「諦めない」才能。描き続けて来たからこそ、開く扉。
戦争を題材とした劇画を中心に活躍する劇画家・イラストレーターの小林源文さん。『GENBUN MAGAZiNE』では、自らが発信媒体を持つ事で、自由なテーマで多くのファンに作品を届けています。数々の作品を世に出し続けるまでには、何度かの挫折や苦労がありました。その経験は、現在開かれているアートスクールで後進育成のノウハウとなって活かされています。描き手としてだけでなく、育てることにも熱心に取り組まれている小林さんに、出版に至るまでの経緯、作品を仕上げる喜び、描き続ける秘訣について語って頂きました。
“心の隙間”を埋める
――(お仕事場にて)資料がたくさんありますね。
小林源文氏: 明日あげなきゃいけない原稿もあります(笑)。自宅ではなく、あえて仕事場を設けている理由でもあるのですが、ここはもともとアートスクールを開くつもりで借りました。デッサンのための石膏像も押し入れに入ったままになっています。
――映画も流れていますが。
小林源文氏: これは今度描く漫画の資料映像として流しているのですが、映画は昔から見ていましたね。小学校4年から6年の間は月島に住んでいて、木場に行けば三番館の映画館があり、日比谷の方に行けば洋画のロードショーをやっていたりしましたので、よく歩いて映画を見に行ったりしていました。「地底探検」(米国、原作『地底旅行』)とかを日比谷の三原橋のあたりにある映画館で見ていましたね。それから「荒野の七人」(米国、日本映画「七人の侍」黒澤明監督のリメイク)。黒澤映画をベースにしているとは全然知らないで(笑)。その頃は、テレビでもちょうど西部劇が流行っていたんです。
――その頃、絵は描かれていましたか。
小林源文氏: 絵を描くのは昔から好きでしたね。親父はもともと警官だったのですが、使い込みとかそんなことをして退職してしまいました。おふくろは中学校の時に家出。中学1年生の時に別れて再会するまで38年かかったかな(笑)。保険会社か銀行員のおばさんが探してくれたのですが、38年ぶりに会った時は、人目もはばからずいい歳をしてびーびー泣いてしまいました(笑)。そういう家庭環境だったから、絵を描く方向でいったのかな、と思いますね。要するに、現実逃避です。本当にまともに絵を描くようになったのは、中西先生の門を叩いてからですね。その若い時にいい絵描きさんと出会えたのが良かった。それでずっと続けてこられたから。あとは、こういう絵を描くアルバイトは、当時、普通のアルバイトよりもギャラがかなり良かったからね(笑)。
それから中学生の頃には、絵を描いたり映画を見に行ったりする一方で、読書にも目覚めました。古本屋によく行っていましたね。ずっとアメリカの文化に憧れていて、あの頃、毎日新聞でやっていた『リーダーズ ダイジェスト』をよく読んでいました。最初に読んだのがちょうど小学校の5、6年生の時で、マリリン・モンローが亡くなったという記事が載った時、「こんな可愛い女の人がいるんだ」と驚いたのは、ずっと記憶に残っています(笑)。それと『リーダーズ ダイジェスト』は、記事に載っているイラストのセンスがいいんです。今では「アメリカン・イラストレーション」という分野になっているけど、「そういう絵はどうしたら描けるのかな」と思っていましたね。その、自分が理想とする絵に一番近かったのが中西先生の絵だったんです。
門を叩くも「弟子入り」は、却下
――後に弟子入りの門を叩かれる先生ですね。
小林源文氏: そう、今から50年ぐらい前は少年月刊誌の時代があって、その頃、挿絵画家では小松崎茂さんがトップで、中西立太先生や高荷義之さんなどの作家がいました。中西先生か高荷さんのどちらかに弟子入りしようと思ったのですが、中西先生は軍事物以外の絵も描けて幅広く活動されていて、なおかつ当時自分が住んでいた場所から近いという事で、出版社の方に中西先生の住所を教えてもらい、門を叩きました。それが15、6歳の時です。「弟子にしてください」と言うとすぐ断られましたけど、「暇な時に遊びに来ていいよ」と言われたので、その時はしょっちゅう入り浸って後ろで絵を描くのを見ていました(笑)。
――憧れの作家の現場を生で見られたんですね。
小林源文氏: 当時、小学校の同級生と漫画を描いていたのですが「とてもじゃないけど俺はこんな絵は描けないな」と思いましたね(笑)。そして、何年間か通って見ているうちに、先生に「小林君ね、リアリズムだったら長く食えるよ」と教えられました。まともにデッサンを練習し出したのは18歳ぐらいの時からですね。2年ぐらいやって、会社の寮で同じ部屋にいた先輩の昼寝している顔を描いて見せたら、「小林君、うまくなった」って初めて褒められたのを覚えています。たまたまその先輩が色黒だったから描きやすかったんだよね(笑)。それがまず第一歩だったかな。