医学のサイエンスを身近に
――そうして得た経験を、本に記されています。
名郷直樹氏: 医学専門書以外にも、この仕事を長年やっていると、伝えたい想いや、書き留めておきたいネタはたくさん出てきます。そうした時に連載の依頼をたくさん受けたのがきっかけです。
はじめて一般向けに出版された『「人は死ぬ」それでも医師にできること』は、自らの頭にあった出来事を、棚卸しする気持ちで書きました。担当編集者から依頼を受けたとき、自由に書いてよいというお墨付きを頂き、読者を限定せず、本当に自由に書きました。自分のような人間が医者になってよかったのだろうかと感じたエピソードも書いていますが、十数年かけてようやく文字にして、楽になった気持ちがしました。
――読み手側も、気楽に読めます。
名郷直樹氏: その後もいくつかの本を、書かせて頂きましたが「難しいことをやさしく」、小難しいと思われている医学に、もっと親しんでほしいと思って書いています。どの本についても言えますが、なにか「こう読むべき」だとか、そういうこだわりは持たずにやっていますね。
適当につきつめること かけがいのある自分を生きる
名郷直樹氏: ぼくはこだわりを持たずにやってきました。本当に寝ても覚めてもやりたいことがあれば、とことんやれば良いと思います。でも、もしそうで無ければ、目の前のことを「適当に」やれば良いと思っています。適当にという言葉には、ポジティブさとネガティブさを両方兼ね備えた要素があって、ぼくは好きなんです。
「適切に」となるとポジティブさが際立ってしまって、強制された感じがしてしまいます。
――何かを強制された途端、それは息苦しいものになる。
名郷直樹氏: もちろん、せっかく生きているのですから何かを考え、つきつめた方が良いとは思います。ただ、そのつきつめ方は、ひとつではないのです。「適当につきつめる」。それは問題への対処の仕方も同じです。
ぼくが今まで診てきた患者さんの中には、重大な悩みを持った方も少なくありませんでしたが、みな親子関係など「かけがえのない」関係の中で、もがいています。ぼくの発信する言葉は、そうした現状に対するカウンターパートでもあります。
「かけがえのない」ではなく、「かけがえのある」自分として、適当に生きていく。そうすることで、もっと楽に生きられるのではないでしょうか。そうしたメッセージを、ぼくの仕事である医療の世界から、これからも伝えていきたいと思います。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 名郷直樹 』