いしたにまさき

Profile

1971年大阪府生まれ。成城大学文芸学部文化史学科卒業。 Webサービス・ネット・ガジェットを紹介する考古学的レビューブログ『みたいもん!』運営。2002年メディア芸術祭特別賞、第5回WebクリエーションアウォードWeb人ユニット賞受賞。内閣広報室・IT広報アドバイザーも務める。ひらくPCバッグなどカバンデザインも手がける。 著書に『あたらしい書斎』(インプレスジャパン)、『ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である』(技術評論社)など。 『できるポケット Evernote 基本&活用ワザ 完全ガイド』(インプレス)等のガイド本や、『ツイッター 140文字が世界を変える』(毎日コミュニケーションズ)をはじめ共著も多数。

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本から見える世界、書棚は知の宝庫


――本の中にメモ書きみたいなものがあったのですが。


いしたにまさき氏: カバーをかけて読み、そのカバーにメモをし、読み終わったらそのカバーをとって置いておくという読み方を、昔はしていたのです。最近は付箋を使うことも多いです。
新書やマンガに関しては、ほぼ電子書籍に切り替えつつあります。



「どうしてもとっておきたい」というものや、実は繊細な線を描く東村アキコさんのマンガの中の、気合いの入ったクライマックスシーンなど、このサイズで読みたいというものは、紙で買い直したりします。作家との出会いという点で、電子が入り口になるのはいいと思います。でもマンガの場合、読み方によって、受け取れる情報量がかなり変わってしまうので、最初に作家が考えたサイズで読んだ方が、受け取れるものも多いのではないか、という気はします。でも、自分のおすすめの本をシェアするには、電子書籍の方がはるかに楽だったりするんですよ。

――用途に応じて使い分けているといった感じでしょうか。


いしたにまさき氏: そうですね。日本が電子書籍への対応に若干遅れてしまったのは、印刷技術の高さによる「本」というプロダクトを作る強さと、江戸時代から本を読んできたという世界と比較しても恵まれた環境にいたということでしょう。文庫本はKindleより軽いから、なかなか取って代わられないでしょう。英語の場合、日本語に比べて三倍の文字量が必要で、同じ内容を表すにも紙が厚く、大きくて重たいのです。その「ラッキーさ」が本の世界においてはあると思います。

――こういった「本棚」の存在も、大きな差になっているように思います。


いしたにまさき氏: 「自分の持っている本をどう収容するか」このへんのアイディアがもっと発展してくればいいなと思いますね。自分が読んだところの記憶や、この本とこの本を結びつけて考えた方がいいなどという、自分なりのアーカイブを本棚という形で作っていけるような仕組みが欲しいですね。

――ネット時代の「本」のあり方も、気になります。


いしたにまさき氏: 僕は時々「学生時代にネットがなくて良かったかも」と思います。ソーシャル以降というのは、コミュニケーションが主体。それには当然、価値があるし、面白いし、そこに時間を使うなとはまったく思いませんが、自分の血肉になっていく読書の時間が削られる部分にはどうなのかと。若い自分が今の時代にいたら、はたして20年前の自分と同じ量の本を読めるだろうかと考えると、多分読めていないだろうと。

今は、寝る寸前まで人とやり取りができますよね。でも昔は、家に帰ると基本は1人なので本を読んでいましたし、移動中も本を読んでいました。今は、その時間がネットやスマホに置き変わっています。それが現状なので、良いも悪いもありませんよ。でも、自分が読めた本のうちの何冊かを、今だったら読めなかっただろうなと考えると、今の若い人たちは大変だなと思います。それから、他人の書評なども簡単に見られるようになりましたよね。あれも、良いところももちろんたくさんありますが、それによって自分の中で、本を読む前にバイアスがかかってしまう部分もあると思います。

――「本」とのつきあい方も、どんどん変化していくのですね。


いしたにまさき氏: 逆にスマホで電子書籍を読んでいる人もいるだろうし、どんどん変わっていくと思います。本のパッケージに費やされた時間、込められたところを消化するためには、ある程度、まとまった時間が必要です。コンテンツがどうしても細分化の方向に流れていってしまうのは仕方ありませんが、そこで踏みとどまることを、ある程度意識しないと辛い時代になってきているのかなと思います。

――編集者との想いの共有も、重要ですね。


いしたにまさき氏: 『あたらしい書斎』の編集者の方は、インプレスの一連のEVERNOTE本などを一緒にやっている方だったので、お互いによく手の内がわかっています。ですから、打ち合わせというよりは、取材に行きながら、だんだん形を作っていくという感じでした。お互いにネタ出しなどもやりました。

編集者も同じですが、出版社の仕事は、まずは本のクオリティーをあげること。それから、作家の環境を整えてあげるというのも大事な仕事だと思います。今はベストセラーもなかなか出ないですし、本が売れない時代ではありますが、じゃあ本がなくなっていいのかといったら、そんなことはありません。ですから、本を書ける人が生きていけるような環境整備を、出版社にはしてほしいなと思います。

予想だにしない化学反応こそが面白い


――そのコンテンツの作り手として、いしたにさんの軸はどこにあるのでしょう。


いしたにまさき氏: 自分のことはあまり書きたいとは思っておらず、基本的には読み手側から考えたいですね。カバンについても、使う人のことを考えたい。そこを踏み外したくないですね。本を読むことの目的は、本にあるものを100パーセント吸収することではなく、それを読んで、自分の考え方や行動に反映していくというということが一番大切だと思っています。読み手としての矜持みたいなものですよね。それをどう培っていくかというのは、コミュニケーションの中でもできるだろうし、本だけの役割ではないと僕は思います。発信者というよりは見る人。そこが自分にとっての軸だなと思っています。

――いしたにさんの熱い想いは、今どこに向かっているのでしょうか。


いしたにまさき氏: 僕は基本、ノープランです(笑)。ただ、若い世代や、あまり本を読んでいない人たちが、「何を考えて、どういう世界を作っていくのか」ということに興味があります。目標設定して、それをクリアすることをつまらないことだとは思いません。でも、自分が設定した目標、つまり自分の出した本が目の届く範囲に留まっているということは、残念なことなのです。出版して世に一つ問うたことによって、予想もしないことが起きたりとか、何かと反応を起こして違う展開に転がっていったりすることこそが一番楽しいですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 いしたにまさき

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