嶋浩一郎

Profile

1968年生まれ。1993年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局で企業のPR活動に携わる。01年朝日新聞社に出向。若者向け新聞「SEVEN」編集ディレクター。02年から04年に博報堂刊『広告』編集長を務める。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画、現在NPO本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施する「博報堂ケトル」を設立。カルチャー誌『ケトル』の編集長などを務める。 著書に『なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか』(祥伝社新書)、『ブランド「メディア」のつくり方―人が動く ものが売れる編集術』(誠文堂新光社)など。

Book Information

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点と点を結び新たなものを発見する快感 



嶋浩一郎氏: やりたいことがはっきりしていたのか、節操がなかったのか……幼稚園の卒園アルバムには、動物園に勤めたいと書き、小学生では法律家を目指していました。自然と地理・歴史系が好きになっていったのですが、過去と現在、洋の東西を結ぶダイナミックな世界の出来事が繋がっていく、点と点が結ばれていくことに快感を覚えました。

――『なぜ本屋に行くとアイデアがうまれるのか』にも書かれています。


嶋浩一郎氏: 「法王は、ミケランジェロに天井画を描かせるために、教皇庁のお金をつぎ込んだ。とたんにカソリック教会が貧乏になってしまったのでドイツで免罪符を売った。すると、ルターが怒って、プロテスタントを興した。カソリック側は対抗するためにイエズス会を作って、信者獲得のため、海外に宣教師を送り出した。それで、ザビエルが日本にやって来て、唐辛子を持ってきた。秀吉は朝鮮出兵の時その唐辛子を持って行ったので今キムチがある」と、そんな感じです(笑)。こういう風に知識がつながっていくと楽しいし。企画もそういうところから生まれてくることがあります。



本がたくさん並べられている書店の素晴らしさは、「発見」が起こることです。買うものが決まっている時は、書店は使わなくていいとさえ言えます(もちろん、来てもらう方が嬉しいけれど)。買うものが決まっている時は、ネットのほうが便利だから、それを使えば良い。すぐ届けてくれるし。わざわざ書店へ足を運ぶのは、発見のためです。買うつもりがなかったけど、欲しい本が見つかるのは、自分の欲望を発見すること。すごいことだと思います。そのうち、顕在化していない自身の欲望の発見も、ネットでできるようになるかもしれませんが、今のネットでは、まだ顕在化していない欲望に答えられません。

本そのものに対しても同じことが言えると思います。「本」というプロダクトに対する愛情はあると思いますが、そこにある情報が好きなんです。よく「嶋さん、本屋大賞の理事でもあるし、本屋も経営している。紙が大好きですよね」と言われます。好きか嫌いかといえば好きで、フェティシズム的に本の匂いとか、めくる感じとかフィジカルな感じも嫌いではないし、印刷物に対する愛情があります。

けれども、そのものを愛でるのが目的じゃなくて、あくまでそこに「本」として、まとめられている情報が重要なんです。ぼくが本を読む時は、躊躇なく付箋を貼りますし、旅行中はスタンプ押すし、ピンクのサインペンを使ってメモ帳にもします。美術館に入った時とか、持っている本にそのままメモ書きますし、本を読みながらパンを食べワイン飲むから、結構汚してしまいます。本とはそれくらいカジュアルに付き合いたい。

よく紙がいいかデジタルがいいかとか議論されますが、それは読み手の都合で選べばいいことだと思っています。紙の本や雑誌の作り手が自慢すべきことは「紙で出来ている」ことではないと思いますよ。彼らが自慢すべきことは、ちゃんと一次取材をしてちゃんと自分で情報を作っているという点だと思っています。校正校閲のプロフェッショナルがいて、プロのカメラマンが撮ったビジュアルがある、そういうところを主張しないから、ウンコキュレーションメディア(ちょっと言い過ぎたかも)が出てきてしまう。一次取材をちゃんとする組織、社会インフラが整っているのは、すごいと思いますよ。情報を、一次取材して毎日届けている。それを売りにしなきゃ。

著書一覧『 嶋浩一郎

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