木全賢

Profile

1959年生まれ。1985年シャープ株式会社入社以来、一貫して工業デザイン分野にかかわる。2006年に独立。主に中小企業へのデザイン支援を行い、各種デザインセミナーなども開催している。 桑沢デザイン研究所、東京デザイナー学院の非常勤講師も務める。 著書に『デザイン家電は、なぜ「四角くて、モノトーン」なのか?』(エムディエヌコーポレーション)、『売れるデザインの発想法』『デザインにひそむ〈美しさ〉の法則』(ソフトバンククリエイティブ)、『売れる商品デザインの法則』(日本能率協会マネジメントセンター)など。 日経BPで『小さな組織の未来学』にて連載中。

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デザインで豊かな社会を



中小企業デザインコンサルタントの木全賢さん。一貫して工業デザインの分野に携わってきた知見を活かし、中小企業の支援や桑沢デザイン研究所、東京デザイナー学院での講師を務められています。「デザインで世の中に貢献したい」という木全さんに、デザインの持つ力、面白さについて語っていただきました。

日本のかなめ、中小企業をデザインで支援する


――木全さんの元には多くの相談が寄せられていると聞きます。


木全賢氏: 最近は二代目社長から「先代と違うことをやりたい」「今までは大企業相手に下請仕事をしてきたけれど、今後は幅を広げて一般顧客向け商品を作りたい」という前向きな意見がよく聞かれます。ちょうど今、中小企業は創業者から二代目、もしくは三代目という代替わりの時期に来ています。その中で、事業継承が大きな課題になっています。

その課題や、相談をデザインという側面から支援していくのが私の仕事です。どんな悩みを抱えているのか、まずは聞くことが大事なので都内近郊であれば、初回は無料で相談を承っています。中小企業の経営者にはエネルギッシュな方が多くて、面白いですし、やりがいもありますね。

――桑沢デザイン研究所や東京デザイナー学院で、講師もされています。


木全賢氏: 私の授業は、「将来のことを考える時間」と位置づけて、「マインドマップ」を使った授業をしています。これからデザインを仕事にしていく学生に、作品集(ポートフォリオ)の制作を通して過去から現在、将来の希望などの質問を投げかけながら、指導しています。また「デザイン以外で得意なことは?」など、さまざまな視点からの質問を投げかけます。今一度自分に向き合うためにも大切な時間だと認識しています。

――多角的な質問を投げかけるのは、どういった狙いがあるのですか。


木全賢氏: これからはデザインだけではなく「デザイン+α」が必要で、この「+α」について、自分の得意分野は何かと考えてもらいます。こうすることで世界が広がりやすくなり、ひいてはそこから新たな仕事が生まれる可能性もあると考えているからです。

曾祖父の工房で感じたものづくりの面白さ


――木全さんご自身、そのデザインと+αの部分をつなげて進んでこられました。


木全賢氏: 私の軸となる、「ものづくり」「デザイン」の素養は、曾祖父の影響かもしれません。曾祖父はお神輿などを作る宮大工だったそうです。私が生まれた頃にはすでに引退していましたが自宅に工房があり、そこで蒔絵の箱を作ったりしていました。それを見て、面白いなと思ったのが最初です。私は『鉄人28号』や『鉄腕アトム』の世代で、絵も好きだったので漫画を真似して描いていました。

――大学も、ものづくりの分野に。


木全賢氏: 大学は理系分野に進み、エンジンなど内燃機関を学んでいましたが、だんだんとエンジンそのものから、外側のデザインに興味が向かっていき、プロダクトのデザインを学ぶために桑沢デザイン研究所に進むことにしました。周りから反対されましたが、「俺は行くんだ」と一点張りで……(笑)。それから先の筋道なんて何も考えていなかったのに、とにかくやりたいことをやれば何とかなると思っていました。

――その強い想いが実り、様々な場所で活躍されます。


木全賢氏: 最初はシャープの奈良工場で、パソコンや電卓などのデザインに携わっていました。そこで商品が作られて世に出ていく過程を学びました。家電製品が伸びていた時代で、半年のペースで新商品が出ていました。「半年前に図面を手伝っていたものが、もう商品になっている。」そんなスピード感がありました。グッドデザイン賞が取れたときなどは、仲間と喜んでいましたね。

興味の延長線上を渡り歩く



木全賢氏: シャープには五年程いました。仕事をしていくうちに、作った商品をどのようにして届けていくのかに興味が湧いてきました。例えば、私はシャープのデザイナーでしたので、スケッチには「SHARP」というロゴマークを入れます。ある時、ちょっとしたイタズラ心で「SONY」と入れてみたら、そのほうがかっこいいし、ちょっとおしゃれに見えたんです。モノを作る側の人間としては不思議でしたが、ここでコーポレート・アイデンティティの重要性を認識し、ロゴマークなどを考える仕事に就きたいと考えるようになりました。

――プロダクトのデザインから、ブランドデザインへ。


木全賢氏: PAOSという会社で、コーポレート・アイデンティティの仕事に携わりました。様々なプロジェクトを通して、ブランドのステイタス向上の仕組みを学びました。その後、テプラや工業用の機械、住宅建材などのデザインにかかわることができました。それぞれ扱うジャンルは全然違いましたが、デザインの手法は変わりませんでした。「人間が作るものは、プロセスをきちんと踏んでいけば、形になっていくんだ」ということを確信しましたね。



サムスンにいた頃は、日本の出先機関として先行開発デザインに係り、五年先の商品をサムスン韓国本社に対して提案していました。アメリカやヨーロッパにもそういう部署がありました。技術進化を予測することはとても難しかったですね。

――出来なかったことが出来るようになると、デザインもぐんと変わります。


木全賢氏: 家電製品の未来デザイン提案をしていましたが、数年続けると出尽くした感があり、そんなときにちょうど、新規事業の社内公募があり、そちらに異動して、コンテンツビジネス、アニメーション制作に投資しました。三本くらい投資しましたが、全然儲かりませんでした。今では、日本サムスン社内で「かつてアニメ投資をした部門があったらしい」と伝説になっているようです。

デザインで豊かな社会を



木全賢氏: サムスン在籍中から個人的に『All About』で商品デザインのガイドや、ブログ「中小企業の工業デザイン相談室」を始めていました。そのような媒体を通して様々な相談を頂く中で、デザインでいろいろな方を支援したいと独立を決心しました。また、そのブログが元になって本も生まれました。「週末起業フォーラム」の出版企画への応募がきっかけで、ソフトバンク新書から出版していただくことになりました。最初の本だったこともあり、校正にだいぶ時間がかかりました。

――編集者と一緒になって仕上げていったのですね。


木全賢氏: 編集者と一緒に打ち合わせをしながら、企画や原稿を進められるのは、フリーという立場では、特にありがたいものです。また嫁さんには、原稿をチェックしてもらっています。デザインに全然関係ない人なので、嫁さんがわかれば大丈夫という感じで(笑)。最初の本が店頭に並んだ時は、本当に感動しましたね。毎日書店に通っては減り具合を確認していたものです(笑)。誰かが手にとるときは、本当に嬉しくて。一度、図書館で、隣に座っている人が、私の本を読んでいたこともありました。

――まさか隣にいるとは……(笑)


木全賢氏: 思いもよりませんでした(笑)。本という媒体の影響力を感じました。『デザイン家電は、なぜ「四角くて、モノトーン」なのか?』という本は電子書籍版も出ていますが、書店や図書館のような出会いの場は、これからもなくならないだろうと思っています。Amazonで探している時と、書店でなんとなくブラブラしている時では、感覚が全然違います。私は書店に行くと新書コーナーに必ず立ち寄ります。書棚で今の流行を感じることもできますね。

――書棚から、どんなことが見えていますか。


木全賢氏: 新書の中では、デザインの本はあまり流行っていないように感じます。「デザインはよくわからないし、ビジネスとあまり関係がない」と捉えられてしまっていることが、棚から伺えます。今、中国は経済発展のまっただ中にいますが、デザインセンスのレベルも上がり日本との差は縮まってきています。でもまだ少し猶予がある。かの国の人たちよりも長い期間「良いもの」を見続けてきた日本人は「良いデザイン」に対する感性を身に着けています。その感性を「なぜそのデザインがいいのか」しっかり言語化でき、互いにコミュニケーションできるようになれば、きっとビジネスにも役立ちますし、それこそが、日本のものづくりが進む次の道、日本の活路だと思っています。「デザインを言語化できる」ための本を、いろいろな切り口で書いていきたいですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 木全賢

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