小川孔輔

Profile

1951年、秋田県生まれ。1974年東京大学経済学部卒業、1976年同大学院経済学研究科修士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校留学を経て、1986年より法政大学経営学部教授。現在、法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授(マーケティング、マーケティング・リサーチ担当)。日本フローラルマーケティング協会会長、MPSジャパン創業者・取締役。著書に『誰にも聞けなかった値段の秘密』(日本経済新聞社)、『ブランド戦略の実際』(日経文庫)、『当世ブランド物語』『花を売る技術』(共に誠文堂新光社)、『マーケティング情報革命』(有斐閣)、『しまむらとヤオコー』(小学館)などがある。

Book Information

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近くにいる読者が一番厳しい


――書き直しをすることは苦しいことではないですか?


小川孔輔氏: たしかに苦しいです。50を過ぎた大学教授が、編集者に7回も書き直しさせられるのは屈辱でもあります。でも、とにかく本を出したい。感情の問題じゃなくて、結果として良いものができればいい。編集長に「小川先生はマーケティングの先生としては一流かもしれませんが、ライターとしては駆け出しです」と言われました。それはその通りで、「あなたが小川孔輔、so what?」って言われるに決まっているのだから、ゼロからやらなければなりません。
かみさんからは「99年くらいの文章より、今の方が読みやすい」って言われるんです。うちの娘や、かみさんは全部読んでくれているわけではないですが、物語的な類の本は全部読んでくれていて、娘とかみさんに「面白くない」って言われたら書き直します(笑)。娘が高校生の時に書いた本で、「お父さんこれ、面白くない、長い!」と言われてバッサリカットしたこともあります。今は、編集者や仲よしのガールフレンドたちが読んでくれています。ブログでも、面白い記事があるとメールをくれます。やっぱり近くの読者が一番厳しいですから。

――書くことのモチベーションは何でしょう?


小川孔輔氏: 書くことが好きだから。美しい文章を書くことは楽しいです。自分が経験したこと、私はこう感じましたよということを相手に伝える、これが本を通してできるということは、とても幸せなことです。もちろん疲れますが、ブログも本も、何でもいいから書き続けることが大切。それはマラソンと同じです。僕はほとんど毎日走っているのですが、休むと筋肉がなまります。僕だって二日酔いの朝とかは眠たいですが、「よっこらせ」と起きて走る。嵐じゃない限りは走っています。ペンも書かなくなるとなまります。良い文章ばかりではなくて、つまらないものもありますが、それでも書き続けます。



――昔の作品を読み返すことはありますか?


小川孔輔氏: テキストに使っているものは読み返しますが、それ以外は、昔の仕事だから読み返しません。タカラトミーの富山幹太郎さんが、「おもちゃ屋は後ろを振り返らない」とおっしゃっていました。常に新しいものを考えていないといけない。やったことは、必ず次の仕事に役立つ。それと同じだと思います。後ろを振り返っている暇はないです。

仕事の本は電子、趣味の本は紙


――ブログのお話がありましたが、ディスプレイ上のテキストには本との違いはあるでしょうか?


小川孔輔氏: テキストで文を書いていますが、最近変化があって、空白を含めて、書いた文章の絵面が気になるようになりました。例えば、よくブログで行間を2行とか開ける人がいますよね。僕は、それはあんまり好きじゃなくて、読んだ時に絵面的に見てきれいで、このまま本になってもおかしくないようなイメージで作っています。だいたいA4にすると1ページちょっとになるよう、1回のブログを構成していて、これが一番読みやすいと思っています。見て美しくなるように文章を書く。しかも僕の場合はブログに写真を貼り付けていません。今どき写真を貼り付けていない人は珍しいと思いますが、絵がない世界の中でどれだけ相手に伝えられるかというのもチャレンジです。僕のブログは、言ってみればすでに電子書籍です。カテゴリーを潰せばエッセイ集になりますから。

――電子書籍についてはどのようにお考えですか?


小川孔輔氏: 僕は小さい頃から活字が好きで、紙も好きなので、どうしても電子書籍には馴染めません。手触り感の違いというのも理由の1つです。電子書籍がなぜ読みにくいかといったら、紙の新聞と電子の新聞の違いでもありますが、一覧性がないことにあります。

――大学での指導の現場ではお使いになることはありませんか?


小川孔輔氏: 教育のツールとして電子媒体というのは、僕のところではまだ利用していないですね。ただ、ネットで授業中に検索するということはよくやります。常に学校のパソコンはオン状態です。分からないことがある時、いつも検索しています。海外の企業の売り上げ規模がどれほどなのかなど、分からない情報はすぐGoogleで調べます。逆に言うと、学生も僕も、図書館に行かなくなったとは思います。
それと、電子媒体が有効に機能しているのはジャーナル(学会誌)です。紙のジャーナルは読まなくなりました。しかも、ジャーナルをダウンロードするのではなくて、中の論文だけを読んでいます。なんといっても、検索機能があることが電子媒体の利点です。仕事で読むのと、趣味、楽しみで読むのとは全然違う世界です。

――紙と電子が対立し合うものではないということですか?


小川孔輔氏: そういう対立項はないと思います。買い物する時にネットと店で買い物をすることには、それぞれの良さがありますよね。それと同じです。仕事で使うのと遊びで使うのはちょっと違うので、使い分けですよね。

――今後のお仕事の展望をお聞かせください。


小川孔輔氏: ビジネス書で書かなきゃならない本が3冊あります。さきほどの『ホワイト企業の事例研究』という本と、サービスの本と、それからフィールドワークの本や調査の本ですね。それから、日経で2つ企画があって、今不定期連載をしている『マクドナルドの時代は終わった』を本にすることと、それからあともう1冊ビジネス書。あと、小説っぽいものだと、BOOKOFFの坂本さんの自伝を書くという作業があって、これは2年ぐらいかかると思います。ロック・フィールドの岩田さんにも実は書かせてくれと言っていて、準備をしています。事業をやっているので、そこからまた出てくるテーマもあるでしょう。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 小川孔輔

この著者のタグ: 『大学教授』 『経営』 『マーケティング』 『研究』 『モチベーション』

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