吉田典生

Profile

1963年、三重県伊勢市生まれ。関西大学社会学部卒業後、ビジネス誌の編集・記者を経て、90年よりフリーランスのジャーナリストとして活動。主に「人と組織」に関わる分野を中心に、数多くの月刊誌、週刊誌等を舞台に取材、執筆。20代後半から30代半ばにかけ、1000名超の企業経営者、ビジネスリーダーをインタビュー。その過程で興味を抱いたリーダーシップ、マネジメント等に関する学習をつづけ、 2000年に(有)ドリームコーチ・ドットコムを設立。以降、日本におけるビジネスコーチング分野の開拓、リーダーシップの裏側にあるフォロワーシップに視点を当てた企業研修プログラムの開発など精力的に活動中。

Book Information

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本のメッセージは多層性であるべきだ


――何を一番読者に伝えたいと思われていますか?


吉田典生氏:New York September 11』っていう写真集を僕は大好きなんです。9.11の同時多発テロの時にニューヨークに、たまたまマグナム・フォトグラファーズっていう報道写真の第一人者の人たちが、世界中から集まってきていたんです。それで、9.11の様子をみんなが写真に収めてこの写真集になっているんですよ。これを見るとね、悲惨な悲しい出来事なんですけれども何かの美しさを感じるんですよ、この写真に。本とは、活字とか写真を通して何かを人に伝えていくパワーを持っている。ただ悲しいだけではない。ただ怒りだけではない。すごく怒りに満ちたメッセージの中に、実は愛があったりとか。リアリズムそのものの中に、芸術性があったりして、すごく多層的、重層的であると思うんです。そういう奥行きの深さっていうのは、いい本にはあるんじゃないかなと思うんですね。僕はそういう本を目指しています。

―― 多層的で、色々なメッセージが含まれている本ですね。


吉田典生氏: 年末に電子書籍を出したんですけれども、それはストーリー仕立てでリーダーシップを書いているんです。さっと読めますが、その中にもリーダーシップを日常的に実践していくノウハウを織り込んだりと、そういう多層性を大切にしています。

制限なく自分の想いを自由に詰め込んだ「電子書籍」とは


――ちょうどいま、電子書籍というお話も出てきたところで、電子書籍についてもお伺いしようと思います。


吉田典生氏: 電子書籍の可能性はすごくあると思っています。ないと困るなとも思っていて(笑)。今回、1年半ぐらいかけて企画を詰めて原稿を書いて、『召命calling』という電子書籍にしたんです。そもそもの発端は、「すごくこの企画をやりたい!」って思ったんです。でも、いままでの経験上、僕の持たれているイメージからすると、どこの出版社に持っていっても企画が通らない。出版社の言うとおり修正をして妥協点を見い出せば企画になるかもしれないけど、それだったらやる意味がないなと思ったんですよ。電子出版してみて思うのは、非常に邪魔されずに自分がやりたいことがやれる。いま音楽の世界だったらメジャーとインディーズは区別がなくなっている。何でそうなっているかといったら、要するにインディーズと言いながら、そこでアーティストが自分たちが本当にいいと思うものを加工されずに出して、それがリスナーに受け入れられているからです。だからいま境界線がなくなっている。

同じことが出版でも起きると思うんですね。もちろんそれが進んでいく過程では視野が狭くて、自分の自己満足だけの世界でビジネスにならないものもいっぱい出てくると思うんです。でもその中で、本当にキャッチされるものがあって、何年かのうちに、業界の構造もきっと変わってくるだろうと思うんです。だから意思決定の仕組みや流通の仕組みなど、そういうものの違いが、表現をしたいと思っている色々なジャンルの人たちをすごく開放していくと思うんですよね。そこにすごく可能性があると思います。

――既存の作家の方でも、その方の表現の幅を広げるでしょうか?


吉田典生氏: ごく一部の大作家の方は別として、書き手にとって、枠組みの中にはめられて、いいものを表現できずに終わってしまうということがあると思うんです。そこから解放されて、いいものを出していく一つのチャンスかなと。出版界では新しいことがなかなか受け入れられない風土があると僕は思っているんですね。その新しい分野を表現者が切り開いていく環境が整いつつあると思います。

――まだその部分は過渡期だと感じますか?


吉田典生氏: 自分でやってみて、あらためてそこは感じましたね。

Kindleでらくらく速い読書を楽しむ


――吉田さんは、電子書籍をご利用になりますか?


吉田典生氏: Kindleは自分の本がリリースされたのと同じ日に届いたんです。使ってみないと分からないんでね。だからまだ何も新しい本が入っていないんですけれども、正月に実家に帰っていた時に、新幹線の中で『ワーク・シフト』を読んでいて思ったのは、使い勝手はいいですね。Kindleは、本に線を引いたりするのと同じ感覚でチェックができるんです。それで、自分がチェックしたところだけまた一覧で出せたりする。この機能はすごく便利です。僕は、出張とかが多いので、そういう時に本を持っていこうと思うとやっぱり重くなる。そうすると新書とか文庫になっちゃうんですよね。ハードカバーやソフトでも厚めの300ページとかある本はなかなか持っていけないんですが、Kindleは千冊入るわけですよね。こうやって読める気楽さもある。使っていない人は「読んでいる実感がない」とか言う人もいますけど、多分むしろ本好きの人の方が使うんじゃないかと僕は思いますね。

―― それは著者でもあり、また一読者でもある吉田さんが使ってみても感じますか?


吉田典生氏: そう思いますね。僕の『召命calling』って出してもらったデジカルっていう出版プロダクションで、電子書籍のレーベルを作ったんですが、ここの社長さんもおっしゃっていたんですけれども、「早くこういうブックリーダーとかで本を読み始めている人は、むしろ本好きなんです」って。それは、僕は意外だったんですが、自分が使ってみて、「ああ、なるほどな」と思いました。やっぱり、もう身体的に楽なんですよね(笑)。

――楽だというのはいいですね。


吉田典生氏: 読むスピードも速くなりますね。僕の実感で、科学的な証明はないですけれど、例えば新幹線で見ていてもペーパーホワイト(Paperwhite)だと液晶の画面と違って目が疲れないので、その読みやすさと軽さで早く進むのもあると思います。それから、移動して多少電車で混んでたりする時もつり革につかまっていても見えますよね。

新しいフィールドとして電子出版で可能性を広げていく


――今回、本を電子書籍で出されるということについては、紙ではないということでご自身の中で、何か葛藤はありましたか?


吉田典生氏: 考え方としては、外じゃなくて、本としての中身を取るっていうことですね。僕も今回の『召命calling』っていう本を電子専用で出す話を進めている中で、デジカルの香月社長が、「いまは一応、本とか電子書籍という風に呼ばないと伝わらないので、外向けにはそういう表現になっているけれども、これはコンテンツだと思っている」とおっしゃったんです。そういうとらえ方をしていく中に可能性が広げっていくんじゃないかという風におっしゃっていた。僕はすごくそれに共感しているんですよ。



僕も口でそう言いながら、やっぱり紙の本の手触り感や重みは、不便だけれども魅力があると思う。やっぱり自分の本が、書店に並んでいた方が実感があるんじゃいかとか、そういうアナログチックなものは自分の中でも残っていますよ。すごくいい表紙のデザインをしてもらったので、「ああ、これ紙でも出したいな」みたいな。だけどこんな企画を既存の出版社はOKって言わないんだというのはすごく矛盾しているところがあるんですよ。

――これからは電子から紙へとなるパターンも大いにありえそうですよね。


吉田典生氏: そうですね。これはすごくこれから電子書籍の中で表現したり出していく側の課題だと思うんですけど、せっかくいままでの古い構造とは全く違うところで表現活動できるわけだから、それをちゃんと生かすと。電子書籍をやってみて本当に思うのは、作り方から契約の仕方から印税の分配から、それからマーケティングから、何から何までまっさらなんですよね。何にも決まってない。社長と一緒に相談しながら向こうからも色々聞かれる。出版社の仕事だとそういうことはありえないじゃないですか。そういうことを全部相談しながら一緒に作っていくっていうことをやっているので、「これは確かに大きな出版社とかが、ここに本腰を入れて乗り出すというのは大変だ」ってあらためて思いましたね。やっぱり守りたいものがいっぱいある中でできないでしょう。特に上の方の人たちはね。

だから僕たちにもすごくチャンスがあるし、ウェブとかインターネットで色々な新しいビジネスが立ち上がってきた流れの中に、むしろ出版っていう枠組みの中でのバリエーションとして考えるよりは、もっと大きなフレームでコンテンツとしてとらえていった方が面白いし、色々な試みができるんじゃないかなと思うんですね。

自分のためだけでなく、社会のためにビジネスをする本来の姿を取り戻せ


――今後どんなことをやっていきたいなという風に思われますか?


吉田典生氏: どんなビジネスでも、本当は社会のためになることをしているのが会社だと思うんですよ。だから、そのために色々な分野や事業があって、必要とされているからちゃんとそれを支えてくれるお客さんがいるというのが本来の姿だと思うんですけれども、何かそれがいま違ってきている。お金だけが独り歩きしたり、事業拡大が自己目的化して、手段であるはずのものが目的になったりとか。そういう風潮を変えたいですね。本当はもっと、どんな仕事も事業も社会のためにある。それが実感できると、働いている人たちも仕事にやりがいを持てると思うんです。スティーブ・ジョブズはあんな変わった人なのに求心力を持ったわけは、「パーソナルコンピューターで世界を変える」という志があったからなんですね。「パーソナルコンピューターでもうけてIPOをするんだ」ではなくて、マイクロソフトやIBMに勝つのが目的でもなく、世界を変えたいといったことが彼の根本だった。ジョン・スカリーを口説いたっていう有名な言葉がありますよね。「お前、砂糖水で一生食っていたいのか、それとも世界を変えたいのか」っていうね(笑)。僕、そういうのはすごく好きなんです。

誰もが別にスティーブ・ジョブズになる必要はない。だけど近所の雑貨屋さんでも、コンビニエンスストアのフランチャイズでやっているオーナーさんでも、何かできるんじゃないのかなって思うんですよ。だからそういう働き方のマインドだったりとか、組織のそういったところから出発するビジョンだったりとか、そんなものを共有していきたいなって思いますね。

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『コミュニケーション』 『就職』 『ライター』 『働き方』 『バブル』 『メッセージ』 『フリーランス』

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