電子書籍には、独自のモデルケースが必要
――岩岡さんは電子書籍を読まれることはありますか?
岩岡ヒサエ氏: パソコン上でしか読んだことがないですね。ウェブ雑誌みたいなものは、好きな作家さんが書いていたりすると、気楽に読めますし、ほぼ無料で読めますからね。ただ、これは難しいところですが、漫画も紙のコミックスになってからじゃないと、お金にならないっていう印象が強いんです。最初にお話したフランスのペネロープさんが、フランスには漫画雑誌がなくて、コミックスでしか売れないので、電子書籍で作品を発表することをいろいろ行ったのですが、途中で企画がなくなったり、紙の様に採算が取れないというのが強かったみたいですね。電子書籍がお金にならなきゃならないという問題意識で模索しているということを聞いて衝撃を受けました。確かにネットではどうしても無料の「お得感」の方が先にきてしまう。法律的に悪いことに使う人もいますしね。
――電子書籍による漫画の可能性については、どのようにお考えでしょうか?
岩岡ヒサエ氏: 私自身はアナログの方が好きだし、紙で取っておけること、手触りとかめくるスピードとかも重要だと思っているので、紙の良さを電子書籍に求めると難しいなと思っちゃうんですよね。そうじゃなくて独自のメディアとして良い見本がひとつできたら盛り上がるんじゃないんだろうかと思っています。日本の漫画家さんは忙しいので、面白いことの開拓ができていないと思うんですよね。
考え始めたら、いっぱい発想を持ってる方々ばっかりだと思いますが、「それは難しいな」で終わるというか。電子書籍がお手軽に読める感を追求するのも、もちろんありがたいと思っているんです。持ちきれない書籍を持っておくためにもいいし、エコにも良いし。でも発展していくことを考えると、何かひとつすてきなモデルケースができると良いなと思いますね。私、イラスト投稿雑誌にもよく投稿していたんですけれど、pixivが盛り上がって雑誌が売れなくなって移行していきましたよね。人気のバロメーターもpixivで見られるようになった。漫画はなかなかそうはいかないのは、やっぱり別に色んな障害があるんだろうなと思いますが、思ってばかりで特になにもしていない状態ですよね。
とっぴでも、居心地の良い世界を描く
――電子媒体で発表される漫画は描き方も変わってくるでしょうか?
岩岡ヒサエ氏: 読ませ方が変わると思うので、電子書籍に対応するためにちゃんとスキルを身につけなきゃならないとは思っています。携帯のコミックは、先が読めない面白さがあるんです。パソコンで読むと2ページ見開きで見られるので、先も読めますけれど、携帯は本当に1コマずつしか追えない。それに対応したもっと面白い見せ方が多分電子書籍、携帯コミックの場合はあるんじゃないかと。お笑いの落ちのようなものを上手に面白く組み込む方法があるかもしれないですね。
私がやれるかどうかわからないですけれど、そこを模索することも必要なんじゃないかと思います。昔「BSマンガ夜話」で、『みどりのマキバオー』の回を見ていたら、マキバオーは読者の視線誘導がものすごくうまいっていうのを語られていて。大ゴマを見せるために、前ページからコマを小さくしていって、最後ばっと見せる。私もあれを一生懸命まねしようとしたこともありますが、漫画はやっぱり気持ち良さを与えることなので、電子書籍で描くことになっても、地味な漫画を面白く見せようという気持ちは持っていたいですね。
――今後はどういった作品を構想されていますか?
岩岡ヒサエ氏: 難しいですね(笑)。今やっている連載をどう終わらせるかみたいなのは考えますけれど。設定自体を面白おかしくしたいとは思うんですが、その中で息をしてる人がいるとか、地面に足がついているのは、すごく大事にしたいなと思ってるんです。それがあることで突拍子もない世界設定が受け入れてもらえる。面白い世界だけど、居心地良くなれば良いなって思いますね。読者さんも気持ち良くて、自分も気持ち良く終われるような作品を書き続けられたらと思ってます。あとは、もっと悪いやつを描くとか、もっと毒々しいものにも挑戦したいです。「ちょっと岩岡さん、変わったんじゃない」という作品を見てもらえる機会があればなと思いますね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 岩岡ヒサエ 』