市場価値を持つ本を作るのが編集者の役目
――電子書籍について書かれたのは2011年。2年ほど経ちましたが、変化は感じられますか?
高橋暁子氏: Kindleで自由に出版できるようになった影響は大きいですね。ただ受け取るだけではなく、誰もが発信できるようになったので、発信したいことがある方は誰もが著者になれるようになった。検索しても、電子書籍を出している方はたくさんいらっしゃいます。コンテンツが増え、スマホなどで手軽に読めるものが増えたので、昔に比べてかなり多くの方に電子書籍を手に取っていただけるようになったことは、本当に良いことだと思います。絶版になったもの、すぐに手に入らないものを、手持ちのスマホで手軽に読んでいただけるのは、発信側としてはうれしいことではあります。ただ、一方で発信が特別ではなくなり、ビジネスが難しくなってきています。実際に売る力がすごく重要で、ビジネスモデルとして電子書籍だけで食べている方は、それほどいらっしゃらないと思います。
――電子書籍化が進む時代の出版社、編集者の役割はどんなところにあると思いますか?
高橋暁子氏: 編集や出版社の手を経ていないものは、やはり見方が一元的で狭いため、そのままでは売り物にはなりづらいです。編集者の方は慧眼をお持ちなので、客観的に売るためにどんな商品性があるのか、どんな見せ方をすれば市場にリーチできるのかを知っていらっしゃいます。その切り口を信じてその通りに編集していただくことで、持っているものが読者に伝わるものになり、市場価値、商品価値を持つものになるんです。商品価値を持つということは、それだけ多くの方に手にとってもらえるし、それによって多くの方に届けることができるようになる。そのために、編集者、出版社の力が大きな意味を持ちます。電子書籍でも編集者が入ってデザインを変えたり、タイトルの切り口を変えたりするだけでとても変化します。今後益々、出版社、編集者の力が必要になる可能性があると思います。
――普段、編集者の方とはどんなやり取りをされますか?
高橋暁子氏: 今、私が持っているコンテンツと市場とのすり合わせです。どうすればもっと良いものになるか、提案し、話し合う中で、コンテンツのどこを磨くかが、決まっていきます。
――書き手として編集者はどんな存在ですか?
高橋暁子氏: 翻訳者に近いです。自分の持っているコンテンツをどう変換、翻訳すれば多くの人に見てもらえるかを教えてくれる存在です。自分だけでの言葉では伝わらないけれども、編集者の手を借りることで伝わるものに変わっていくんです。
――読者として本屋さんに行くことはありますか?
高橋暁子氏: 純粋に読書が好きですから、本屋にも行きます。自分の周辺を見ることで今、市場で何が求められているのかを感じられますし、本の置き方で書店が何を求めているのか、どうすると反応が良いのかが分かります。書店を通して読者が見えるんです。
――本を手に取る際に、選ばれる基準はありますか?
高橋暁子氏: 違う視点を与えられるものや、今自分が興味のある世界について深く考察されているものなどを選びます。あとは、やはり評判です。自分が信頼する方が、感銘を受けた本のことを書いてらっしゃれば、即決することもあります。今は情報が溢れているので、その中で本当に自分に響くものを探すには人を介する方が効率が良いので、情報もそうやって探すようにしています。多くの方、また信頼する方が「これは」と言うものを、なるべく見るようにしています。
小説などの文学作品は、自分が普段、心で使わない部分が使われ、エクササイズのようなところがあるので、そういう意味で読みます。また、『半沢直樹』などのような、市場で響いているものはなるべく見るようにしています。今、何が受け入れられているのかを知るというマーケティングでもあり、今の人たちを知る手助けにもなるからです。
人生を良くするものを書いていきたい
――ご自身は電子書籍を活用されていますか?
高橋暁子氏: はい、読みます。端末に入れることができ、好きな時間に読み進めていくこともできますので、すぐ手に入れたい資料などに活用しています。
――電子書籍について、課題は何だと思われますか?
高橋暁子氏: 電子書籍は皆さんに知っていただくことが非常に難しいので、プロモーションも大変だと思います。紙の本だと、書店に置かれるので広く知っていただけますが、電子だとAmazonなどでレビューを書いてもらうくらいしかできません。また、目次から目的の部分に一足飛びに飛ぶことができないものも多いです。
そういう細かい所でもう少し改善していくと非常に読みやすくなるだろうと思います。あと、表紙についても、読者が魅力を感じて読んでいただけるようなデザインができると良いだろうなと思います。
今は玉石混交で、ウィキペディアをそのまま売ってしまっているようなものもある。そうなってしまうと、購入した方はがっかりして、電子書籍はもういいとなってしまう。こういったことが、今後の課題になると思います。
――執筆に対する思いはどういったものでしょうか?
高橋暁子氏: 人生やビジネスなど、何かが良くなっていくようなものになって、後一歩、背中を押せるような、そういうものを書いていきたいと思っています。
――ジャーナリストとして取材する場合、どんなお仕事の仕方をされるのですか?
高橋暁子氏: 興味を持ったことを追っていくことが多いです。自分でもソーシャルネットワークを使っていく上でつまずくことや悩むことを取材したり、また、周囲から耳に入ってくことをヒントにして、「これは皆が持っている課題だ」と思うことを深く掘り下げたりします。
――今後の展望をお聞かせください。
高橋暁子氏: ソーシャルメディアは既にインフラと化していますので、より快適に、より安全に、より安心に使用するための工夫は書いていきたいです。
また、ソーシャルメディアも次の新しいものを探していきたいです。リアルに戻っていくような気がします。自分の生活や生き方、実際のビジネス、その部分をしっかりとさせていけるようなウェブサービス、スマホのアプリはまだまだ出てくると思うので、ネットでは終わらないリアルの部分をもっと重視していきたいです。
――リアルとネットとの融合ですか?
高橋暁子氏: スマホはいつでもどこでも世界と繋がっているツールですので、どこにでも発信できます。自分の行動や考えも何かを通して変わっていく。その相互作用が、今後さらに進んでいくと思いますし、その部分でできることはまだあるんじゃないかなと私は思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 高橋暁子 』