技術者なので、正しく技術が伝えられていないと「嫌」だと思う
『Webを支える技術』(技術評論社)『XML教科書』(ソフトリサーチセンター)『RESTful Webサービス』(オライリー)などの著者として有名な山本陽平さんは、メーカーのエンジニアとして開発を行いながらも、RESTの伝道師としての顔もお持ちです。そんな山本さんに、ソフトウエアを開発するきっかけについて、ネットや電子書籍についてのお考えなどを伺いました。
最近はビデオ会議システムの端末を開発中
――早速ですが、近況をご紹介いただけますか?
山本陽平氏: 新卒で今の会社に入って、13年目です。現在は、持ち運びができるクラウド型のビデオ会議システムを開発しています。大きさはA4くらいで、カメラとマイク、スピーカーが付いていて、ディスプレイを見ながら、相手とワンボタンで会議やコミュニケーションができる製品です。その端末の中の組み込みのソフトウエアの開発や、後はクラウド側のソフトウエアの開発などに携わっています。
――ウェブのニーズに関する本を著者として出版されていて、何か最近お書きになりたいテーマはございますか?
山本陽平氏: そういうものはあまりないですよね。僕は別に、自分から「本が書きたい」という気持ちが強いタイプではないんです。
――依頼を受けてお書きになることが多いのですか?
山本陽平氏: そうですね。もちろん依頼をいただくのはうれしいですし、本を出版できることはすごいことだと思います。でも、自分自身の欲望として今「新しい本が書きたい」とか「記事を書きたい」という気持ちは、実はないんです。
初出版のきっかけも「ウェブ」から
――最初の本『XML教科書』を出版されたきっかけをお教えいただけますか?
山本陽平氏: 僕は、大学院は奈良にある奈良先端科学技術大学院大学というところに行ったのですが、研究室のウェブサイトにXML関係の先端の情報などを載せていたら、卒業後に出版社の方から「XMLの本を書きませんか」と連絡があったんですね。それが2000年ですね。最初は、原稿もどうやって書けばいいのかわかりませんでした。ちょうど先輩2人との共著だったので、何とか書き上げられたようなもので。
その後の『Webを支える技術』(技術評論社)を書くきっかけになったのは、「REST」(Web APIの仕様を決める上での基本的な考え方)を広めようという話で、XMLの偉い人で村田真さん(日本のソフトウエア技術者/工学博士)がいて、日本電子出版協会でEPUBの仕様策定をされている方なのですが、村田さんとRESTを日本に広める会をやろうと言って、「第八回XML開発者の日」というセミナーを2006年に開いたんです。そのときに技術評論社の編集者が来られていて、名刺交換をしたとき「『WEB+DB PRESS』という雑誌に記事を書きませんか」と言われまして、そこから本になりました。
――技術書を執筆される場合というのは、編集者とどんなやり取りがあるのですか?
山本陽平氏: 『Webを支える技術』のときはもう連載がベースにあったんですが、書き足す部分がすごく多かったですね。原稿のファイルはDropboxで共有していて、僕が1章ずつ書いていくんですけれど、編集者さんが、色々わからないところや、間違ってるところ、疑問点や深めたいところなどを注釈で入れてくれて、それに対してまた原稿を修正してということを繰り返していく感じでした。
――まさに、正しくクラウドを駆使して書かれたんですね。
山本陽平氏: そうですね。
1995年からMosaicに触れて、人生が変わった
――技術の最先端の現場で働かれているということなんですが、最初のプログラミング体験はいつごろだったのでしょうか?
山本陽平氏: 小学校高学年のとき、叔父からNECのPC-8201という小さなパソコンをもらったんですね。画面が白黒の液晶で10行もないくらい。もちろん字しか出ない端末でした。そのときにBASICで簡単なプログラムを作って遊んでいたのが最初です。何を作ったかはあまり覚えてないんですけれど、1つ覚えているのは、F1の歴代チャンピオンのデータベースみたいなものを作っていたことです。
――F1がお好きだったんですか?
山本陽平氏: そう。その当時はすごく好きだったんです。今はもう全然見ていないんですけれど。
――それから、理系に進まれたのですか?
山本陽平氏: はい。高校は理系のクラスでしたね。大学はロボットの開発がやりたくて機械科に入ったのですが、そのころちょうどインターネットが出てきて、94年の年末くらいに『WIRED』(日本語版)という雑誌の創刊号を読んで、「インターネットはすごい」と思いました。そこに「Mosaic」(1993年にリリースされたウェブブラウザー)の情報が出ていたんですね。どうにかして使いたいと思っていたら、大学の情報処理センターみたいなところに導入されていたので、1995年の年明けに行って、初めて触って操作して。それからセンターに入り浸るようになって、インターネットが大好きになっていきましたね。
――そのときの感動はいががでしたか?
山本陽平氏: 僕は山梨大学という地元の大学へ行っていたんですが、急に世界が広がったような気がしました。「NCSA Mosaic」というブラウザーは、今の人が見たらすごくしょぼいと感じるかもしれませんが、当時はとても画期的だったんです。もう今はそこから20年近くたちましたので、ブラウザーもすごく進化していますよね。それで、Mosaicに初めて触れたとき、機械とかロボットの方面ではなく、ソフトウエアの開発をしたいという風に思った。ソフトウエアについては最初独学だったので、ちゃんと勉強したいと思って奈良の大学院に行ったんです。
XMLに着目し奈良の大学院へ進学
山本陽平氏: そのころ、自分の中で「XMLがいい」と思っていた時期で、インターネットで調べたらXMLの研究をしている先生は日本に2人しかいなかった。ちょうど奈良の先端科学技術大学院大学に、吉川先生という方がいらして、「その研究室へ行きたいな」と思ってそこの大学院へ進んだんです。
――XMLに着目された理由は、どんな点だったのでしょうか?
山本陽平氏: 当時ウェブの技術としてHTMLとかHTTPとかURIがあったのですが、HTMLがウェブのデータそのものを表す表現方法であって、それの拡張版としてXMLが出てくると。これはすごく面白そうだと思ったんですね。
―― XMLに関しても、RESTに関してもそうですけども、日本にはなかったり、まだ普及していなかったり、理解されてないものに着目して広められているのですね。
山本陽平氏: そうですね。僕は技術者なので、正しく技術が伝えられていないと嫌なんですね。誤解をされていたり、大きな会社の都合で宣伝目的に使われていたりする。そうではなくて、技術自体がきちんと理解され、普及してほしいと思っています。僕自身はすごくやりやすい職場にずっと恵まれているのですが、常日ごろ、仕事をする上で大事にしていることは、技術者として正しいと思ったことをやるということですね。やはり組織で働いているので、自分の考えを曲げなきゃいけない局面もありますが、そういうときでも、「技術に関して間違っている」ことはしない、そのポリシーは守りたいですね。
――正しい技術というのは、どのようなものなんでしょうか?
山本陽平氏: 今、新しい技術というのは、単にキーワードだけが先行してしまったり、過大評価されてしまったりしがちなんですね。そういうのって本質的じゃないと思うんですよ。
お客さまの声を聞く、製品を使われているのを見るのが喜び
――世の中が少しずつ変わっていく様子を見て、技術者で良かったと思う瞬間はありますか?
山本陽平氏: やはり、自分が開発した製品が、実際にユーザーの方に使われているのを見たり聞いたりするのが1番うれしいですよね。価値のないものにはお金を払っていただけないと思うので。お客さまにとって1番重要なことを大切にしたいと思っています。
技術者として考える「電子書籍の可能性」
――電子書籍についてもお考えを伺いたいと思います。山本さんご自身は電子書籍を利用されていますか?
山本陽平氏: 僕はあまり早い段階ではやりを取り入れるタイプではないので、iPhoneは持っていますけどiPadをまだ持っていないんです。携帯の中のiBooksに4冊しか入っていないですね。
――それは電子書籍ストアで買われたものですか?
山本陽平氏: 『知る、読む、使う!オープンソースライセンス』(達人出版会)をこの間1冊買ったのと、後の3冊は無料配布のものです。
――電子書籍というのも1つの技術だと思うんですが、実際にお使いになって要望はございますか?
山本陽平氏: いや、そんなに不満はないですね。「こういうものだ」と思って読んでいるので。電子書籍にはEPUBという規格があるのですが、EPUBってベースはXMLなんですよ。だから「XMLが使われていていいな」と思っています。
――普段、お仕事や研究で資料として使われるのは紙ベースですか?
山本陽平氏: あんまり紙は使わないですね。研究のときには、ウェブで気になる技術系のブログを読んだり、論文を見たりします。
――実際ご著書が裁断、スキャンし、電子化されて読まれることに対して抵抗はありますか?
山本陽平氏: いや、ないですね。知り合いも自炊しまくっていますし、僕の本をみんな裁断してスキャンしたって言っていました(笑)。僕は全然自炊には興味がないので。みんなすごいなと思っています。
紙の本でできないことができるのが、電子書籍の可能性の1つ
――技術者として電子書籍にはどのようなメリットや可能性があるとお思いですか?
山本陽平氏: 紙の本じゃできないことができた方がいいですよね。検索ができるとか。今の紙の本が、アナロジーじゃなくてもっとインタラクティブになってもいいと思うし、ハイパーメディア的なものになってもいいと思います。本の形態を取っていなくてもいいと思う。後は更新が可能なところがいいですね。達人出版会の電子書籍もそうですけれど、「データ版で出してどんどん更新できる」というのがものすごくいいと思いますね。紙の本だと1回出したらもう次の版まで変えられないのが普通だと思うので。
――今後、本に限らず、やっていきたい取り組み、もしくは今現在取り掛かっているものを最後に教えていただけますか?
山本陽平氏: ブログを書くなどの個人的なアウトプットよりは、会社の新しいプロジェクトをまずは軌道に乗せたいということと、2人目の子どもが生まれたばかりなので「子育て」にも積極的にかかわっていきたいですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 山本陽平 』