藤原和博

Profile

1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。08年~11年、橋下大阪府知事ならびに府教委の教育政策特別顧問。日本の技術と職人芸の結晶であるブランドを超えた腕時計「japan」(左竜頭、文字盤漆塗り)を諏訪の時計師と共同開発した。近著「坂の上の坂」でも論じられている成熟社会や“新しい日本人”のライフスタイルについて、編集長を務める『よのなかnet』で発信している。

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――ブックスキャンはご存知でしたか。

藤原和博氏: いや。全然知らなかった。

――作家の7名の方が、いわゆる自炊業者、スキャン代行業者を訴えたということはご存知ですか。


藤原和博氏: もちろんテレビで聞いたことはある。俺自身は訴えたりはしていない。

――藤原さんは、ご自身の本が裁断されるということに関して、どう思いますか。


藤原和博氏: 僕は作家の人と違うので、例えば小説の作家の方と比べると抵抗はないと思います。僕の本というのは、分野に分ければエッセイという形になっちゃうと思うんですね。
ビジネスなのか?自己啓発なのか?いつもビジネスと教育と人生っていう3つくらいのテーマがかぶるところなので、書店もどこに置くか?ってことをかなり迷ったりして。
僕の本にただ単に『感銘を受けました』というようなことでは、僕としてもあんまりうれしくなくて。僕の本に書いてあった中身をどのように自分の生活の中でこなして、再現したりあるいはそれを超えていったり、自分なりに編集をかけてもらうかというのが、もともとの僕の意図なので、ある意味データもしくは情報として扱われるだろうな?というのは思っているわけですね。

――今電子書籍は利用されていますか。


藤原和博氏: 僕自身は、ほぼ利用してないですね。

――これまで藤原さんが書かれた本で、電子書籍で販売されている書籍はありますか。


藤原和博氏: 僕は、単行本と文庫を合わせて65冊著書があって、65冊のうち単行本として出したのは40冊くらい。僕の『よのなかnet』というサイトを見ていただいたらわかると思うんですけど、それのうち2冊を電子書籍化していて、『はじめて哲学する本』というのをiPhone版で、『35歳の幸福論』というのをある種のアニメーションを入れながらiPad版で出しています。全体65冊のうちのこの2冊は電子書籍化されているんだけども、そんなに激しく読まれてはいない。

それに対して書籍で最近出た『坂の上の坂』というのが10万部を超えるベストセラーになっていて、たぶんこの本は10年か15年か売れ続けると思うんですよね。日本の成熟社会が深まれば深まるほどね。

僕の理解では1997年が日本の高度成長期の最後で、98年から成熟社会が始まっているので、もう15年経ってると思うんだけど、あと15年ぐらいでグ~ッて、日本の成熟社会って深まっていくので、そういう意味ではこの本がどのような読まれ方をするのか?っていうのはすごく興味があるところです。

今でも全国10か所で講演会やって、また今週からその講演会が始まるんですけど、電子書籍の読まれ方については、ちょっと出してみたものが馬鹿みたいに売れてはいないということで、まだ実感が伴わない感じではありますね。



藤原和博氏: ただ、子供たちの教育が今までのような教科書と黒板でそのまま留まっていいはずはないので、小宮山さんという元の東大の総長が会長で、僕と陰山英男さんという方が副会長やっているデジタル教科書教材協議会というのがあるんだけども、そこには手を貸して子供たちの教育の現場にもっとモバイル端末が入っていかなくちゃならないというのは非常に強く思ってますね。iPhoneやiPadのようなタブレット端末なのか、それとも携帯をもう少しいじったようなものなのか、そういったものが学校標準になっていくのかね?あるいは15年くらいすると子供たちがみんな携帯を持つようになっちゃって、その携帯で学習が相当レベル出来るようなこともあるのかもしれないし、そこは見極めたいと思っています。

――そういった中で電子書籍の役割はなんだと思われますか。


藤原和博氏: 今電子書籍という言い方をしていますけど、ちょっと昔はマルチメディアとか言ってたじゃないですか?結局は持ち運び可能な複合端末のことを言うわけだけども、それがネットに繋がっているか?繋がってないか?っていうことがあるにしても、実はね、書籍っていうのも実に持ち運びが可能なモバイルの端末なんですよね。

ネットに繋がってないんで書き換えてないんだけども、少なくとも左手で持って右手でブラウズしながら人間が両目を通じて読んで、脳に記憶させるという意味では、ものすごくモバイルだから。だから持ち運んでたりするわけじゃないですか?広げたり、しおりがあったりさ。それが、液晶があってチップが入っているからモバイルか?っていうと、そうでもないんですよ。

そういう意味では書籍のモバイル性というのもそこそこあるわけですよ。あとはネットに繋がって書き換えが可能かどうか?という話になるわけですよね?そこはレベルが違うところになるんだけど。

僕は未だに、例えば新幹線なんかで2時間くらい移動するときは、やっぱり書籍を持っていきますね。それが古いと言われよう、習慣としてそうなっているから。

習慣として初めからデジタルでものを見ている、もっと言っちゃえば、光ったディスプレイのガラス越しに初めから物を見ている、ガラス越しにしか読めないっていう世代が出てくる可能性もあるわけですよね?最近の調査では、韓国の子供たちが徹底的にデジタルのメディアを入れているもんだから、もうすでに紙とどちらが読みやすいか?っていうことについて、デジタルの方が読みやすいっていう子が出てきちゃってるわけですよ。
それはいいとか悪いとかはおいといて、習慣としてデジタルで本を読むのが普通で、電子書籍を読み込むうちに涙してしまいましたとか、感動が止まらないというような人も出てきているんだと思うんですよね。『スラムダンク』や『リアル』などの漫画を読んで涙が止まらないっていう人はどんどん出てきているわけで。僕ですらそういった漫画はやっぱりすごいと思うし。

なのでその名作性というものが電子メディアで、あるいはガラス越しに見ることで崩れるのか?というとそうでもなくて、さらに読解だとか、それを自分でどうこなすか?ということについても平気でガラス越しの画面でやれちゃう子、あるいはそれで速読ができる子とか、深い読み込みができる子とか出てきちゃう可能性は、僕は否定しえないと思う。
自分自身は紙の方が好きだとはっきり言えるにしても、そういう人類が現れちゃうだろうと。

著書一覧『 藤原和博

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