飛岡健

Profile

1944年、東京都生まれ。防衛大学校航空工学専攻卒業。東京大学大学院工学系研究科博士課程(航空工学)修了。東京大学航空宇宙研究所にてロケット・人工衛星の打ち上げ、研究に従事した後、哲学、社会学、経済学、心理学、生物学を進め、88年に現代人間科学研究所を設立。(現在「人間と科学の研究所」)技術、マーケット等の未来予測及び多くの企業の経営戦略の作成を専門とし、政府や地方自治体及び民間企業からの委託研究を行う。 著書は115冊を超え、『3の思考法』(ごま書房)、『“逆”思考の頭をもちなさい』(河出書房新社)、『ものの見方、考え方、表し方』(実務教育出版) 『哲学者たちは何を知りたかったの ?』(河出書房新社)など。

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三現主義。「現物 現場 現状」をよく知ってからでないと、
物事の成功はおぼつかない。


――音楽がお好きと伺いました。飛岡さんにとって、音楽はどのような存在なのでしょうか?


飛岡健氏: 例えばアインシュタイン。スイスのベルンにある、彼が特許庁の役人だった頃に住んでいた部屋が記念館として開放されていますが、そこに、「もし音楽がなかりせば、私の相対性理論は生まれなかっただろう」ということが書いてあります。バイオリンを弾いた時、右脳の中にインスピレーション、イマジネーション、イントゥーションというものが生まれ、そうしてできたものを人間同士がコミュニケーションする為の記号を操る左脳に移して出来上がったものが相対性理論だったのです。つまり、音楽があってイマジネーションが生まれる。私もアインシュタイン同様、執筆においてのインスピレーションや日常生活をする上で、音楽は必要不可欠な存在であると言えますね。

――全国各地で、3000回以上の講演をされているということですが。


飛岡健氏: 経団連の軽井沢セミナーというのがありまして、35歳の時に、講演のチャンスをいただきました。そこで講演させていただくことによって、現在も私が主宰している勉強会、「飛岡健のスペシャルセミナー」がスタートし、色々な会員さんの輪が広がって、全国でセミナーをやるようになりました。全国へ行って、現地をできるだけ見て歩きます。好きだから、というのも理由の1つですが、まずなによりも現地を知ることが大事。よく「三現主義」と言いますが、現物・現状、それから現地を知ることが非常に重要なのです。それはまさに孫子の、「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」ですよね。講演の対象は経営者の方です。もちろんグローバルにやっている人もいますが、多くの経営者、中小企業の経営者は地元で生きているわけじゃないですか。だからこそ、地元のことも知らないで、他所からやってきた人間が勝手に話をしていてもしょうがないのです。
また、昔から「神は細部に宿る」と言われています。ビジネスで成功するためには、細部を細かく知って、その上で戦略を立てなければいけないのです。「戦略・戦術」などとよく言われますが、「戦闘」とはあまり言いませんよね。「戦闘」の現場を知らないで、どうして作戦をたてられるのでしょうか。

――そのような考え方を持つようになったきっかけとは?


飛岡健氏: 昔、ロケットを研究している頃に、現場をよく知らなかったことが原因で恥をかいたことがありました(笑)。人生というスケールで見てみたら、そういった失敗は自分の知識になるわけですから、財産を得たようなものです。タイムスケールをどこにとるかによって、成功も失敗も判断は変わっていくのです。

自分の知識の限界が見える


――普段、執筆はどちらでされていますか?


飛岡健氏: 本郷に「麦」という喫茶店があるのですが、私が高校1年の頃から通っているお店で、クラシック音楽の店でもあります。私の本の半分ぐらいはそこで書いたものです。朝6時45分から開いていて、だいたい朝の時間は麦に行って、執筆の時間にあてています。

――なぜ朝なのですか?


飛岡健氏: 脳の研究をした結果分かったことですが、今まで脳の中に入っていた情報知識と、その日のうちに入れた情報知識を、できるだけ脳の中のエントロピー(無秩序さや乱雑さの度合い)が下がった状態で収納するという、入れ替え作業があるのです。一番脳のエントロピーが下がった状態、すなわち秩序化された状態というのは朝なのです。朝の方が、新しいことを考える上で一番いい状態であり、本当に創造的なことをやるのに適しているのです。

――多分野にわたり多くの本を出版されていますね。


飛岡健氏: ある1つのテーマについて、私はどの程度知っているだろうかというのは、本を書いてみると分かります。自分の知識の限界が見えるのです。自分の知識の限界をおさえるという意味で本を書くということは、非常に良いです。でも、本を書く目的はもう1つあります。著者というのは、出版社という公の機関から書くことを認められた人です。また、本の後ろを見れば履歴も出ており、本には自分というものが表れています。ですから、私という人間を他人に紹介してもらう時、いちいち経歴などを説明せずとも、「この本の著者です」と言うだけで済むので、そういった面でも、すごく便利なのです(笑)。

――本に込められた思いとは?


飛岡健氏: 非常に冷静に申し上げるならば、私と共通の人間体験がなければ、私のことを全部理解してもらうのはまず無理ですよね。それは期待してはいけないなと思います。AとBの人間の脳があるとすると、2つは違うわけですが、Aの考えたことがBに入った場合、Aと同じイメージができ上がるとは限らないですよね。でも、なんらかのインパクトを与えることはできると思うのです。その人が考えたり思ったりすることの、1つのトリガーというか。そういうものになることができればいいな、と私は思っています。

――飛岡さんの本を読むと、言葉を大切にされているということが伝わってきます。


飛岡健氏: ものを書く人というのは、奥歯がダメになりますね。最初の一言と最後の一言がつながっているかどうかを考えながら書き進めると、最後の方になると歯をくいしばって脳を動かしている状態になります。だから奥歯がみんなやられてしまうのです。つながりのない文章を書くとしたら、別にそんなに歯をくいしばる必要はないですよね(笑)。構造性をそこに持たせよう、あるいは論理的整合性を持たせようと思うと結構大変です。

著書一覧『 飛岡健

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