「仕事がしやすくなる」縁の下の力持ちとして
税理士、CFP®、米国税理士などの資格を生かし、税務会計の顧問や経営コンサルティングを行なう実務処理の専門家である高下淳子さん。「わかりやすく」を念頭に置いた執筆活動やセミナーの開催など、幅広くご活躍されています。読者やセミナー参加者に対する想いを伺ってきました。
ベストを尽くす「縁の下の力持ち」
――実務処理のプロとして、ご活躍されています。
高下淳子氏: 私の仕事は主に三つありまして、一つ目は法令などに基づく実務処理ということで、決算作業の手伝いや、税務申告書の作成。二つ目は、法令をわかりやすくお伝えするセミナーや講演。三つ目はビジネス書の執筆です。『やさしい法人税申告入門』でも、「やさしく、わかりやすく」をモットーに書きました。執筆では、会計実務や税法を身近にわかりやすく伝えること、セミナーでは、わかりやすく解説することに加えて、元気よく内容をお伝えしています。実務セミナーでは、10時~17時など、だいたい一日かけて、演習を解いていただきながら進めます。参加される方は座りっぱなしですし、一日みっちりと結構スパルタ講義なので、セミナー終了後はぐったりされていると思います(笑)。
税理士の仕事は「縁の下の力持ち」。みなさんにとって大事なのはそれぞれの本業ですから、税務処理に時間をかけるのはもったいない。税務が複雑で実務処理に追われるようでは、国の経済も発展しないと思います。なので、本業に集中してもらえるよう、できるだけ近道してご理解いただけるように原稿の執筆やセミナーを行っています。また、私が詳しく知っている部分をお伝えすることで助かる人がいるかもしれない、喜んでいただけるかもしれないという気持ちもあります。その場、その場でベストを尽くすということでしょうか。
――なぜ今の世界に進まれたのでしょうか。
高下淳子氏: 最初は、経理の世界の「仕訳のルール」は美しいと感動したのがきっかけです。ゲーテいわく、500年以上語り継がれている人類最高の発明ですから。明確な目標や目的を持って税理士になったわけではありませんでした。でも資格を持っていることは、何かしら、誰かのためにも、自分にも役立つものだと思います。
私はおおざっぱだし、「なるようになるさ」という性格なので、フリーで仕事をすることについての不安はありませんでした(笑)。自分ができる以上のことはできない、という思いで、自然に仕事をしてきました。もちろん壁にぶつかることもありましたし、反省する点もたくさんありました。色々な方にご迷惑をお掛けしてきましたし、失敗の連続です。でも、あまり失敗にはへこたれません。終わったことはしょうがありません。「失敗したこともプラスになる」と良いように考えて、先に進みます。
本は、文章だけで作られているのではない
――本に経験やノウハウを記そうと思ったのは。
高下淳子氏: 実務で得たノウハウやセミナーでお伝えしてきたことを文章の形にしたい、本にしたいという強い気持ちがありました。最初は行数や字数、書くスタイルなど、色々と試行錯誤しました。でも、セミナーのテキスト作成と本を書く作業は共通している点が多いです。目次をかためてから、コンセプトや章タイトルが決まれば、それ以降は、以外とスムーズです。セミナーもタイトルと対象者が決まったら、それに合わせて限られた時間内でまとめますから、執筆とセミナーには似ている部分もあるように思います。
「あまり回り道をせずにご理解いただき、でも、体系的に学んでいただけたら」という気持ちで執筆をしています。タイトルに「入門」とある本については、最初に入門書として読んでいただきたいです。長いタイトルの本は、より深いところをご理解いただくため、知識の整理をするための作り方をしています。一人で活字を読むというのは孤独な作業だと思います。スムーズに読んでいただくためには図版やレイアウトも大切だと感じています。また、一冊の本を読んで、その分野のすべてを理解するというのは難しいでしょう。でも私の本が、「もっと勉強してみよう」というような興味を持ってもらうきっかけの一冊になれば嬉しいですね。
また、セミナーや研修などの仕事もそうですが「伝わったな」「ご理解いただけたかな」と思う時は喜びを感じますし、ホッとします。前に、単行本を読んでくださった読者の方から、「従来にない説明のおかげで目を開かせていただいた思いです」という感想のおハガキを編集部にいただいたことがあります。ほんとうに嬉しかったですし、「本にして良かったな」という充実感がありました。こういったことが原動力になりますね。
本は、文章だけではなく、構成やイラスト、カバーデザインなど、関わった方全員の力が結集したものだと思います。そこに本作りの喜びがありますよね。編集者さんと、企画の段階から話し合い、打ち合わせをします。そうして、だいたいのターゲットや趣旨を明確にしたうえで、執筆を始めます。想定したターゲット層や内容のレベル感が、本のタイトルと合わないといけませんので、タイトルはとても大切だと思います、手に取って下さる方にぴったり合うタイトルを付けてくださる編集者さんが好きです。(笑)
――様々な方が関わって本が作られていくのですね。
高下淳子氏: その中でも編集者さんは、私が気付かない新しい切り口やヒントを教えてくれたり、引っ張ってくれたりする、大事な存在です。例えば、私が当たり前だと思っていることが意外と新鮮な見方だったり、みなさんご存じだと思っていることが、意外と知られていなかったりと、違う角度からの意見をいただけます。編集者さんからアイディアや意見をいただきながら、共同作業で作り上げる楽しさがあります。
ポイントをおさえながら、著者に任せてくれて、うまくのせてくれる編集者さんが一番いいんじゃないかと思います(笑)。「この表現は難しいかなぁ」などのご意見は非常にありがたいです。私も編集者さんも、読者が満足して読んでいただける本を作るという、目指すべきゴールは同じはずです。顧客の方を向いて一緒に仕事をしていれば上手くいくと思います。
――高下さんにとって、本とは。
高下淳子氏: 読んだ時期やシチュエーションにもよると思いますが、すごく影響が大きいものです。出す側として責任の重さも感じています。心に響くような本だといつまでも残りますよね。私も、心に響いた本がいくつもあります。中国古典も、その中の一つで、唐の時代は政治的にも上手くいっていて、リーダーも優れていた……そういったことを書いた入門書などを読んで、「これはすごい」と感銘を受けました。他にも経営者が書かれた本など、好きな本はたくさんあります。セミナーでも、経営者層の方が来られたら、「『貞観政要の読み方』は面白いですよ」とか「この先生の本をぜひ読んでみてください」など、お勧めの本が会話の話題に上ることは多いですね。
電子に見いだす新たな挑戦
高下淳子氏: 読み手として、電子書籍を活用しています。話題になっている本は試し読みして買いますし、新聞などで広告になったものをチェックします。
新書や図版の少ない本はkindleで買います。今まで紙の本では目次を読まなかったのですが、kindleでは目次からそのページに飛べるので、目次も大事なんだなと再確認しました。Kindleは二年ほど使っていて、自宅ではkindle Fire、外出先ではタブレットと、使い分けています。タブレットはネットも電話もメールもできますし、新書も読めて、何でもできるので便利です。 ただ雑誌を読もうと思うと画面がちょっと小さいので、雑誌を読むために、次はもう一つ大きなタブレットを買おうと思っています。
最近では、新しい健康の概念についての本を読んでいます。「こういう考え方もあるのか」と、新しい視点を発見でき、びっくりしながら読んでいます。気になった本はパッと目を通しますね。それから、同じ先生が急に宗旨変えして、前の本とは違う考え方を書いていたりすることがありますが、それも興味深く読んでいます。時代や経済環境が変わったことで、スパッと意見を変えるというのも潔さを感じます。
――今後はどんなことに挑戦しようと思われていますか。
高下淳子氏: 次は電子版の書籍を出す予定です。企業内研修に関しては、講義内容を録画してスマートフォンで見られるように編集している企業さんもあります。今後は、講義に参加できなかった人のために、その講義を再現できるアプリのようなものを制作できたらいいなと思っています。アプリであれば、例えばセミナーのように「読む・聞く・解く」が一体になった講義スタイルを実現できますよね。ゲーム感覚で、好きな時間に講義に参加できる動く本のようなものが良いです。講義を聴いて、クイズを解いて、音楽とともに採点をしてくれる。その全てをスマートフォンやタブレットでできるものが作れたらいいなと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 高下淳子 』