自分のキャッチフレーズを求めて失踪
――本を執筆するようになったきっかけは、どのようなことだったのでしょうか?
中山マコト氏: 本は独立した後に書き始めました。当時は、クライアントから依頼を受けた時に、「まずは、何をやっている会社なのか分かるようにするために、自分の会社のことを一言で伝えるキャッチフレーズが不可欠。納得のいくキャッチが出てくるまでに、3カ月ぐらいください」と言っていました。キャッチフレーズを決めると、やるべきこととやっちゃいけないことが決まるのです。もし、ビジネス書の方専門のインタビュアーと名乗るとすると、ビジネス書以外の人にはインタビューをしない。そして、専門を決めてインタビューを続けていると、おさえなきゃいけないツボなど、専門性が高まるのです。
独立してから、忙しすぎたり、変な仕事をたくさん頼まれたりする状態にしんどくなった時に「この状態から抜け出すにはどうしたらいいか」と考え始めました。それで、自分のキャッチフレーズを決めれば、社会的に表明できるわけだから、みんなも従ってくれるだろうと思い、3カ月の間外界との交流を絶ったのです。妻を呼んで「僕はこれから3カ月間いなくなります」と切り出しました。
――「失踪中」はどちらにいらっしゃったんでしょうか?
中山マコト氏: 外界との交流を絶っているだけなので、家にいたり、散歩したりしながら自分のキャッチフレーズや、今後の展開などについて毎日考えていました。そうして2カ月と10日経った時に、キャッチフレーズが浮かび、「これで行こう」と思えたのです。その翌日からそのキャッチフレーズを入れた名刺を持ち、不義理をした人たちのところへとお詫び行脚を始めたんです。怒られることもありましたが、逆に「おまえもひどいやつだな。でも自分のためにその時間を作ったんならいいんじゃない?」と言ってくれる人もいて、いい方向へ向かい始めました。ホームページも持たずに仕事を始めたので、その頃の僕には「自分はこういうことが得意です」と表明する道具がなかった。でも、書くべきことが決まると「ホームページを作らなければ」と考えるようになり、見よう見まねで作りました。でもまだその時は「本を書く」という考えにはいたりませんでした。
書くことは全て頭の中に入っている
――執筆へと本格的に動きだしたのは、いつ頃だったのでしょうか?
中山マコト氏: 仕事をやっていく上で、もう1つ問題がありました。例えば「3年間に亘ってダウントレンドのイタリアンレストランをやっています。どうしたらいいでしょうか?」といった漠然とした内容の問い合わせがくるんですが、それに一生懸命答えていると1日が潰れるんです。それで「これを読んだら自分でやれるよ」というものを書くことを思いつき、原稿を書き始めたんです。すると結構なボリュームになったので、きちんと製本してみようかなと考え始めました。結局160ページくらいの大作になったんですが、僕の大親友でもある印刷屋と、今は印刷会社で営業部長をやっている印刷屋の後輩の2人から「これは絶対に本になる!」と絶賛されたんです。
――試験版ではなく、きちんとした本にした方がいいよと背中を押されたのですね。
中山マコト氏: それで冊子をバッグに入れて持ち歩いて、会う人ごとにあげていたんです。そうやって読んでくれた人の中に、某・世界一大きい広告代理店のマーケティングの責任者という僕の友人がいたんです。その2年ぐらい前にその友達が共著で本を1冊書いていて、「これ、面白いよ。あさって、その時の本の編集長と会うんだけど、渡してみようか?」と言ってくれたんです。すると新宿で飲んでた時に、「編集長さんに見せたら面白いって言ってるんだ」と電話がかかってきて、すでに酔っ払っていたんですが、タクシーを飛ばして行きました。翌日、正式に契約を交わすことになったのですが、発行日は3か月後だと言われました。原稿を色々直したり、最初の章に面白い話を追加したりするから時間がかかる、ということだったんです。でも僕の場合は、書くことは自分の頭に全て入っているから、指摘されたところを全部直して、翌日提出できました。すると、どんどん進んでいって、約1カ月後には書店に並んでいました。日本能率協会史上最短記録だそうです。
――それが『キキダス・マーケティング』ですね。
中山マコト氏: 本の売り上げはあまり伸びなかったんですが、業界では結構話題の本だったので、その後出版社から、2つ、3つと依頼もきました。でも、僕は全部断ったんです。
――なぜ断ったんですか?
中山マコト氏: 要するに、「『キキダス・マーケティング』のようなものを出したい」ということだったんです。僕は「同じようなものを」ということなら書かないと断ったんです。そうしていると、ある女性編集者からメールがきました。それも同じような話だったので、最初は断ったのですが、「1回話をしましょう」と言われて会うことになったんです。僕が「どういうものなら書いて欲しいですか?」と聞きと、「『キキダス・マーケティング』を読んだ時に、本当のノウハウだ、と思った章がある」という答えが返ってきました。それは、お客さんから話を聞き出して企画したり、それをヒントにコピーを書いたりするという章でした。それで、その部分を膨らませて1冊にしたのが『「バカ売れ」キャッチコピーが面白いほど書ける本』です。これは僕の中では出世作となり、今に至ります。コピーライティングの本という分野では、2万部売れると大ヒットって言われていますが、文庫本を入れると5万部ぐらいになっているんじゃないでしょうか。
著書一覧『 中山マコト 』