柴田英寿

Profile

1967年、三重県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日立製作所に入社し、生産管理システムの設計・開発業務を担当する。1999年、日立製作所の社員による、共著『バリュー・インテグレーション』(東洋経済新報社)を皮切りに、単行本の執筆を続ける。現在は、企画本部に所属し、ビジネス企画について幅広い分野を担当している。近著に『「クラウド化」と「ビッグデータ活用」はなぜ進まないのか?』(東洋経済新報社)、『あたらしい社員の教科書』(中経出版)、『33歳からの時間のルール』(明日香出版社)など。

Book Information

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読者の行動が自然に変わる本を書きたい



柴田英寿さんは、サラリーマンとして勤務しながら、ビジネス書作家として数々のヒットを飛ばしています。執筆テーマは幅広く、物流システムや知的財産権等、エンジニアとしての専門分野のほか、自らの働き方をベースに、朝の時間の有効な使い方や副業など、会社員が自由な活動を行うためのスタイルについての提言をし、広範な支持を受けています。多くのビジネスパーソンに示唆を与え続ける柴田さんに、仕事観や執筆への思いなどを伺いました。

サラリーマンと起業、生き方の選択


――柴田さんは会社に所属しながら、ビジネス書の作家としても活躍されていますね。大変お忙しいのではないでしょうか?


柴田英寿氏: 僕より仕事が早い人はいないんじゃないかと思います。それはそうなれるようにずっとトレーニングしてきたからなれたのです。ただ、そういう能力を100%会社には使っていません。会社の仕事も好きですがもっと好きなこともあるのでそちらに時間とエネルギーを使いたいと思っています。会社員というのは、会社の評価を気にしなければ、けっこう楽な仕事です。昇進したいとかボーナスをたくさんもらいたいとか思うと、やりたくないこともやらないといけない。僕は疲れる程は働きません。やりたくないことをやらずにきて、運もあって本が売れた。中にはめちゃくちゃ働くのが好きな人もいて、それはその人の流儀だから良いと思っていますが、自分はそういうタイプではないです。

――ベンチャーの立ち上げを支援するボランティアもされていますね。


柴田英寿氏: 主に理系の大学院生で、自分の研究していることで、ベンチャーを作ろうと考えている人へ、事業計画や経営戦略に関する講座を開いています。昔からやりたくて、12、3年やっていますが、楽しんでいます。

――ベンチャーに目を向けながらも、ご自身の経験から、サラリーマンの生き方に関する提言をされているのが大きな特徴だと思います。


柴田英寿氏: ベンチャーブームがあって、それをあおっている人たちもいるんですけど、家族ができると、そんなにリスクも取れない。当たった人は良いですけど、当たらない人は大変です。僕の本に『会社の外で稼ぐ術』という本がありますが、まだ世の主流になってないかもしれないですが、僕自身はそういう働き方が良いと思っています。それはもちろん、自分で1発当てることにも賭けたいですが、そんなチャンスは、なかなかない。20何年狙っていますけれど、何回も空振りしています(笑)。

演劇に打ち込んだ大学時代


――読書遍歴についてお伺いしたいのですが、幼少期はどのようなお子さんでしたか?


柴田英寿氏: 小学校の低学年位は元気な子どもではなかったんですが、6年生位からすごく元気になりまして、中学校では部活で野球をやっていました。その時は全然読書家ではありませんでした。本をたくさん読むようになったのは大学生くらいからです。

――どのような本を読まれていましたか?


柴田英寿氏: 大学時代はフランス文学やロシア文学です。会社へ入ってからはビジネス書を大量に読むようになりました。高校から演劇をやっていて、脚本や文学系の読書をしていて、大学はあんまり行かずに、演劇をやっていました。僕らが大学に入ったころは『イカすバンド天国』の影響でバンドブームだったんですが、そのちょっと前の高校生くらいが演劇ブームだった。そういうものに影響を受けていたかもしれません。

――大学は早稲田大学の政治経済ですね。


柴田英寿氏: 僕は今、理系の授業をやっている割に、文系なんです。大学生のころからコンピューターのプログラムをやっていたんですけれど、文系なので試験の時くらいしか学校には行かなかった。学校に行ったら試験が終わっていたこともあって、そこまで行かないとさすがに危ないと思いました(笑)。結局学部を卒業するのに6年かかっています。今はどうか知りませんが、当時は留年してもあんまりお金がかからなかった。取った単位分だけ払えばいいみたいな感じだったので、6年生の時は10万円位しか払わなくてよくて、長居してしまいました。居心地が良かったわけでもなかったですけど、やめる理由もなかった。

ビジネス文書の書き方に戸惑う


――そして現在も所属されている日立製作所に入られるわけですね。


柴田英寿氏: 当時バブルだったので、今よりはずっと内定が取りやすかったです。僕には同期が2500人います。最初は仕事があまりにもできませんでした。特に先輩が普通に書いている報告書などの文章が全然書けない。文学なら文章は感性のまま書けば良いけれど、ビジネス文章は分かるように書かなければならない。調査したことを文章にすることができなかったので、ビジネス書を読んで勉強しました。当時は書店に読んでいない本がない位に読みました。

――どのような本で文章の書き方を勉強したのでしょうか?


柴田英寿氏: 古い本ですけれど、梅棹忠夫の『知的生産の技術』や、清水幾太郎の『論文の書き方』。後は、立花隆の『知のソフトウェア』。そして、そういう本を読むと、この本を読めということがたくさん書いてありますから、それも全部読んでいました。「世の中にはドフトエフスキーだけではなくてこういう世界があるのか」、と面白かった。

――ご自身で本を書かれるきっかけはどういったことでしたか?


柴田英寿氏: ずっと本は書きたかった。たまたま会社で本を出すことになって、共著のプロジェクトに入って、事務局をやることになりました。その時知り合った編集者に、自分の本としていけそうなネタを持って行って、『ビジネスモデル特許戦略』という本を出して、それがヒットしました。

――ビジネスモデル特許に着目したのはどういった理由でしょうか?


柴田英寿氏: 新しいネタは皆が狙っているわけです。ビジネスモデル特許については、当時日経ビジネスにも記事が出始めていて、そろそろ来そうだなという感じがありました。その中で、ちょっとだけ前に出た。だから出す時は急いでいました。企画説明をしてから1ヵ月後には出版されていたと思います。売れる企画ってそんな感じだと思います。売れようと思ったら、「今この瞬間」みたいな旬が大事なんじゃないでしょうか。ただ、ビジネスモデル特許に関してはまだつかみ方が下手でした。今ならもうちょっとうまく書けると思います。

本作りは「一生懸命さの競争」


――柴田さんは既刊本の電子化だけではなく、電子書籍として企画された本も出版されていますね。電子書籍についてはどのようにお考えでしょうか?


柴田英寿氏: 電子書籍は便利で良さはあります。出してみて勉強になりました。ITベンチャーが企画してくれて一生懸命やってくれたんですけれど、プロの編集者ではなかったので、やっぱり編集能力が足りないと感じました。アプリとして出版するというアイデアだけでは足りなくて、本を作るノウハウが必要です。本で出すのとアプリで出すのには一長一短があります。もちろん売るチャネルが増えるのは良いことです。僕の『年収2000万の仕事術』は、コンビニで売ってもらってから、信じられないくらい売れました。本の売り方じゃなくて、ちょっと高い雑誌みたいに売ってくれたんですけれど、意図したのと違う売れ方もしたりしますからね。

――電子書籍の普及にはどのような課題があるでしょうか?


柴田英寿氏: Amazonでも今、Kindleだけで読める300円の本があるんですが、誤字脱字だらけです。僕は小説もKindleであんまり読みたいとも思わない。情報を取るためだったら良いかなと思いますけど。85円で売っているものがたくさんあります。ランキング上位に入るために安くするキャンペーンみたいになって、皆原価ギリギリで売っているんですね。それでは編集の人も報われないのではないかと思います。

――低価格化に走ることで書籍の質が落ちてしまうということでしょうか?


柴田英寿氏: でも、村上春樹の本は5000円でも買う人はいます。だから二極化に行き着くのではないでしょうか。ダイレクト販売で、超ブランドがある著者なら自分で販売できちゃいますから出版社が必要なくな面もあります。紙の本にこだわる作家しか出版社は出せなくなるかもしれません。出版社レスで本を作る部分を突いた、誤字脱字を見つけられる編集ツールが出てくるかもしれません。無料に近い底辺のものと、高付加価値のビッグな人たちの本に分かれて、中間がどんどん崩壊していく。僕も中間にいるので、もうちょっとビッグネームになれると良いとも思います。

――書籍の質を維持するためには編集能力が必要となりますね。柴田さんにとって理想の編集者の条件は何ですか?


柴田英寿氏: 一生懸命やることじゃないでしょうか。僕の編集者は、本当に割に合わない仕事をされていると思っています。僕はすごく丁寧に本を作るんです。でもそういう作業に付き合ってくれる編集者ではないと一緒に仕事ができない。僕も一生懸命やるので、一生懸命さの競争で、どっちかが手を抜き出したらだめになる。編集者にはちゃらんぽらんな人もけっこう多くて、そこも二極化していくのかもしれません。

――最後に、今後の執筆の方向性など、展望をお聞かせください。


柴田英寿氏: 僕の本を読んで、元気になってもらって、少しでも行動が変わると良いと思っています。少しやってみて終わってしまうこともあると思いますが、それを続いていけば習慣になって、自分の生活が少しずつ変わってくる。そのように影響が広がる本を目指して書きたいと思います。本がいろいろな形で広がって、映画や漫画など、ビジュアル化されると最高だと思います。今後は小説や、ビジネス系の原作をやってみたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 柴田英寿

この著者のタグ: 『支援』 『生き方』 『ビジネス』 『作家』 『サラリーマン』 『ベンチャー』 『変化』 『ボランティア』 『劇』 『二極化』 『本の質』

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