電子書籍は、読者の立場で考えるべき
常見陽平さんは、リクルートの転職情報誌の企画担当やおもちゃメーカーの新卒採用担当として培った、雇用や若者のキャリア形成に関する見識から、独立後には就職や教育、若者論などに関して積極的に発言され、自らの見解を世に問い続けています。著述家としても著名で、ネットメディアでの発言も多い常見さんに、ご自身の仕事観、読書体験、電子書籍をはじめとする電子媒体の可能性についてお聞きしました。
普通の人の働き方を書きたい
――常見さんは雇用や働き方についての発言が注目されていますが、最も伝えたいことはどういったところにありますか?
常見陽平氏: 自分の問題意識は、「普通の人の生き方、働き方」です。連載を持っている「The Workaholics」や「NEWSポストセブン」「アゴラ」でも、やはり普通の人が普通に働く幸せを具体的なデータやファクトを使って語ることにこだわっています。僕は目新しいことを書いているわけじゃないんですが、当たり前のことの合理性を伝えたいと思っています。世の中には色々と変えないといけないことがありますが、本当に変えるポイントがどこか、具体的に何が問題なのかが、かなり飛躍して伝えられているし。刺激的な題材の方が受けるから、あおっている人もいますしね。
――働くことについては多くの人が興味を持つテーマだけに、メディアでも多く取り上げられますが、これをめぐる言説についてはどうご覧になっていますか?
常見陽平氏: メディアの「はたらく論」って、よっぽどすごいスーパービジネスパーソンと、ワーキングプアの問題に代表されるような、かわいそうな人に振れがちなんです。僕もワーキングプアは問題として取り上げていますし、逆に「すごい人を育てろ」というのも分かる。日本のエリートは中途半端なので、エリートはエリートで育成するのは大事だし、世の中にとって必要です。でもやはり、普通の人の働く幸せについて、あまり語られていない。普通のサラリーマンがくすっと笑えることや、世の中の理不尽な出来事を少しでも解決していきたいということが、日々僕の考えているテーマです。自分の一言で人一人の人生や、世の中が変わる可能性が何ミリかはあるわけだから、責任を持とうと思っています。やはり謙虚でありたいし、膨張したくない。成長と膨張の違いをすごく意識しています。
メディアに出ている人がすごいとは限らない
――常見さんは、スーパービジネスパーソンを目指す人を指す「意識高い系」について言及されていますね。
常見陽平氏: 自分自身が意識高い系のビジネスパーソンだった時代が、30代前後の時にあったんです。異業種交流会に行ったり、ビジネス書をたくさん読んだりしたんだけれども、何か変だなと思った。「結局目の前のやることって、自分の仕事だ。上司や取引先に納得してもらわないとダメだ」という当たり前の事実に気づいたし、ビジネス書の著者たちが事実をとても「盛っている」ことにも気づいた。メディアに出ている人に対して、「こんな意見が正論として通るのか」とか、「この人がロールモデルって言われるんだ」ということは、ものすごく冷めた目で見ていますね。
――ビジネスの成功者のお話は虚勢を張っている部分もあるのでしょうか?
常見陽平氏: 著者や起業家の人たちの気持ちもよく分かるんです。「自分はすごい」っていうことを言い続けるか、周囲に言わせ続けないと信頼を勝ち得ない。でも、それはくだらないと僕は思います。僕は、論争しても、自分が間違っていた点については「間違っていました」と正直に言うし、いつも「教えてください」というスタンスを大事にしています。そうしないと誰も幸せにならないと思う。実は、世の中に僕なんかが出るのは申し訳ないなと思っているんです。もっと謙虚に頑張っているすごい人がいっぱいいる。例えば研究者でも、教えるのがうまいか下手かはともかく、まじめに研究している方はたくさんいらっしゃるので。
――必ずしも表舞台に出る人だけが「すごい人」というわけではないと。
常見陽平氏: 特にビジネスパーソンで何か大きなことを成し遂げた人は、社長か管理職か、ヒット商品の仕掛け人くらいしかメディアには出てこない。実際の仕事は普通の社員が動かしていたりする。その事実に気づいてくれよということなんです。若くして世に出たブロガーの記事を見ていると、普通のビジネスパーソンで教養のある人に書かせた方がよっぽど面白いだろうなと思うことがよくあります。
著書一覧『 常見陽平 』