山川健一

Profile

1953年生まれ、千葉市出身。早稲田大学商学部卒業。在学中から執筆活動を開始、1977年、大学内での内ゲバ殺人に題材を採った「鏡の中のガラスの船」で『群像』新人賞優秀作受賞。以降『壜の中のメッセージ』、『水晶の夜』、『ロックス』、『安息の地』などロック世代の小説の旗手として活躍。『ニュースキャスター』、『ジーンリッチの復讐』では新たなエンターテイメント小説の創造に挑戦した。興味の対象は、車、バイク、ロックンロール&ブルース、環境問題、車、など多岐にわたる。

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言葉の力を復活させるムーブメントを


――山川さんにとって本を出すことはどういうことですか?


山川健一氏: 1冊の本を出すという事は、作家にとっては商売なんですけれども、商売ということを超えて1つのムーブメントを起こすということだろうと思います。作家は自分が出した本に責任を負わなければいけない。それは1冊だけではなくて、今回出した本が次の本を呼び、また次の本を生むという風に継続していく。作家というポジションは国家資格があるわけでも何でもない。新人賞をとってもそのまんま終わる人はいっぱいいます。「作家になりたい」と多くの学生が言いますけれども、作家という職業はなくて、意志を持続して次々に作品を書いていく事が作家活動なんだということを言っています。
だから僕にとっては小説の方が価値があってエッセイは価値がないということもなく、これは等価です。僕は芸工大の教員仲間である竹内昌義さんやマエキタミヤコさんと毎週月曜日に脱原発言論という一般の方に開放したシンポジウムをやっているんですけれども、そこでしゃべったりすることも全部等価なんです。今日ここでインタビューを受けてているのも等価なんです。それは大きなムーブメントの1つのピースということですから。

――目下山川さんが起こそうとしているのはどういった「ムーブメント」でしょうか?


山川健一氏: マイノリティーでも住みやすい社会、原発のない社会で暮らせる方向へ向かいたい。国家そのものを売り渡すようなTPPに、「気持ち悪いよね」って思う人を増やしたい。そういう大きな目的のために1つ1つの活動があるんだと思います。
福島第一からはいまだに高濃度の汚染水が垂れ流しになっていて、空気中にも出ている。4号建屋の土台であるコンクリートの壁も相当危ないらしい。この間、初めて東電が外部の人間をそこに入れて調査をして、大丈夫だったという報告があった。しかし入ったのは一人で、しかも氏名は非公開であった。こんなもので大丈夫だと言われて果たして信用できるだろうか。魚の汚染具合も調べていますけれども、調べているのは東電です。
六ヶ所村からも高濃度の汚染物質が放出されていて、パイプで相当沖の方で捨てていると言っているんだけれども、海流に乗って世界を汚染し続けているという現実があって、今の技術では収束しようがないわけです。除染と言いますけれども、除くことはできない。あれは移染であって除染じゃないわけです。
言葉のマジックがあって、日本語の力がおびただしく弱くなっている。そういう中で自民党政権は参院選が終わったら全国の原発を再稼働するだろう、TPPのテーブルに着くだろう、という絶望的な状況の中で、われわれはどうすればいいのかということを僕ら1人1人が自分の頭で考えないと本当に取り返しのつかないことになるだろうと思います。

電子書籍で本のヒエラルキーを逆転させる


――山川さんは電子書籍のご利用はされていますか?


山川健一氏: 読者としては青空文庫から始まって、各社の電子書籍を読んでいます。僕の本ではダイヤモンド社の本が電子書籍になりました。

――出版に携わられているお立場から、電子書籍についてはどのようにご覧になっていますか?


山川健一氏: 電子書籍にはものすごく大きな可能性を感じます。特に新人作家のデビューする場所として電子書籍は有効だと思います。日本の場合、新人作家は四六判ハードカバーで本を出すんです。これを例えば5千部刷ろうと思ったら500万かかる。広告宣伝とか色々考えると1000万近いお金がかかる。
ところが、1000万あったら文庫を3、4冊出せるわけです。日本の場合はものすごいコストを掛けて新人をデビューさせ、この人が売れると文庫にする。で、文庫にしてペイさせようとするわけです。文庫でずっと活動して、ある程度認知されると新書を書かせる。新書を書いた作家はあがりなんです。単行本、文庫本、新書っていう風にヒエラルキーができている。これはビジネスの発想として僕は間違いだと思います。



アメリカは純文学とかエンターテインメントとかという区切りはなくて、ハードカバーライターとペーパーバックライターと分かれているだけです。まずペーパーバック、日本でいえば文庫を出す。その中である程度売れた人の本がハードカバーで出るという風に方向が逆なんです。
本来は、新人作家は文庫でデビューさせるべきです。その中でニーズがあるものに関してハードカバーにしていくべきだと思います。そういう中で、電子書籍はある種革命だと思います。巨額の資本を投下しなくても電子書籍でまず出していって、その中で支持されたものを文庫にし、その文庫で支持されたものを四六判の本にするというように、流れを逆転できます。

――特に文庫本は大きな出版社しか出していない印象があります。


山川健一氏: 激しい文庫のシェア争いがあるわけです。講談社文庫、新潮文庫、文春文庫、角川文庫、幻冬舎文庫等で、出版社の生命線ですからこの棚をいかに取るかというのが死活問題。となると、この文庫戦線に参戦するのは相当の資本がないと無理なんです。例えば芸術学舎では絶対無理です。ロットを投下して宣伝費をかけて、これだけ売れますからお宅の本屋の棚を下さいと言わなくてはならないから、中小出版は文庫は出せない。長いあいだこのシステムが変わらなかったんですね。

――電子書籍がいわば登竜門として機能するにはどういったことが必要となるでしょうか?


山川健一氏: レーベルが大事になってきます。電子書籍はInDesignができれば誰でもできるので、今あちこちに「電子書籍を無料でアップしてオンデマンド出版できます」というところができてきています。膨大な電子書籍がネット上にあるという状況になると思います。
そこで必要となるのはセグメントで、ここのレーベルはこういう傾向の電子書籍を出していて、面白いと認められればそこに読者が付く。だから例えば講談社なら講談社が、うちの本を片っ端から電子書籍にしますよって言われたって、それは新しくも何ともない。そうじゃなくて、あるところがレーベルを作って、うちはこういう電子書籍を出していきますという風にすると、新人作家のデビューの場所にもなっていく。僕はそれをやりたいと思っています。電子書籍から紙の方へ移行するのが健全だと思います。カラーに合うものならに古い本の復刊もあるかもしれないですしね。

それでも「希望」を描く


――山川さんはアメーバブックスでブログから本を生み出すという流れを作りましたが、今後の書き手の発掘の仕方についてはどう思われますか?


山川健一氏: アメーバブックスも、当時としては新しかっただろうと思います。ただインターネット、とりわけブログからコンテンツを見つけてきて、それを書籍化するという枠組みは多分古くなっています。新しいものってすぐ古くなるんです。今やTwitterとFacebook、SNSの時代ですから。アメーバブックスのコンセプトはものすごく新しかったけれども、新しかったがゆえに、今ではもうすごく古い枠組みになってしまいました。

――すると、Twitterなどから作家が誕生するという流れになるでしょうか?


山川健一氏: Twitter上で、原発はまずいよねっていう声はものすごく高くて、首相官邸前に一時は10万人集まった。でも総選挙の結果があれじゃないですか。山本太郎さんがあれだけ頑張って、健闘したと思うけどダメだった。だからやっぱりネットの中にとどまっている限りダメなんだなっていう風に思いました。Tweetしているだけでも、デモをやっているだけでもダメです。
Tweetは140字しか書けないから、ある種エモーションの吐露だし、断片じゃないですか。それをえりすぐりで単行本化できそうなコンテンツを集めて、電子書籍で出していくっていう風にすると少しインパクトが違うかなと思っています。技術的な壁はあると思いますけど、それを1つ1つ乗り越えて、良質な電子書籍のレーベルができてくると、可能性は広がるだろうという風に思います。

――最後に、あらためて今後の展望をお聞かせください。


山川健一氏: 今年は先ほど言った芸術史の教科書で、「暮らしに芸術がある毎日はいいよね」、「芸術は平和を実現するんだ」ということを訴えていきます。それと他者が出せない脱原発の本を2、3冊出そうと、脱原発の活動をしている仲間に声をかけて準備しています。それから文芸学科の僕のゼミの学生を中心に、福島を含めた東北に住んでいる若者達のルポタージュを考えてます。僕は教員としてサポートしながら単行本化したいと思っています。
僕自身としては、3.11以降の文学はそれ以前の文学とは全く違うだろうと思っています。原発事故が進行する日本で、果たして希望を語れるかどうかを考えていますね。絵描きの人が言っていましたけれども、絵描きはエロスを描き、エロスというのは生命の希望なんだ、と。いま、これだけお母さん方が傷んで、福島では堕胎せざるを得ないお母さんが続出する中で、絵が描けるかと問うた時に、書けないとおっしゃっていた。僕も全く同じ気持ちです。
僕はゲームが好きで、とりわけRPGが好きなんですが、RPGの基本は世界を救って帰ってくることでしょう。しかし世界を救って帰ってきて、電源をオフにすると、自分が置かれている現実はもっと危機だという中で、どういうゲームが作れるのかというのが問題です。
今まで百何十冊本を出したと思うんですけれども、次の本はすごく重い。そういうような状況で、どこに希望を見い出せばいいんだろうというのが難しいです。でもここで止めるわけにはいかないので、どんなに時間が掛かってもいいから次の長編を仕上げたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 山川健一

この著者のタグ: 『考え方』 『音楽』 『教育』 『作家』 『芸術』 『ミュージシャン』 『活動』

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