見方を変えれば世界は面白くなる
――そうして学びを求めて積まれた知見を、テキストにまとめられています。
黒沼悦郎氏: 本は読むだけでなく執筆する上でも、たくさんの発見があります。論文では気づかなかった点が見えてきたり、編集者とまとめる作業の中で、気づかされることもあります。また、編集者は最初のフィルターですが、彼らは世の中の動向を汲み取って、ある種の信念のもと、一冊の本づくりに力を注ぎます。そうした存在を介していることが、ネットなどの情報の羅列に終わらない、本の魅力だと思います。
本は、単一の知識を伝えるだけでなく、その分野における「体系」を伝えることの出来る手段であり、媒体だと思います。私も、ただ研究の成果をまとめるだけでなく、初学者にも「こういう世界があるんだ」ということを知ってもらえる、ひとつの窓口になって欲しいという想いで書いています。
――情報だけでは、面白みがない。
黒沼悦郎氏: 私の役割のひとつに、この分野の「面白さ」を伝えることがあると思っています。「法律は、紛争解決の手段です。終わり。」と捉えてしまってはもったいない。研究者として、成果を世の中に発信していくと同時に、どうすればこの世界に興味を持ってくれるかを考えています。
私の専門とする金融商品取引法も、「金儲けのことでしょ」ではなく、理屈だけでも実務だけでもない、人間が社会生活を営む上で、両者が折り合いを付けてきた人類の試行錯誤の結果としてみれば、また別の面白さがあります。そういう側面があることを、若い学生が興味を持つかたちで伝えていきたいですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
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