誰もが目を背ける問題を言語化し共有する
1964年、島根県生まれ。東京大学経済学部卒業。専門は労働経済学。学習院大学を経て、現在、東京大学教授。『仕事のなかの曖昧な不安』で第24回サントリー学芸賞、第45回日経・経済図書文化賞受賞。著書に『ジョブ・クリエイション』、『ニート フリーターでもなく失業者でもなく』(共著)、『14歳からの仕事道』、『子どもがニートになったなら』(共著)など。2005年4月より、東京大学社会科学研究所にて「希望学プロジェクト」を立ち上げ、その責任者となる。研究は一生ものとし「希望学」の研究に取り組みながら、「ニート」や「スネップ」など無視できない社会の暗闇にも光を当てる。玄田有史教授に研究テーマとの出会いや、今後の展望などをお聞きしました。
妥協せず、意固地にならずに執筆を
――現在、新しい本のご執筆中ですか?
玄田有史氏: 7月、8月と2ヶ月連続で新しい本を出します。1冊は「希望学」の新しい本で、もう1冊は孤立無業の「スネップ」という仕事が無い人の話です。2004年に『ニート』を書きましたが、仕事が無い人、仕事に恵まれない人の話を書くのは、ほぼ10年ぶりです。希望学は、以前出したのが2009年でしたから4年ぶりです。
――本を執筆する場合、理想の編集者像はありますか?
玄田有史氏: 天童荒太などを発掘した、幻冬舎の石原正康さんという有名な編集者に、『ニート』を書いた時に担当していただいたんです。飲んだ席で、石原さんに「売れる本はどうすれば出来るんでしょうか?」と聞いたのですが「企業秘密なので言えません(笑)」と言われ、はっきりとは教えてもらえませんでした。でも、その時同席していた部下の女性が「売れる本について、日頃、石原から言われていることを自分なりに考えてみた」というメールを後からくれたんです。そのメールには、売れる本の条件が3つほど書いてありました。1つは、誰に読んで欲しいかがハッキリしていること。漠然と全体へ向かって書くメッセージというのは売れない。例えばお世話になった人や、昔付き合った彼女など、誰に向けて書くのか絞り込んだ方が、一直線に光線が出て、かえって多くの読者を惹きつけるのです。2つ目は、何を書いてあるのか一言で言える本。でも、それが「いい本」かどうかは別だと思います。『源氏物語』を一言では言い表せないように、「売れる本」が必ずしも「いい本」とは限りません。3つ目は、書き手が妥協しないこと。ただし意固地になってもいけない。これに関しては、僕はすごくよく分かりますし、素晴らしいと思っています。本という作品を守るのは作者以外にはいないのですが、自分の思いが強すぎて意固地になってしまうと、読み手が窮屈になってしまう。こういったアドバイスを言ってくれる編集者がいいと僕は思っています。
著書一覧『 玄田有史 』