4コマを完成させる、その積み重ねが今を作った
――漫画家になりたいと思われたきっかけとは。
小池田マヤ氏: 『花とゆめ』で、25、6年ほど前に連載していた、三原順さんの『はみだしっ子』という名作。私は今でいういじめに遭っていたことがあり、引きこもっていた時期に、「自分は悪くない。上手くやっていけないのはあいつらのせいだ」と思っていたこともありました。そんな時、「あなたはあなたで素晴らしいと思っていて構わない。でも世の中は上手くいかないこともあるから、流していくことも、自分じゃなくて周りに嘘をついていくことも覚えなければいけない」というようなことが描かれていて、それにすごく救われました。言葉にすると難しいことでも、漫画だと簡単に読めて、すんなり心に入ってきますよね。私はずっと漫画に救われてきたので、たまたま絵が上手かったこともあって、漫画の仕事がしたいな、と。
――作家を目指されて、芸大へ。
小池田マヤ氏: 「芸大に入ったら流れに乗れるだろう」と思っていたのです。でもやってみたら、それほど絵を描くのが好きではなかった、というのが現実でした(笑)。同級生に、作家をやりつつ、料理人をしている友人がいるのですが、彼は常にスケッチブックとペンを持っていて、息をするように絵を描きます。「絵を描くのをやめてしまったら死ぬんじゃないか」というぐらい、四六時中ドローイングしていました。「そういう人間しか作家にはなれないんだ」ということを悟ったときは、“自分は何者にもなれない”という絶望感がありました。そういった中で、在学中に4コマ漫画家になれたことは、大きなモチベーションとなりましたね。
――4コマ漫画家になった経緯とは。
小池田マヤ氏: たまたま大学のアルバイト募集の掲示板に、漫画家のアシスタントの仕事が紹介されていて、それで行った先が、竹中らんこ先生のところでした。4コマ漫画のノウハウを教わり、おかげですんなりデビューできました。授業中もこっそり描いていたりしているうちに、どんどん仕事が増えていきました。当時はお金もあまり持っていませんでしたので、“生きる術”という感じでもありました。でも、卒業するころには、読者から手紙ももらうようになり、4コマ漫画の仕事も面白くなっていきました。
4コマ漫画の読者というのは目立たないけれど確実にいるのです。4コマだと忙しくてもパッと読めますし、「続きが気になる」ということもないので、読み始めても全然負担にならないのです。会社勤めのサラリーマンや、主婦の方など、忙しい毎日を送っている方たちから、「コンビニ弁当を食べながら読んでいます」というような手紙をもらったりすると、泣けちゃいますよね(笑)。
――今はTwitterなどもありますし、読者の声が届きやすくなったのでは。
小池田マヤ氏: そうですね。漫画家の大先輩のからは、「読者のアンケートを気にしなくなったら、漫画家としては落ちていくばかり。連載をもったら、アンケートを気にしなさい」と教わりました。それで編集者さんに頼んで、読者アンケートはがきは全部コピーして貰うようにしていたので、自分のことを褒めてくれている人の声も確実にあるというのは、当時から実感していました。漫画家を含む、エンターテイメント系のクリエイティブな仕事は全部、受け取り手がいてこそのものです。だから、描く以上は読者のことを意識しなくてはいけないと思っています。
――ストーリー4コマの手法を始めたのは。
小池田マヤ氏: 芳文社の企画で、「ストーリー4コマ専門誌を作るので、あなたもやってみないか」と言われたのです。やっぱり4コマでも、ストーリーは欲しいわけです。オチを作るための前振りに“起承転”があって、“結”を見せるということの繰り返しをやっているうちに、“結”の後にも余韻がいるとか、前段階が長い方がいいとか、与えられた8枚の中で上手く展開したらいいのでは、というように、ストーリー漫画の流れを応用できるようになりました。その頃の、“オチは付けなくても、毎回短いスパンで完成させる”という体験を新人の頃にさせてもらったことの恩恵はすごく大きいですね。与えられたページは少なくても、作品として作り上げることができるということ。それを重ねてきて、今があります。4コマ漫画のお陰で、ものを作って人に読んでもらうという段階に、自分をもっていくことができました。
編集者の情熱が、作家を動かす
――出来上がった作品を読者に届ける出版社、編集者には、どういったことが求められるのでしょうか。
小池田マヤ氏: 編集者、出版社に必要なことは、作家性も保ちつつ「こういう読後感をもたせるものを作ってください」とか、「サブジャンルとしてこういうものを入れ込んでみてはどうか」など、さらにはページ数の指定など、作家に対して細かい指示ができること。また、編集者がとても面白いと感じた作品があった時、「こういうのを描いてほしい」と、情熱を持って言ってくれれば、私もそれに乗って描くことができるわけです。
“描こう”というモチベーションまで持っていって、実際に作家に描かせるためには、出版社と編集者は絶対に必要になってくると思います。出版は、1人では無理ですよね。だから、機械的な仕事のみをこなしている編集者は、今後は淘汰されていくのではないかと私は思っています。自分が受け持っている漫画に限らず、他の作家の漫画や、小説、映画などを観て、“とても楽しかった”といって感動できるような感覚や、秋には秋の感覚、夏には夏の感覚を持って、それを人に説明できるような熱い編集者というのが、本当の意味での“良い編集者”なのではないでしょうか。
――アイデアやインスピレーションをくれる、とても大きい存在なのですね。
小池田マヤ氏: 世代的にも先輩にあたるような漫画家の方が、若い子と同じレベルの情熱を持って描いているのを見ると、「編集者次第だな」と特に感じます。コンテンツを作り出すのは、もう作家だけではないですね。年をとると、「今時の若い子に通じるのだろうか」というように、自信がなくなっていくじゃないですか。描いたものに対して「面白いよ」と言ってもらわなければ、描き続ける熱意はなくなっていきます。そこを支えてくれたり、発案してくれたりする編集者がいると、安心して力を注いでいくことができます。私の場合は、『女と猫は呼ばない時にやってくる』のように、先にタイトルを編集者さんが考えてくれることもよくあります。そこから内容を決めます。『あさひごはん』も編集者さんと二人で考えたタイトルと内容です。
著書一覧『 小池田マヤ 』