新しいエンターテインメントの形を
――(SNEグループの社内にて)「楽しく仕事をする」雰囲気がひしひしと伝わってきます。
友野詳氏: SNEは人を核に集まっている集団です。ぼく自身も引っ張ってもらいながら、後輩・先輩とやり取りをする中で成長してきました。SNEのようなグループは、日本にはあまりないのではないかと思っています。一芸に秀でたクリエイターが一つのチームの中で活躍する。色々な才能や技術を組み合わせることで、今までにないエンターテインメントの形を作っていける集団。「ぼくたちしかいないだろう!」という想いでやっています。
――小説やゲームの世界観は、どのようにしてつくられていくのでしょうか。
友野詳氏: ただひたすら自分の中に何かが降りてくるのを、指を動かしながら待つ。何か別のことを書いていると、フッとおりてくる瞬間がある。でもその瞬間というのは、書いている時ではなく、トイレに行ったり、お風呂に入ったり、行きつけの鍼灸の先生のところで針を打ってもらっている時だったりするんですが、そこで間をおいたら忘れてしまうアイディアはたいしたことがない。覚えていられるアイディアがいいアイディアだと僕は思っています。書いている時には細かい設定はなく、漠然と人型が動いている感じで、イラストレーターさんの絵が仕上がり、キャラクターデザインがあがることでイメージが上書きされて、クリアになっていきます。書いている途中は、どちらかというと実写的なイメージを持っている方が多いです。特にエンターテイメントやコメディーものだと、自分の脳内で、1人でRPGを遊んでいるような状態で、それにより流れや展開を作っていくのです。少し独特な書き方かもしれませんね。ただ、つまずいたりすることもありますよ。ここに何か1つネタが、つまらないダジャレが欲しいと思った時に、それを考えるのに丸二日ぐらいかかったりもします。
――その中で、編集者はどのような役割になるのでしょう。
友野詳氏: ぼくは褒められて伸びるタイプなので(笑)、のせてくれる編集さんだと助かります。「これもいいですが、こうするともっと良いと思うんですけど…」といった感じに、のせるのがうまい方。もちろん、それぞれ仕事のやり方はありますが、できれば「イイね、イイね!」と、もち上げてほしい(笑)。でも、のせるだけで手綱を取ってくれないと、暴走してエラいことになります。編集者と2人だけで盛り上がって、読者が置いてけぼりではいけませんからね。
――読者からの声、も大切ですね。
友野詳氏: 最近、電子書籍関連の要望も多く出ています。ただ“めくる”だけではなく、行きつ戻りつを楽にできるようにならないと、ゲーム分野としては厳しいですね。特にテーブルトークRPGのルールなどは、どんどんデータ量が増えていきますから。ゲームブックの次にデジタルなノベルゲームができて、それがさらに進化した形も、今後、出てくる可能性はあると思います。電子書籍のインタラクティブ性、扱いやすさが進化していくことで、全く新しい可能性が出てくるんじゃないかと思っています。以前、何度か新作や家庭のゲームブックを電子書籍で配信したこともあったのですが、「遊びづらい」というのが印象で、今後の技術革新に期待をしたいですね。
生き続けるキャラクターたち
――作品を通して読者にどんなメッセージを伝えたいですか。
友野詳氏: 作品の世界観を細かく作りこむ方なので、一つのエピソード、物語が終わってもキャラクターたちは死にません。読者が思い出してくれる限り、彼らの人生は続いていくし、どこかで元気で過ごしています。読者に「あいつ、元気かな?」と思ってもらえるような、読者の身近な、隣人のようなキャラクターたちを送り出していければと思っています。今後様々な発表形式になっても、そういった作品は変わらず作っていきたいですね。
ヒーローものの紙芝居を作った小学生の頃から40年経った今でも、本質の部分では全く変わっていません。どの年代に向けても成立するエンターテイメントだと僕は思っています。同じことを続けていられるのは、受け手の側もそれを喜んでくれているから。表現や切り口はそれぞれの時代に合わせて工夫しますが、良い者が悪い者をやっつけるという爽快感や、のんきなお笑いを届けたいですね。日常のしんどさをひとときでも忘れて(笑)「よし、明日も頑張れるぞ」と、スッとした気分になってもらえたらと思います。別の楽しい世界で、一緒に楽しい夢を見ましょうよと。もちろん僕は暗い話や辛い話も書きますが、最後は、この世界を体験できて良かった、楽しかったと、少しでも元気が湧いてきたという風に読み終えてもらえればいいなと思います。こういったエンターテイメントの部分を提供していける人間、作家であり続けたいと思っています。
今、新装版の仕事をしながら、新作小説の準備をしていて、いくつかの出版社さんに企画を三つ四つ出しています。また、グループSNEでボードゲームとカードゲームの新作品の自主制作を始めたので、そのデザインや広報活動としてのイベントのトークもおこなっています。25年ずっとやってきたことでもありますが、人と人とがコミュニケーションできる、顔を合わせて遊べる、温かい笑顔を向け合えるアナログゲームを、改めて広げていこうと思っています。それを“21世紀の、洗練されたスタイルのボード・カードゲーム”でやっていきたいですね。人間としても半世紀を迎えましたが、歴史小説をはじめ、新しいことには常に挑戦していきたいですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 友野詳 』