日本「ガラパゴス化」のすすめ。
――加藤さんの本の読み方、読書スタイルをお聞かせください。
加藤嘉一氏: 割り切って読むことができないタイプで、斜め読みのようなことができないので、読むのは遅いです。新書を読むのに、少なくとも5時間かかりますが、本当は2日くらいかけてじっくり読みたいです。ハードカバーであれば、基本的には2、3日かけて読みますが、仕事の関係で目を通さなければいけないという本もあるので、1日に同時に2、3冊ぐらい目を通しています。書斎にこもって読むタイプではなくて、ベンチで読んだり、歩きながら読んだり、旅先で読んだりします。
――最近はどのような本を読まれていますか?
加藤嘉一氏: 今読んでいるのは、僕と1文字違いの加藤周一さんの、『日本人とは何か』です。米ニューヨーク・タイムズの中国語版でコラムを書き始めたのですが、僕自身が今年、日本を出て10年という節目の年ということで、日本・日本人を見つめ直すテーマにしようと思っているんです。その取材で、最近ガラパゴス諸島に行きました。よく「日本はガラパゴス化している」と言われるので、日本について考えるにあたって、ガラパゴスに行って自分なりの感性で理解しておきたかったのです。帰ってきてからは、「日本ガラパゴス化」に関する本を読んでいます。
――ガラパゴスではどのような気付きがありましたか?
加藤嘉一氏: 今、『週刊プレイボーイ』で連載していて、今週は記念すべき連載第100回なんですが、その今週の一言が「日本よ、ガラパゴス化せよ」。「開放的、オープンなユニークさを持とう」というメッセージです。ガラパゴス化という言葉は、日本人が内向きであるとか、グローバルからかけ離れているなど、後ろ向きな意味で使われることが多いです。でも、私がガラパゴス諸島で見たものはどれも美しい光景でした。どこの店に行ってもWi-Fiがあるし、人々はグローバルスタンダードで物事を考え、心がフラット&オープンで、多くの島民が英語も話せる。ガラケーなど、そういう意味でガラパゴスという名前を使うのはガラパゴス市民に失礼です。日本もいい意味でガラパゴス化できればいいなと思いました。
真実は現場にある。本は過大評価しない。
加藤嘉一氏: 僕が日々取材するうえでの合い言葉が「真実はいつも現場にある」です。先に本を読んでしまうと、偏見が入ってしまうから、僕はなるべく本を読む前に現場に行きたいのです。多くの人たちは物事を考える時に現場に行かず、ただ本から二次情報を得ています。僕は中国に行く前に中国に関する本は1冊も読んでいなかったのですが、それが功を奏しました。新しいことに挑戦する人は、挑戦する前に関連本を読まず、身体で感じるプロセスから入った方がいいと思います。
本を書いてきた人間として、本を1冊作ることの大変さはすごく分かるのですが、本に踊らされてはダメだと思うんです。できる限り現場に行って、それを見て感じた上で、他者が書いた言説を吸収して、自分なりの考え方を形成していくというのがベストなやり方だと思っています。先ほど僕が言った三位一体における三者はどれも同じぐらい重要で、読書そのものを過大評価してはいけないと思います。頼りすぎることによって逆に失うものもありますから。
――加藤さんの言論は、「三位一体」で学んだもののアウトプットなのですね。
加藤嘉一氏: 中国について書く時も、中国共産党の発表の引用よりも、その場に行って人と話をして、身体的に理解した上で書くように心がけています。今中国はとても注目されていて、色々な人が本を書いています。その中で僕の本のエッセンスは、自分で現場に行って直接話を聞いて、中国語で中国の人たちに発信した上で、日本語で日本の人たちに発信しているということ。自分は、過去に10年間中国・中国人と付き合って、これからも一生中国に関する本を書き続けるし読み続けると思うんですが、現場感覚を大切にしていきたいと思っています。僕の本を読んだ人たちが中国を好きになるか嫌いになるか、それは読者個人の自由だけど、一番望むのは、「私も実際に現場に行って確かめてこよう」と思ってもらえることです。特に若い世代、高校生、大学生の中に行動派の読者を生み出すことに、少しでも貢献できればと思います。
著書一覧『 加藤嘉一 』