中園直樹

Profile

1974年大阪生まれ、宮崎育ち。小説家、詩人。小学校3年から大学2年までいじめられ続け、何度も自殺を考えたことから、いじめや自殺をテーマとしている。教育実習で受け持った生徒のほとんどが、17歳から温め続けた処女作『オルゴール』に感動したことから、作家への道を本格的に決意する。現在はカナダの学生2人から始まり、75ヶ国が参加している、日本で知られていない世界的いじめ反対運動『ピンクシャツ・デー』の日本での普及に努めている。
公式HP「詩と小説の小箱」http://nakazono.nanzo.net/
Twitter : @naoki_nakazono

Book Information

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――自費出版の資金というのはどうしたんですか。


中園直樹氏: 色々なアルバイトを探して、なんとか資金を稼げそうだと思ったんですけど、一旦家に連絡してみようか、というアイデアは当然ひらめいたわけです。『もしかしたら貸してくれるかもしれないぞ。俺もしここで連絡するとしたら6年ぶりぐらいじゃねえ?』と。

――そんなに連絡とっていなかったんですか。


中園直樹氏: そうそう。それで電話をしてみた訳ですよ。そうしたら母ちゃんの反応が非常に薄くて。『もしもし、俺や』って言ったら『ああ、そうか、どないしたん?』って言うわけですよ。なんやろと思ったら弟と勘違いしている(笑)。それで俺の名前言ったら『んわぁ~!!』ってすごいビックリして(笑)。それで、もろもろの事情を説明したら、当時、不況で実はもう実家の台所事情も傾いてて、かなり経済事情がやばかったらしいんですけど、母ちゃんがなんとか蓄えていた物から貸してくださいまして。『ええの?』って言ったら『もうそんなんええわ』って。『ただし帰ってこい、一度帰ってきて姿を見せろ』と。

――母親としては、そうですよね。


中園直樹氏: で、『父ちゃんは?』って聞くと『そんなのとっくの昔に許しとるわ!』って。

――本当に6年、一度も連絡をしなかったんですか。


中園直樹氏: そうですね。だからちょっと探しに来たりもしていたみたいなんですよ。

――ここでもう一つ質問ですが、発信したいという強い気持ちの人が金銭的な理由などで出版を阻害される事なく、電子書籍での出版ができるようになったと思います。もしその当時、今のような状況だったら、されていましたか?


中園直樹氏: そもそも文芸社に連絡を取ったのが、文芸社の子会社の電子書籍サイトからだったんですよ。だから2001年ぐらいに文芸社は既に電子書籍の事業をやっていて。今でもやっているんですけど、今は電子書籍だけでの出版はやっていない。当時は電子書籍だけでの出版を子会社・別会社化してやっていたんですよね。それが文芸社の子会社だと知らずに、『送られてきた原稿に全部、感想を出しますよ』って言うのをネットで見つけたので、それに送ったんですよ。僕の小説の評価は、例えば“オール4プラス1個5”ぐらいだったら、うちが全部お金を出しますけど、それ以下だったら自分のお金で出してください的な評定の中で、僕はオール4だったんですよ(笑)。

オール4っていうのは、1個足りないよと。僕は当時、何が足りないのかを知りたかったんです。読む子読む子ボロボロ泣くし、みんな感動するわけじゃないですか。なのに賞に出してもだめだし、持ち込みもだめだし、何が足りないのかずっと謎だったんですよ。それで感想を全部出しますっていうから、何が足りないんだろうと思って出してみたところ、オール4だった。僕はそれまでの間にもう10年近く『オルゴール』という小説を推敲し続けている。このうえに全部ひと回り足りないのかって、かなりへこんだわけですよね(笑)。結局、電子書籍も取り敢えずはパシッとバッテン(×マーク)をして、すぐ断ったんです。

――それはなぜですか。


中園直樹氏: 何で断ったかというと、電子書籍は図書館に入らないというでかい問題があったんですよ。学校の図書室や図書館に入れれば一番現場に届くわけですからどうしても入れたいのに、電子書籍って入らないわけですよ。だからバッテン(お断り)したんです。

その後に親会社の文芸社から連絡がきて、『電子じゃなくて紙の本にしませんか?』って言われたので、紙の本であればと図書館に入れられるって思ってOKしました。ハードカバーの本にして出したんですよ。でも、ハードカバーってやっぱりソフトカバーよりちょっと高いんですよね(笑)。でも、図書館に入れるっていう目的があったので、ハードカバーにしました。

もし僕が今の時代、この時と同じ状況にいたとしても、多分電子書籍はバッテン(お断り)します。なぜならば、図書館・学校図書室に入らないから。僕の思いは、いじめで自殺する子を減らしたい。そのためには図書館・学校図書室というのは非常に重要なキーポイントなんですよ。僕の場合はそこに入れられないのであれば、その媒体から出す意味がないわけですよ。

――現場の子供たちに読んでもらうこと、そして広めることを目指していたんですね。


中園直樹氏: そう、だから題名にもいじめって単語を使っていない。ただ、一冊だけ表に「いじめ」って単語が出てる本があります。それが、大和出版さんから出してる『たった一人でがんばっている君へ 「いじめ地獄」から抜け出せたボクの方法』です。副タイトルに「いじめ地獄」と入ってますよね。じゃあ、どうしてこの本だけそうしなきゃならなかったかっていうと、これはメッセージ本というジャンルだからです。このジャンルは、ジャンルの特性として「題名や表紙見をただけで一発で何を伝えたいか分からなきゃいけない」って特性があるんです。でも副タイトルって表記しない場合も結構多いでしょ?だから、(題名にいじめという単語を入れたくない理由を)最初のうちに大和出版さんに言っていたお陰で、大和出版さんが遠慮して副題に入れてくれたんですよ。僕はホームページも、いじめという単語は基本的に目立つところに使っていないでしょ。常に読む前から拒否反応を示されないようにって、気を遣っているんですよ。でも、このメッセージ本だけはジャンルの特性上、それができなかったってことなんです。

――いじめという単語に拒否反応起こしちゃうような子もこういうタイトルだったら、まだ手に取りやすいですし、仮に本屋で買う場合も買いやすいですね。


中園直樹氏: そうそうそう。その上、『たった一人でがんばっている君へ』以外の僕の本は、本編を読み進めない限り絶対内容がバレない。で、唯一バレるこの本も品切れで増刷予定もないので、今は本からはほとんどバレません。でも読者さんの感想によると、困ったことに学校の司書の先生とかがね、余計なことに『これ、いじめの本だから読まない方がいいよ』って言っちゃったりするらしいんですよ(笑)。文芸社さんも、『いじめが書かれている本だ』と出そうとしたり。実際に一度広告で出された時、僕は確か担当者さんに怒った記憶があるんです。出版前から、僕の本の広告にはいじめという単語だけは絶対に出すなと、口を酸っぱくして何度も何度も言っていたので。それが、『オルゴール』の広告で使われたので、もう激怒して電話をかけて。『二度とやるな!俺は出版する前から何回言った!』って怒鳴って、もう激怒して。担当者さん、その時『すみません、すみません』って、大きな体を縮こまらせて(笑)。

――担当者さんとは長いお付き合いなんですか。


中園直樹氏: そうなんです。長いんです(笑)。そうそう、それで思い出したんですけど今までの著書をPDF文章とかにもしたいんですけど、出版社から出ている本に関しては、そういう権利って出版社さんのものなんですよね、困ったことに。版権になるじゃないですか。

――著作権は、中園さんですよね。


中園直樹氏: 僕です。でも、本を刷って配布する権利っていうのは出版社に所属する。文芸社の本を刷って配布する権利は文芸社にあるんで、僕が勝手にする事はできないんですよ。

――インターネット上に公開しているのはOKですか。


中園直樹氏: それはちゃんと出版社に許可をとっているので。

――そうなんですね。じゃあ、もしその問題がなく、もっと広まるのであれば、そういう事はやりたいというわけですよね。


中園直樹氏: やりたいですよ。もうバリバリやりたいですよ。ただ、どういう風にすればいいのか、よくわからないんでしてないんですけど。

――今までは紙を出すというのが大前提だったと思うんですが、今後、電子化を迎えるにあたって電子出版界に望むものは何ですか?




中園直樹氏: 僕が望むのは、“資料的価値”ただ、この一点だけですね。要は、図書館に入れてくれるとか図書室に入るって事。例えば何で自分の本が増刷される時に、ピンクシャツ・デーという活字を入れてるかっていうと、ネットで広めているだけだと情報って消えちゃうからです。ネットは情報源として信用度が極めて低い訳です。でも、書籍に活字として掲載された時点で、情報としての信用度はかなり上がるわけですね。それが資料的価値ということになるじゃないですか。それが必要なんですよ。そこがちゃんとすれば、学校図書室でも扱うだろうし、図書館でも扱うはずだと思うんですよね。ただその辺りがどうなっているのか、僕全然知らないんです。

――中園さんが今後出版社に望むものは何ですか。また、出版社がやるべき事って何だとお考えですか。


中園直樹氏: 出版社がやるべき事は、優秀な編集と、優秀なデザイナーを絶対に手放さないことですよね。それは電子書籍の側でも必要ですよね。作家が出来る事と出来ない事があります。作家は中身を作れるけど、編集マンの仕事は出来ないんですよ。デザインの仕事も出来ない。だから電子にしたって紙にしたって、本を作る上でそういう人材は絶対的に必要です。

電子の本になると、デザイナーはWEBでポポポーンとデザイン出来なきゃいけないとか、必要なスキルが変わるぐらいで。でも作家が出来ない部分をフォローできる人間は絶対的に必要なので。そこはとても重要だと思いますね。電子は電子で突っ走る、紙は紙で突っ走るんじゃなくて、両方歩み寄らないと共倒れになっちゃう危険性はあると思います。

――先ほどの版権の問題についてはどうお考えですか。


中園直樹氏: 仕組みが出来上がっちゃっていることなんで仕方ないんですよ。僕は出来上がっている仕組みを変えようという所までは考えないんで(笑)。本の内容と一緒で、出来上がっている仕組みの中でいかに工夫するかなんですよ。だって、そうでないと原状で苦しんでいる何の力もない一般の中高生読者の役に立てないんで。一応、今ある仕組みの中で出来ることは全部やってますけどね。文芸社さんに許可をとってこの3タイトルは、本のバージョンとは多少違うけれどもネットで出せている訳なので。これぐらいが僕のできる範囲、考えてる範囲です。

あ、あと、日本とアメリカとではすごい状況が違うじゃないですか。アメリカって本をディスカウントで売っちゃうんでしょ? 確か欧米では委託販売制度と再版制度ってないんですよね。だからアメリカの本屋ってどんどんなくなっちゃって、電子書籍がバーっと伸びたんですよね?

――あとは、Kindleなど、Amazonの電子書籍も大変発展してます。でも、本の販売量自体は減ってなく、むしろ伸びているんですね。紙から電子に変わり、あとは書店がなくてもAmazonで全て買えるようになりました。端末でも買えますし、紙であっても宅配という形態に移ってますので。書店が減った=販売量が減ったということではなく、販売量は上がっているけれども、目に見える書店は少なくなったということですね。


中園直樹氏: 実際の書店が減って来たのは、電子書籍の普及が理由だって、どこかで読んだんですよ。日本では書店ってだいたい主要駅にはあるじゃないですか。でもアメリカでは主要駅にも無いという、かなり大変な事になっているらしいじゃないですか(笑)

――本は3倍ぐらい出ているらしいですけど、書店は3分の1ぐらいです。


中園直樹氏: それを考えると、日本はアメリカとかヨーロッパの例をあまり参考には出来ないですよね。日本は未来予測が非常に難しくて大変です。それで思ったのが、日本が再版制度とか委託販売制度とかをなぜ設けているかっていうと、書籍は文化だっていう考え方が根本にあるわけじゃないですか。日本人ってそういう文化が好きで、守ろうとしますよね。なので、うまく行けば絶対うまい方向に行くはず。多分、一般人でも無意識のうちにそういう部分を持ってると思うんですよね。だから、書籍の文化がどうこうなるって言うと、もの凄い反乱を起こすと思うんですよ(笑)。今であっても、もっと未来、電子も紙も関係なくなった時代であっても、書籍という文化が脅かされたときには日本人はものすごく拒否反応を示すはずって思う。

だから多分、委託販売制度も再版制度もいい・悪いはあるにしても、これは絶対に守らなきゃいけない制度だと思います。そうしないと本がどんどんくだらないと言うか、チープなものばっかりになっちゃいそう。そうしたことも必要だし、電子の方でもちゃんとした制度も必要だし、両方あった方が絶対いいと思う。今過渡期なんで、今後どうなるか全然わかんないんですけど。

――今後書き手は読者の顔が今より見えるようになると思います。そうなった場合、書き手のスタイルは読み手を意識して変わっていくものでしょうか。


中園直樹氏: 嫌がる人はいるでしょうね。だってホームページすらも持っていない人もいらっしゃるじゃないですか。そういう人からすると、これはすごいイヤだぞと。でも、大半の人はそんなに嫌がってはいないような気はしますけどね。検索すれば、だいたいの人がホームページを持っていますしね。

――今後もしご自身の本が電子書籍化されてもっともっと反響が直に届くようになったら、それによる変化はあるでしょうか。


中園直樹氏: 僕の場合はないですね(笑)。

――では、中高生の要望が直に届いた時に変化はありますか?


中園直樹氏: そうですね、僕の場合はほとんどの作品でやっていますよ。例えば2007年に出した『チョコレイトの夜』の場合なんて、あとがきに『要望があった内容はこの辺りに書きましたよ』的な事まで書いてるぐらいですし。

――世の中の大人が言う否定的な意見にブレる事はないけれども、ターゲットとしている中学生や子ども達の意見とかは、これからもどんどん取り入れていかれますか。


中園直樹氏: そうですね。あと大人に言われたことも詩集にちらっと書いていたりします(笑)。読者からの言葉には、常に影響を受けながらやってる人間なので、僕の場合は今と変わらないですね。ただ、他の方はそうなった時にどうなのかって、ちょっとわからない。。

――今度は逆に読み手の立場としてですが、普段、本は読まれますか。


中園直樹氏: 最近は読んでいないですね。仕事で他人の原稿のアドバイスをしなきゃいけなくて、その原稿ばっかり読んでる感じなんですよ(笑)。

――紙から電子書籍に移行することで物理的な抵抗はありますか?


中園直樹氏: いや、全然ないですよ。元から僕はプロになる必要はなかったんですよ。なかったんですけど、プロ作家の作品じゃないと世の中が認めてくれないから、プロ作家にならなければならなかっただけなんです。だから、別に『オルゴール』の評判がよかった時点で、出版せずにそれをずっと無料公開し続けるだけっていう手もあったんですよ。ただそれだと図書館や学校図書室に入れてもらえず、資料的価値もない。僕が死んだらその本はネットの世界から消えてしまうわけですよ。だから僕はプロにならなきゃならなかったんですよ。僕としては全部無料で公開する、ということでもよかったんですけど、たまたま今の世の中の構造がそうなっているので、この平成の世に生きている僕は、当然それに合わせなければならないわけです(笑)。

――図書館も学校図書室もそうですが、本を置く場所の問題がある中で、今後はどういった事を考えていらっしゃいますか。


中園直樹氏: そうですね。そのうち電子が絶対入って来るはずですよね。一番思っているのは、電子書籍用の端末は高いんですよ。だから苦学生、買えないんですよね(笑)。5千円ぐらいだったらみんな飛びつくと思うんです。安価になれば、もっと普及する。僕の『オルゴール』なんて、中高生がお小遣いで買える値段って考えて800円ですし。

――ハードカバーで800円というのは安いですよね。


中園直樹氏: 2002年だから出来たことです。今も生き残っているからビックリされるだけで、2002年ぐらいには、これぐらいの本は800円で売られていました。本の値段って上がってるんですよね。2002年当時の流通書籍の適正価格内で、一番下げてこれです。当時でも安すぎるってビックリされていましたけどね。

――電子書籍になって、コストが減ることで、もっともっと広めることが出来ますね。そういった意味では電子書籍化に期待することは広まっていくことでしょうか。


中園直樹氏: そうそう。どんどん広まることですね。だから、以前Googleが全部の本をスキャンしようとして…、っていう話あったじゃないですか?『オルゴール』だけはスキャンされてて読めるんですけど、他はスキャンされていなくて、でも僕としてはみんなスキャンしてくれればいいのにって(笑)。

――ブックスキャンに送られてもスキャン拒否とかはなさらないですか。


中園直樹氏: しないです(笑)。どんどんやってくださいって感じです(笑)。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 中園直樹

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