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株式会社ディー・エヌ・エーの創業者で取締役を務める南場智子さん。会社を立ち上げ東奔西走してきた南場さんの、心の解放作業に「読書」がありました。忙しさに流されない極上の“カンヅメ読書時間”とは。
会社を“てっぺん”に
――様々な事業を展開されています。
南場智子氏: 社員数は現在、2400人ぐらいになりました。その中で私は取締役会の一員として、会社の全体の方向付けを担っています。また野球とeコマース、ヘルスケア、新卒採用の四つに関しては直接携わっています。会社を立ち上げた頃は、全てが試行錯誤の毎日でしたが、今は任せることの出来る人材が増えていきました。
株主も社員もたくさんいる中で、かじとりを間違えないということは、非常に重要なことです。社長の守安と力を合わせて、「この会社を、絶対にてっぺんにもっていこう」という思いでやっています。そのために、私にできることは全部やります。振り返った時に、「こういう役割やインパクトを、世の中に残せたね」と、社員みんなで思えたらいいなと思っています。
――その想いは『不格好経営』というタイトルで、本にまとめられました。
南場智子氏: 私には元々、「会社の歴史を残しておきたい」という思いがありました。本という形で歴史をまとめる機会を頂けたことは大変ありがたかった反面、書物として残る責任も強く感じました。いざ書き始めたら、すごく楽しくなってしまいましたけど。ただ、私にとっては宝石のように大事な出来事ばかりですが、外部の人にも興味を持っていただけるもの、読んでいただけるものを、という理由から省かれたエピソードが多くあります。名前が出てきていなくても、「その人がいなかったらディー・エヌ・エーができなかった」というような人がたくさんいます。それまで読み手として本を楽しんできましたが、書くことの大変さを感じることが出来ました。
極上の“カンズメ読書”時間
――南場さんは、どのような本を読んでこられたのでしょう。
南場智子氏: 中学のころは、父にすすめられ『暗夜行路』を夢中になって読みましたね。それから、芥川龍之介とか、三島由紀夫・志賀直哉・太宰治・森鴎外・夏目漱石などの本を手に取りました。海外のものだと、『モービィ・ディック』(『白鯨』)、それからホーソーンや『カラマーゾフの兄弟』など。その時代の日本の作家さんよりもスケールが大きい、と感じるものもありました。私は本の虫ではなかったものの、一種の“教養”として、有名な本は図書館で借りて読んでいました。「やっぱり文章は、志賀直哉がうまいよね」などと言っていたりして、何様でしょうか (笑)。当時は本当に夢中になって本を読んでいて、部屋の掃除をしようとすると、ついつい気になる本を手にとってしまい、あまり得意ではなかった掃除がますます進まない……なんてしょっちゅうでした(笑)。
父が厳しく、「とにかく自由になりたい」と考えていたので、東京に出る時は素直に嬉しかったのを覚えています。大学時代も、それなりに本を読んでいました。英米の有名な作家さんの代表作は、大体読んでいるかな。中国の歴史も好きでした。
――読書が生活の一部になっていたんですね。
南場智子氏: ところが社会人になると、なかなか本を読む暇がありません。忙しくて、家に戻っても寝るだけという生活で、年末に20冊くらい持ち込んでホテルに籠ることはありましたが、仕事に関係のない、純粋な楽しみとしての普段の読書からは、しばらく遠のいていました。ところが会社を立ち上げると、以前よりもさらに忙しくなったはずなのに、精神的な圧迫を解消するために、あえて読書の時間を確保するようになりました。司馬遼太郎などの歴史小説を読んでいました。歴史小説の登場人物は、誰かを楽しませるために生きたわけではなくて、事実なわけだから自然さがありますし、誰かが「この人について、書く価値がある」と感じたからこそ本となり後世に残った話なので、パワーもスケールも違います。“戦と統治”など、ビジネスや経営に重ねながら読んでいましたね。最近はお風呂の中でも、本を読みます。お正月に主人の実家に里帰りすると、家族全員で温泉に行きますが、温泉でもずっと読んでいます。誰よりも先に風呂に入っているのに、なかなかあがってこないから、義理の母や妹などが心配して見に来るくらい没頭しちゃうんです (笑)。でもそれが私にとって、唯一の息抜きとなっています。一冊読み終わると、なんだか寂しい気持ちになってしまうので、なるべく5巻組の本だとか長いものを探しては読んでいますが、長くなればそのぶん終わったときの寂しさも増すので困っています。
著書一覧『 南場智子 』