れ、福井で育つ。東京大学理学部物理学科卒業後、BCG、アクセンチュアで19年半、経営コンサルタントとして働く。92年 INSEAD MBA修了。2003年から06年 アクセンチュア 戦略グループ統括 エグゼクティブ・パートナー。2006年からは特に子ども・親・教員を対象にした教育活動に専念。全国をとびまわり年間数千人に講義・講演を行う。2011年の『一瞬で大切なことを伝える技術』は4万部を超えるヒットになった。妻、3人娘と東京・世田谷区在住。早稲田大学ビジネススクール、グロービス経営大学院 客員教授。放課後NPO アフタースクール 理事、NPO法人 3keys 理事、永平寺ふるさと大使なども務める。

Book Information

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SFが今も昔も大好きな理由


――たくさん読まれた中で印象に残っている1冊はございますか?


三谷宏治氏: 好き嫌いでいったら、私は小学校・中学校・高校を通じて、とにかくSFが好きだったので、読書経験が相当偏っているんですよ。高校を卒業して東京で浪人した時に、あんまりにも暇だったから、SF以外のものに手を出したんです。それが最初は、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』(文春文庫、全八巻)で、1日1冊ずつ読んで、1週間で読了しましたね。そこから時代物や歴史書への扉が開かれました。ただ、子どものころに読んだ本で、この前買い直したものがあるんです。私が小学生のころに出た本なんですけれど、『合成怪物の逆しゅう』(岩崎書店)という翻訳本です。復刊されるぐらいなのでとても人気が高い本でした。生体コンピュータを研究する若い科学者が、殺されてしまいます。意識が戻ったら脳だけにされて、生体コンピュータの一部になっていました。死んだ人間の脳をコンピュータに使っていたはずが、実はその脳たちは「生きていた」というわけですこの陰謀をあばくために何とかしようと思って、彼は合成生物を創り出します。目と口しかないスライムみたいなものですが、自分でコントロール出来る生命体です。そいつらの活躍で、何とか結果的には陰謀をあばくのですが、途中で自分の恋人も同じ人たちに殺されてしまい、二人とも脳だけの存在になってしまう。最後に二人で相談してこの生体コンピュータを破壊することにします。つまり「死のう」といって自爆するわけです。もう、最後がショックで(笑)フランダースの犬じゃないけれど、「主人公が最後死ぬのか!」(笑)ということでものすごい衝撃を受けました。

SF作家は、根本的な問いに、何らかの答えを出そうと物語を書く


――その本は子ども向けなんですか?


三谷宏治氏: 完全に子ども向けですよ。生きるってどういうことなのかとか、人ができることの恐ろしさとかが伝わってきて、すごい衝撃がありました。それで、すべての本で何が一番よいか?と聞かれたら、それはなんと言っても夢枕獏さんの『上弦の月を喰べる獅子』(早川書房)という本ですね。これもSFです。

――なぜSFがお好きなのですか?


三谷宏治氏: 「好きだから好き」なんです(笑)。ただよく考えてみると、SFって人間にとって根本的なテーマを扱っているから好きなんですよね。例えば、さっきの作品では、「生命って何だ?」がテーマですし、よくあるSFの題材で『未知との遭遇』とかの異星人とのファーストコンタクトものがありますよね。あれは「コミュニケーションとは何か?」がテーマです。、まったく共通の価値観とか経験を持たない者同士が、どうやったらコミュニケーションできるんだろうか?というような、コミュニケーションの根本そのものを問うているわけです。普通の小説では、そんなに極端な状況を前提にできないから絶対書けない。コミュニケーションの断絶とかいったって、それは地球上に住んでいるわけだし、同じ炭素生物なわけだし、そういう意味ではすごい条件が似通った中での断絶なわけですよ。だけどSFであれば、もっと極端な断絶を描くことができる。もっと純粋にテーマそのものをえぐり出すことができる。SF作家は、究極の問いに対して究極の答えを出し続けてきているわけじゃないですか。それがやっぱり素晴らしいなと思いますよね。『上弦の月を喰べる獅子』という本は、夢枕獏が根本的な問い「人は幸せになれるのか?」を問うている。そのテーマに対して、彼は、ある答えを出すわけです。その出し方も、物語の進め方も素晴らしい。読み終わった後に「自分は答えを得た」という気にもなれます(笑)。内容は全部しゃべれないので、この800ページを是非読んでください(笑)。

――この本は、書店さんで手にとって購入されたのですか?


三谷宏治氏: たぶんこれはそうだったと思いますね。

――今でも書店には行かれたりしますか?




三谷宏治氏: 行きますよ。でもAmazonもすごくよく使います。「この本を買っている人は、こんな本も買っています」みたいな関連付けがとっても役に立ちますね。関連するものを追っていくと、深くなったり広くなったり、つながりの中で関連性の強いものが手に入る。だけど、まったく関連しないものも好きですね。中学生のときに家で福井新聞をとってたんですけど、「全国紙というものがあるらしい」と知って、「それをとってくれ」と親に頼んで朝日新聞を別にとってもらいました。その2つを毎日端から端まで全部読むというのをやっていたんですよ。全部読むとたぶん1時間半ぐらいかかるんですけど(笑)。朝読みはじめて、午後家に帰ってきてから読んで、みたいなことを毎日やっていたんですね。それはやっぱり自分自身に「幅」を与えたと思います。新聞には、自分がまったく興味がないような話まで載っているわけじゃないですか。小学生が株価なんかどうでもいいですよね。だけど、そういうトピックが目には入ってくるわけだし、取りあえずパラパラしたら、何か知っている企業の業績の話が目に入ってくるし、地元の話題や、芸能人の話とか、普段全然気にしないようなことすら目に入るかもしれない。だから幅があるわけです。強制的に自分を拡張する感じですかね。インターネットはそんなに深くはないけど、何かをちょっと深めるには楽だし、調べものも楽ですよね。だけれども、自分の興味の範囲内にとどまりがち。書店も新聞と同じで、リアルな書店をグルっと回ったらあらゆる本がある。ネット書店には本は山ほどあるけれど、一覧性もテーマ性もない。書店や図書館をグルグル回るのは、私にとってはとっても楽しいことですね。今まで知らなかったものを見つけるという機会もよく生まれますし。

書店は売りたいと思ったら、買いたくなる仕掛けをしてほしい


――昔と今と比べて、何か本屋さんが変化したなと思うところは何かありますか?


三谷宏治氏: 変わった部分でいえば、書店員さんが色々手書きのポップをつくるとか、そういうのが増えてきたなと思います。でも本当に売りたいんだったら、もうちょっと頑張らなければいけないと思います。どこの書店でも同じ商品があるわけだし、Amazonでも楽天でも買えるし、値段も変わらない。だからもっと、買いたくなるような仕掛けをしてほしいですね。そうじゃないと、大きい書店ですら、買おうっていう気にならない。書店員さんたちが、本の数が多すぎて読み切れないんだと思うんですよ。それに、小さいお店はこのままだと、スマートフォンに負けちゃいますよね。小さい書店って、何のためにあるかっていったら、ちょっと立ち寄って、ちょっと暇つぶしの本を買うためにあるわけじゃないですか。スマートフォンは今、大人も子どもも、その暇つぶしの時間を全部吸い取っているわけですよね。だから暇つぶしに読む本、すき間時間に読む本とかっていうような本が全部売れなくなる。ちょっと書店に立ち寄って買うみたいな動きそのものがなくなってしまって、駅にくっついている小さな書店とかは、非常に苦しくなるんじゃないでしょうか。

著書一覧『 三谷宏治

この著者のタグ: 『コミュニケーション』 『考え方』 『教育』 『子ども』 『本屋』 『書店』 『知識』 『経験』 『発想力』

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