複雑なことを単純に
――そのメモの集大成が本になります。
高橋洋一氏: 学者の仕事というのは、複雑なことを単純化することだと思っています。複雑なことを、複雑なままに説明しても、何を言っているのか分からないですよね。論文だけではなく、本にしても「本質的なところはこうだから、物事は簡単ですよ」というような書き方をしています。
例えば、複雑な事柄も、いくつかの前提からすべての解答が導きだされます。本質があって、そこに何かが組み合わさったものが、すべての世の中の事象になっています。「何が本質か」ということから導き出すので、頭の中は五つくらいのことしか頭に入っていないのです。一般的に演繹といいますが、少ないことから組み合わせて、話を理解していくので、話が簡単になるわけです。私の本は凄く単純だと思います。特段読者を意識していませんが、読んでいただいてありがたく思っています。
――先生の本は、引用が比較的少ないように見受けられます。
高橋洋一氏: 自分の頭で考えてやる、ということに慣れているので、「誰かがこういうふうに言っている」と書くことは、ほとんどないですね。「こういうふうに思うから」と書いています。私の判断基準は自分だけなのです。自分で調べて、見つけて考えるというのが基本です。調べる時には、一次資料しか読みません。ですから、ここの学生にも一次情報が英語の場合「翻訳された日本語だけを読むな、英語を勉強しろ」と、言っています。
一次資料を読み込む
――オリジナルに当たれ、と。
高橋洋一氏: 翻訳された情報は、すでに何らかの編集が加えられた二次情報です。インタビュー原稿と一緒ですよ(笑)。日本語だけを読む、つまり二次情報だけでは、偏りが出てきます。英語を知っておくと、一次情報に当たりやすいので便利ですよ。英語は暇な学生の時に勉強するのが一番ですね(笑)。
私は基本的にMacユーザーですが、英語のKindleアカウント用に iPhone、日本語のKindle アカウント用にAndroidのXperiaと使い分けています。アカウントを統一すると不便なので、別々のアカウントを持っています。昔は洋書を読みたくても、手元に届くまで時間がかかりましたが、電子書籍では、場所も時間も選ばずに、「ポチッ」と電源を入れればすぐ手に入ります。読みたいという熱意のあるうちに読むのが、一番頭に入ります。
計画通りの無計画
高橋洋一氏: 今日は一通りお話ししましたが、すべて成り行きのお話をしました。“if”(もしも)の話をすると、大学卒業後そのまま統計数理研究所に進んでいればそこの教授になっていたと思いますし、入省したのも台風が来たから院試を受けるのが面倒になって、そのうち採用通知が来たからそこを選んだ。すべて成り行きです。「こうするべし」と思ったことは、一度もありません。「風の吹くまま、気の向くまま」です。
――吹かれて進む先に、今何が見えていますか。
高橋洋一氏: 私のモットーは、「風車」。風が吹けば吹いたで、その時やるけれど、風が吹かなければ、昼寝。そのうちに、いい風が吹く時もあると思います。こんな調子だから、いろいろといわれますが、しょうがないです(笑)。ただ「お前は、あまり人の意見を聞かない」と言われることに関しては、「私は意見を言う立場であって、意見を聞く立場になっていない」と答えます。仕事として、行政官の時に、仕方なく意見を聞いたことはありますよ(笑)。でも、今意見を言う立場であれば、誰かの意見は関係ないですし、そもそもその立場にいる意味がありません。「誰かのためにやっています」なんて言うつもりはありませんが、その気持ちだけは変わらないでしょう。
(聞き手:沖中幸太郎)
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