みんな、自分の幸せが何なのか、実はわかっていない。
大学卒業後、ITベンチャーでトップセールスマンとして活躍し、その後28歳で独立・起業。出資会社3社を52億の会社まで育て上げた経験を元に、今や上司学コンサルタントとして日本のリーダーを導いていらっしゃる嶋津さんに、電子書籍に対する考え方、読書や本の活用法、また生きる上で大切にされていることを色々と伺いました。
著作者の権利が守られるならば、電子でも紙でもかまわない
――ご自身の本がスキャンされてデバイスで読まれることに関して、どんなご意見をお持ちですか?
嶋津良智氏: 例えば音楽の世界でいうと、著作権は著者のものじゃないですか? JASRAC(日本音楽著作権協会)みたいに、権利を守る仕組みがあれば、紙だろうが電子だろうが全然OKじゃないですか? むしろ電子のほうが、これからの社会で生きていくような人たちにとってはいいと思いますよ。僕は完全にバブル世代で、バブルのちょっと前くらいに社会に出て、バブルを味わって、バブルの崩壊も味わって、インターネットが普及して激変したという20年を生きてきた人間です。社会でこれから活躍していこうとしている人たちは、完全に失われた10年なり15年なりで価値観が多様化して、激変した世の中でわれわれの世代と全然違った文化背景で生きてきている。そういう意味では、紙よりも電子のほうが受け入れられやすいんだろうと思います。読者層を増やすということを考えると、これからは電子のほうがいいような気がしますよね。僕自身はやはり紙世代なので、新聞も紙ですし、本も紙で読みますから、やはりこういうデバイスを出してめくっていく習慣がないっていうのが一番の問題ですよね。いいとか悪いではなくて、自分にそのような癖や習慣がないから、ちょっとまだ違和感があるんでしょうね。
――紙の本はやはり「めくる」という感覚がいいですか?
嶋津良智氏: あきらかに読んだという感覚が残りますからね。ある時『嶋津さんの本のセミナーをUstreamで配信したら全世界の色々な人が見られていいんじゃないですか?』と提案されたことがあったんですよ。30歳過ぎぐらいの人をターゲットにして。それで、その時に僕が言ったのは「やはりセミナーはライブでしょ? テレビやインターネットを通してセミナーを見るんじゃ……」と反論したら、さくっと「たぶん今の若者はなんの抵抗もないと思いますよ」って言われちゃったことがありますね。
――本でも同じようなことが言われるようになると思われますか?
嶋津良智氏: 僕ね、例えば音楽を楽しむにしても、いくつもの選択肢が増えてきたということは、いいことだと思うんですよ。例えば武道館ライブから小さなライブハウスをまわるような地方巡業的なライブがあって、それからCDがあって、今ではネットからも音楽をダウンロードで買える。色々な人がそれぞれの選択で自分の生活スタイルに合うものを選んで買えばいいと思うんです。「本はやはり紙でしょ」っていう人は紙を買えばいいと思いますし。僕はどんなにネットが普及しても、新聞の紙版を無くさないでほしいって思います。選択肢の1つとして残してほしい。やはり、手触り感というか紙のめくり感というか、紙で読んだほうが読み応えがある。単なる思い込みだというのもわかっているんですけども、やはり昔からの習慣の問題ですよね。
ちなみにシンガポールでは、全く日本と同じように毎朝朝刊が届きます。僕は日経しかとっていないので、ほかの新聞はちょっとわからないのですが、タイムリーで読むことができる。1時間くらいしか時差がないので、データが日本からネットで送られてきて、現地で印刷しているんじゃないかと思います。
――それだけシンガポールに日本人の方が多いということなんですか?
嶋津良智氏: 。多いですね。今は少し落ちたかもしれませんが、在留邦人ベスト10くらいには入っています。
井の中の蛙にならないために、とにかく日本を出ようと思った。
――シンガポールを選んだ理由を含めて、今現在されているお仕事や取り組みをご紹介いただけますか?
嶋津良智氏: 僕はもともと大学時代バンドをやっていて、漠然と洋楽や海外に対するあこがれもあったし、英語がしゃべれたらとか、曲の意味がわかって聞けたらもっと楽しいなとか考えていたんですね。それで、大学を卒業して、普通に就職して、28歳の時に独立をして、39歳でその会社を上場させて退任した時、多少お金と時間にも余裕ができたんです。なので「ちょっと留学してみようかな?」って思って40歳にして遊学というか、体験留学を1週間したんですよ。アメリカのサンディエゴに語学留学を(笑)。学校のクラスメートは19歳とか20歳の若者ばっかりで、そこに40歳のおっさんが一人混じって、ホームステイもして(笑)。
――若い人たちの中で、特別扱いはされなかったですか?
嶋津良智氏: 全然されなかったですよ(笑)。僕は大学を卒業してから独立して、その会社を上場させるまで、すべて「情報通信」という業界にどっぷりつかっていたんですね。ところが辞めてみて世の中には、『なんて色々な経営のやり方があって、すごい経営者がいるんだ』っていうことに気が付いたんです。人との付き合いも、業界の人間ばかりだったし、自分が“井の中の蛙”だったんだなっていうことを、辞めてみて気づいた(笑)。
――それで40歳にして留学を決意されたんですね。
嶋津良智氏: それで海外へ行った時に、漠然とした危機感に襲われたんです。「このまま日本に住み続けたら、同じように井の中の蛙になっちゃうんじゃないかな?」と思った。それで「とにかく日本を出よう!」と思ったんです。そんなわけで、いくつか都市をピックアップして、実際下見に行ったりしたんですが、ヨーロッパ、ニューヨークなどのアメリカも一応行ったけれど、日本から遠いので却下。最終的には、候補が太平洋を中心としたアジアとかオーストラリアになりましたね。
――シンガポール以外の候補はどういった国がありましたか?
嶋津良智氏: 例えばカナダのバンクーバー、ロスやサンディエゴ、オーストラリアのシドニー。アジアのタイや香港も色々ありました。かみさんと話して、「せっかく、住むんだったら、寒い季節のない所にしよう」ということになったんです。だから、ほとんどの都市がバサッと消えた。それで、最終的に政治経済、医療、治安、機構、教育という6つの側面から、消去方式でシンガポールが残りましたね。海外で暮らすのが初めてで、英語の話せない日本人が最も違和感なく住める国だなと感じたのが最後の決め手でした。例えば、水道水が飲める、手を上げればタクシーが止まるとか、日本食のレストランがたくさんあったり、日本の食材がすぐ買えたりと、極力日本にいる時と同じような生活ができるような所からスタートさせたかったというのがありましたね。
――本に関しての環境はいかがですか?
嶋津良智氏: 書店に日本語の本は全部あります。紀伊國屋書店やブックマートもありますし。その代わり値段は2倍くらいしますね。
『ヤングマガジン』で活字に慣れた新人時代のこと。
――普段どのくらい本を読まれますか?
嶋津良智氏: 本音で言っていいですか?(笑) 僕の場合はもともと本は嫌いなんですよ(笑)。それで、大学を卒業するまで本なんてほとんど読んだことがなかったんです。漫画すら読まなかった。そんな状態で社会に出たんですが、会社に入ってからずっと疑問に思っていたことがあったんです。「本をよく読む人はみんな賢い。なぜだろう。本って何か秘密があるのかな?」と。それで「社会人になったから本ぐらい読まなきゃいけないかな?」と思って、とりあえず漫画から読もうと思ったんです。ヤングマガジンという雑誌を毎週買って、行きの電車の中で読んで、渋谷駅のゴミ箱に捨てて会社に行くというのが週に1回の日課になった。そのうちヤングジャンプも面白いと思うようになって、同じように買って、駅で捨てて会社に行くというのが日課になった。そして漫画をずっと読んでいて「そろそろちょっと、ほかの本でも読んでみようかな?」と。次は小説だなと思って、おやじに「なんか面白い小説ない?」と聞いたら、当時おやじから松本清張の小説を薦められたんです。
――漫画からスタートされたんですね!松本清張はいかがでしたか?
嶋津良智氏: それが、読んだら結構面白くて、それから松本清張、赤川次郎の小説を読むようになりました。仕事で営業をやったり、マネージャーをやったりしていると、煮詰まる時もあって、必要を感じてビジネス書も読むようになりました。もちろん今でも全く読まないわけではないんですけど、目的のない読書ができないんですね。例えばリーダーシップ系の本を読むといったら、リーダーシップ系の本を5冊6冊参考文献として買ってきて、集中して読むんです。それで何か参考になりそうなことや、ネタになりそうなことを比較検討したりすることはよくします。
著者に敬意を払って、本はきちんと最初から最後まで読む。
――読み方としては、必要なところだけ読むといった方法ですか?
嶋津良智氏: そこがね。僕はまた違うんですよ。最近のはやりで、本を5分で読んだり10分で読むなどのスキルがありますよね? 著者側からすると、「ふざけんなお前、俺がどれだけ精魂込めて書いた本だと思っているんだ?(笑)」と思うんですよ(笑)。それを5分10分で、1節だけピックアップして読んだ気になるなよって感じなわけですよ(笑)。だから僕は、ちゃんと表紙を見て、裏を見てプロフィールを読んで、前書きからちゃんと読んでいくんですね。それが著者に対する礼儀だと思っています。それから、僕の場合は、読書じゃなくて、そこから何かを得ようと思って読んでいるので、常に自分に置き換えながら読むという癖があるんですね。例えば、カルロス・ゴーンの本を読んだ時に、こういう時にこういう風な行動をしたという文章があったとしたら、それを読みながら「自分だったらこういう時どう考えるかな?」とか、「うちの会社にこれをもし当てはめるとしたらどういう使い方があるかな?」ということを考えながら読んでしまう。考え始めたら一度本を閉じて考えたりするので、読むスピードが遅い遅い。疲れちゃうんです。だからよっぽど興味のある本や、何か必要性に迫られないとなかなか本を読む気になれない。
――本を読みながら線を引いたりしますか?
嶋津良智氏: 僕は、本を読みながら線は引かないタイプの人間なんですよ。僕は本を読んで、「これは使えるかな?」とか「これはいいな」と思ったら、その場でメモするんですよ。僕はその文章をどういう風に使ったらいいかということを考えて、考えたことをメモするんですね。カルロス・ゴーンやジャック・ウェルチがこういう風にやったということがあったら、「これはうちの会社に取り入れるとしたら、どこの部分をどう取り入れたらいいかな?」という風に考えて、「こういう用紙を、毎回提出させるようにしたらいいな」というアイデア自体をメモしているんですよ。
セミナーや本はアルコール。一瞬酔うが覚めやすい。
嶋津良智氏: セミナーでよく話すテーマなんですが、「世の中にはたくさん本もあるし、セミナーもあるんだけど、セミナーに参加して、本を読んでも成果に変えられる人は実際2%とか5%と言われている。なぜか?」という話をよくするんです。それは、「読みながらやってる」からだと。セミナーにしても、本にしても成果を出すための条件は2つあると僕は言います。1つは『何をどこにどう使ったら、成果に変えられるか』ということを自分なりに消化をして自分のものにする。結局本に書いてあることやセミナーで学んだことは他人のノウハウであって、自分用にカスタマイズされたノウハウじゃない。だから自分のノウハウに作り替えなきゃいけない。そのためのポイントは、とにかくちゃんと消化をするということなんですよ。本を読んでも成果は変わらない、本に線を引いたって成果は上がらない。そしてもう1つは『行動する』ということですよね。
――成果を上げるために、本の内容を消化して、行動するんですね。
嶋津良智氏: 僕は、「本やセミナーはアルコールだ」と言ってるんですね。要するに本を読んだり、セミナーを受けたあとって、一瞬酔うんです。いいものだったりすればするほど。でも、酒と一緒で酔いって覚めちゃう。酔っぱらい続けるということがないから、じゃあ「酔いから覚めた時にどうしたらいいか」というのがすごいポイントです。僕はセミナーで「みなさん酔っぱらわないでくださいね」と言うんですね。
――酔わないためにはどうすればいいのでしょうか?
嶋津良智氏: 本に線を引いたりの作業をすればするほどやった気になるので、そういった作業を減らさなければいけない。だから僕は直球で「どう取り入れるか」というメモをしちゃうんですね。
机上と現場の学習、どちらが吸収が多いか。
――ビジネスの現場では、色々な所から知識や経験を吸収していくものだとは思いますが、現場のほうが吸収が多いでしょうか?
嶋津良智氏: 自分はずっと机の上で学ぶことはないと思っていた人間なんですよ。学びはすべて現場にあると思っていた。だから、会社時代に研修を受けさせられるじゃないですか?偉そうに先生がしゃべったりすると、「お前、偉そうに話してるけど、今一緒に営業しに行って、どっちが売れるか試してみるか?」ぐらい生意気に先生の話を聞いていたわけですよ(笑)。「もう現場しかない」と。それで、独立をして社員を雇うようになって、その社員教育をしなきゃと行き詰った時に、ある人に相談したんです。そしたら、「いい研修があるから1回受けてみたら?」と勧められて、内容は営業研修だと言うのでちょうどよかったし、その方が「1回だけ無料でやってあげてもいいですよ」と言ってくださって、全社員土曜日に出社させて研修したんです。そしたら、それがよかった(笑)。やっぱり机の上で学ぶこともあったんだと思いましたね。そこから僕は机の上で学ぶということを覚えたんですね。僕は基本的な学びは現場にあると思ってますから、さっき言ったように本を読んだりセミナーを受けたりして学んだことを、どう現場に落とし込むかということが大切です。机の上で学ぶことは大切なんだけども、でもそれを使ってどうなるかという答えはやはり現場にあると思っています。やはり「先人の知恵を借りる」とか「自分にない知恵を借りる」という意味では、本を読み、セミナーを受けることは大切。これは間違いないです。机の上で学ぶことはないと思っていた僕が言うんですから間違いないです。机の上で学ぶことはあります。ただ、それだけじゃだめということですよね。机の上で学ぶことも10、現場も10。ただし机の上で学んだ10をそのままにしておいたら、それは単なる0になっちゃうよということですよね
――行動しないと意味がないということですね。
嶋津良智氏: そうですね。現場での学びが0になるということはないと思うんですけれど、そういう机上で学んだことは、行動に移したりということをしないと0になる確率がありますね。
なぜ売れるかが知りたくて、『ONE PIECE』を全巻読破。
――最近読んだ本で面白かったものはありますか?
嶋津良智氏: 最近読んだ本というと、『ONE PIECE』64巻全部読破しました。これも僕なりに目的があったんですね。『ONE PIECE』が初版で450万部。累計2億6千万部だったかな?僕ら著者からするとバケモノみたいな売れ行きですよね。漫画という特性はありますけど、ビジネス書だったら、海千山千の著者だったら初版5千とかあったりするわけじゃないですか。それが450万部ですよ。「何じゃそりゃあ」と(笑)。どんな魅力があるのか1回読んでみようと思って、色々調べました。自分の中で読む目的を明確にしたかったので、『ONE PIECE』について書かれているビジネス書を最初に読んだんですね。例えば、『「ワンピース世代」の反乱、「ガンダム世代」の憂鬱』(朝日新聞出版刊)という本や、『ルフィの仲間力』(アスコム刊)という本など、『ONE PIECE』について書かれたビジネス書を読んで、それで『ONE PIECE』というのはどんな本かということが、なんとなくわかった。次に何をしたかというと、僕はリーダー系の仕事をしているので、『ONE PIECE』の中でのルフィのリーダーとしての在り方や役割、リーダーシップの発揮の仕方などをちょっと研究しようかなと思って読みました。
――64巻を読むのはあっという間でしたか?
嶋津良智氏: 寝る前にちょこちょこちょこちょこ10巻ずつ読んだんです。面白いですね。64巻もあると波があって、つまらない10巻もあったし、面白い10巻もあったし、思わず本当に涙がうるっと出そうな場面があったり。今の若者の思考や「なぜこれが売れたのか」などを色々知りたかったので、読んでよかったと思いますね。勉強にもなりましたし。
経営者の自伝に、自分を重ね試行錯誤する。
――嶋津さんの人生の中で影響を受けた本などはありますか?
嶋津良智氏: 意外と僕、ミーハーなんだよね(笑)。売れた本は1回読んでみようというのがあって、『七つの習慣』(キングベアー出版刊)はよかった。経営の本で言うと、『ビジョナリーカンパニー』(日経BP社刊)がよかったですね。あとは経営者の自伝が好きなんですよ。例えば、柳井さんの『一勝九敗』(新潮社刊)やゴーンさんの『ルネッサンス‐再生への挑戦』(ダイヤモンド社)、ジャック・ウェルチ『わが経営』(日本経済新聞社刊)とか、ああいった自伝を読むのが好きです。本の世界なんてどこまで本当かどうかわからないんですけど、この経営者はこんな人生でこんな時期もあったんだというのをね、経営者として共感して読むのが好きですね。
――そういった自伝の中には『一勝九敗』のような負け続けだったというエピソードが綴られているものもありますが、嶋津さんご自身の人生の中で大きな失敗などはございましたか?
嶋津良智氏: この間、かみさんと話してたんですが、僕の経歴やプロフィールがあったとしたら、山の部分だけ切り取って見せているわけじゃないですか。谷の部分がないわけですよ。だから、プロフィールだけ見るとサクセスストーリーを生きてるみたいに感じる部分があるんですけど、じゃあ実際の人生を振り返ってみて、「どうして今の自分があるのかな?」ということを考えた時に、ものすごい連戦連敗なんですけど、致命傷となる大きな失敗をしてこなかったことが、たぶん僕の「今」を支えているんじゃないかな?と思う。小さな失敗を死ぬほど繰り返したおかげで、大きな失敗をせずに済んだ。大きな失敗も時にはしているけれど、致命傷となるくらいの大きな失敗をしないで済んでいるんです。金がなくてどん底の時もありましたけど、でも借金はしなかったり、そういう風に致命傷となるような所に足を踏み入れなかったということが大きかったのかもしれないですね。
――昔からご自身が守られている「教え」のようなものはあるんでしょうか?
嶋津良智氏: 僕は独立をする時に、おやじに「別に好きにすればいいけど、2つだけ守れ」と言われました。1つは『絶対、人の保証人になるな』と。もう1つは、『人に貸した金は返ってこないと思って貸せ』と。その2つは結構役に立ったアドバイスでしたよね。
この4つの条件をクリアしたら、結婚してもいい。
――嶋津さんのインタビューの中には、奥さまに関する言葉がたくさん出ていらっしゃいますね。
嶋津良智氏: かみさんを愛してるんですよ(笑)。純粋に大好きで結婚したというのはありますね。僕は「何をもって結婚って踏み切るのか」というような質問をよくされるのですが、「4つの条件がクリアされていたら結婚対象者として考えていいんじゃないか?」という話をよくします。1つ目は、『好きじゃだめなんだ。大好きじゃなきゃだめなんだ』ということ。僕の周りでね、「どうして離婚しないの?」と思うような家族もいくつかあったので、「なんでそんな状況で離婚しないの?」と質問してみたんですよ。みんなね、同じような返事が返ってきたんですよ。「好きで結婚したから」と言うんですよ。そこで初めて本当に好きだと言って結婚することの大切さを知ったんです。好きな人間と結婚することによって乗り越えられることもあるんだなと思って。だからさらに欲を言ったら、好きじゃなくて大好きぐらいがいいんだなと。そうするとあらゆる荒波も乗り越えて行ける。2つ目は、男女ともに、『子供を本当に産んでほしい』、『その人の子供を授かりたい』と思えるかどうか。
――確かにそれを考えてみると、答えが出やすいですね。
嶋津良智氏: 3つ目は、ちょっと特殊な事情は別として、『親を大切にしている人かどうか』。やはり親を大切にしている人は、相手の親を大切にします。要するに自分の親を大切にしてくれるし、かつ自分自身、相手を大切にしてくれる。自分の親を大切にしている人は、妻の両親を大切にできるし、妻自身も大切にできる。これは確率論ですけれどね。だから親を大切にしているかどうかは重要です。最後4つ目が、子供が巣立っていなくなった60歳や70歳の老夫婦になって2人きりになった時に、『2人だけでも幸せな家庭が築けるイメージが持てるかどうか』。
若いころはその時に勢いで結婚したりする部分もありますよね。でも結婚は、好きや嫌いだけで結婚できるもんじゃない。やはり色々な角度から考えて、総合的に判断する必要性があるのが結婚なんだと僕は考えています。そういう意味ではその4つの条件をクリアしていたら、少なくとも結婚の対象者としては考えてもいいんじゃないかな?と思いますね。
ハッピーでいられるよう、アンハッピーを自力で削除せよ。
――今、これを読んでいる方々へ、どう現実に立ち向かっていけたらよいかメッセージをいただいてよろしいですか?
嶋津良智氏: 僕は自分がこういう人生を送ってきたりすると、他人から高い志や目標を持って歩み続けてきたように思われがちなんですが、実は違う。僕は昔からそうなんですが、自分がハッピーじゃないことを自分の力で徹底的に排除してきたという人間なんです。そしたら知らないうちに、好きなことややりたいことが残ったという、そういうタイプなんですよ。でも、面倒くさいことや嫌いなことのアンハッピーを避けるために回り道はしません。避けたとしてもそれはまた起こるから、徹底的に自分の力で横に排除して、自分はまっすぐ進んでいくという感覚ですね。そういうことを心がけたほうがいいですね。
――自分はまっすぐ進んでいくんですね。
嶋津良智氏: そして、自分の幸せが何なのかわかっていない人間が人を幸せにできるわけがないので、まずは自分の幸せについて真剣に考えてほしいですね。あなたにとっての幸せは何かということ、何をもって幸せだというのか。どんな条件やどんな状況が幸せなのかということをよく考えてほしい。そして条件や状況をまず自分がしっかりちゃんと作れるのかということです。そうして初めて「自分は幸せだ」と実感できた人間が、人を本当の意味で幸せにできるんだと思います。
この世の中をよくするには、まずは人それぞれが個人ベースでしっかり自分の幸せとは何なのか真剣に考えて、自ら幸せな姿をきっちり作り上げること。これが実は一番大切なんじゃないかと思います。
――人を幸せにするためにも、自分の幸せを理解するんですね。
嶋津良智氏: 結局、真剣に自分の幸せについて、究極にわがままに考えると、自分が幸せになるためには、絶対に他人の協力が必要だということに気づきます。だから、人に優しくなったり、人に思いやりを持ったり、社会に対する貢献心も生まれてくるんですよ。ところが、中途半端に自分の幸せを考える人間が、本当の意味で自分勝手になります。
だから、僕はよく言うんですが、『自分だけが幸せになることを考えるんじゃなく、自分が幸せになることを真剣に考えろ。自分が幸せになることを真剣に考えた人間が初めてその向こう側に見えるものがあるんだ』と。自分だけが幸せになることだけを考えている人間は、いずれアンハッピーが待ち受けている。だから自分の幸せを真剣に考えてほしいですよね。
自分の人生、そして生と死に真剣に向き合おう。
――嶋津さんの人生におけるターニングポイントはいつでしたか?
嶋津良智氏: 僕が30歳の時に、たまたま2日連続で非常に親しい友人のお父さんが亡くなられたんです。それで、「俺も、自分の親が死ぬような年になったんだなぁ」と。初めて自分の親の死というものと向き合ったんですよ。それまで自分の親が死ぬなんて考えたこともなかったけれど、その延長線上で『自分もいずれ死ぬんだな』と思って、自分の死というものにも真剣に向き合ったんです。自分の生きる目的や働く目的を真剣に考えて、自分の答えを出して、自分にとっての幸せとは何なんだろうと。何をもって幸せと言えるだろうと。36、7歳の時にその答えをやっと見つけたんですが、そういう意味では僕は30という若さにして、自分の人生や死のテーマと真剣に向き合って考えるきっかけがあったというのは、それはとてもラッキーだったと思いますね。きっかけだけで終わらせないで6年も7年もの長い間、それについて自分自身が考え続けたことがすごくラッキーだったと思っています。そんなに簡単に出る答えじゃなかったので。
――7年、考え続けたんですね。
嶋津良智氏: 考えましたね。もちろんそのことだけ1日中考えているわけにいかないわけですから、考える時もあれば、考えられない時もありました。でも僕は少なくとも考え続けましたし、色々な人に聞きましたよね。「変なこと聞いていい?」と言って。「何のために生きているの?」とか、「何のために、一生懸命働いているの?」とか、色々な人に聞きました。でも、ほとんどの人が、お金のためや生活のため、生きていくためとか、もうつまらない答えしか返ってこなかったんですが、でもそれは逆にものすごい発見だったんですよ。「そうか!」と。人はこんなに大切なことを、意外と真剣に考えていないんだということが発見できたんですよ。だからこの答えを自分が出せた時には、これだけで他人との差別化が図れるなと思って、真剣に考えたんですよね。
――自分だけの答えを持つということが重要ですね。
嶋津良智氏: 結局生活のためだとか、家族のためという答えは、当たり前なんですよ。だからそれ以上のものが何なのか?ですよね。そこの答えを持っている人間と持っていない人間で大きく人生が変わると思います。
(聞き手:沖中幸太郎)
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