『電子書籍』がはやると、『本屋』に1冊も本のない『スター作家』が誕生する
『季刊レポ』編集長として活躍されている北尾さんは、ライターとしては、ゲイ、裏稼業、裁判傍聴ものなどサブカルチャーや一風変わった人生、生き方などを紹介するものが多い。そんな北尾さんに今後の電子書籍や出版業界について、独自の視点で大いに語っていただきました。
読書する時には『どんぐり舎』か『らんぶる』
――早速ですが、今のお仕事の内容を教えてもらってもよろしいですか?
北尾トロ氏: フリーライターなんですが、ライターが一番の仕事ということになるのかな。あと、季刊ノンフィクション雑誌『レポ』というのを2年前に創刊して、これの編集発行人をやっています。
――仕事場にはどのくらいいらっしゃるんですか?
北尾トロ氏: ここが事務所で、自宅は別なんです。どれくらいいるかな。基本はフリーだから、書く時と人が集まる時には来ます。『レポ』はUSTREAMとかやっていて、毎週火曜日ここでやっています。ここは原稿を書く場でもあるんですけれど、『レポ』の編集部としての機能といいますか、人が割と出入りしやすいようにと思っていますね。ここには週に4日くらいは来ますよ。でも朝から夕方までいるということはなくて、昼からとか、1回来てまた取材に出てとか、夜中だけ来るとかもうめちゃくちゃですよ。要は家ではなるべく原稿は書かない。家は、子どももいるし、やっぱりどうしても落ち着かないですよね。なのでそういう風に分けています。
――喫茶店とかで仕事されたりしますか?
北尾トロ氏: たまにですね。そんなにないです。書く場所は、人によりけりですよね。パソコン持ってやったりする人もいますけど、僕はわりと書く時は静かな方がいいですね。
――書くときはどのように書かれますか?
北尾トロ氏: 雑誌の連載なんかの場合はリズムがあるじゃないですか。なのでそれに合わせて取材進めていって、締切が迫って書きますね。書くときは一気に書くという感じです。勝手に書くものも、例えばメールマガジンを出していたりして日記的なものをやったりとか、もう何年もやっているので生活の一部になっていますね。
アイディアを出したりする時には喫茶店に行きます。あと本を読む時。気に入った本をじっくり読もうという時には、喫茶店にわざわざ行きます。喫茶店は、お気に入りもあるし、ちゃんとおいしいコーヒーが飲めて居心地がいいところもある。例えば普通の単行本とかだったら2軒ぐらい、はしごしてざっと読んじゃうとか。そういうのがものすごく好きですね(笑)。
事務所に来て、1人でも読んでもいいんだけど、ここだと何だかんだ人が来たり電話が鳴ったり、仕事しないとなって思ったりする。喫茶店は邪魔が入らないからね。この近所で、本が読みやすいのは西荻の『どんぐり舎』というところがあります。一軒に顔を覚えられたりとかあまりしたくないので、ルノワールとかでもいいんですけれど。
その街を代表する喫茶店も好きですね。だから電車に乗ってわざわざ行ったりもするんですよ。『らんぶる』とか名曲喫茶みたいな(笑)。荻窪とかにもあって、そこへ行ったりもするんですけれど、今どきは割とじいさんのたまり場になっていたりするんですよ。じいさん友達がボソボソ喋ってね、逆にちょっと居心地がよくない(笑)。
――お仕事を外でされる時は資料を持ち歩きますか?
北尾トロ氏: 資料がいるような場合はやっぱり事務所でやりますね。事務所で書かない時は短いもの、コラムみたいな何もなくても頭の中でできるものとかだったら、たまにはやるけれどね。
新刊書店と古本屋の大きな違いは『個性』
――北尾さんはネットの古書店をやっていらっしゃったり、全国の古書店を巡ったりと古本との関わりも深いですが、どういう所に魅力を感じますか?
北尾トロ氏: 僕はそんなに極端な読書家ではないので、新刊書店に読みたい本がいっぱいあれば多分新刊で買うんですけど、値段的なものはあまり関係なくて、新刊書店ってすぐに売れない本って消えちゃうじゃないですか。だからそういう本を読みたくなるともう古本屋しかないという、そういう状況ですね。
ただ、通っていくと新刊書店と比較して古本屋というのは、個性で持っているようなところがあるんですね。一軒一軒違う。新刊書店というのはチェーン店が特にそうですけれど、金太郎飴みたいにどこでも同じという安心感があるでしょ?だから古本屋に馴染んでくると、そのお店の店主の、好みとか詳しいジャンルとかがだんだん分かってきて、値段にもそれは反映している。そういうことが分かると動けるようになるんですね。こういう本が欲しいからあの本屋へ行こうと。そうするとこれは西荻の典型で、1ダースくらい古本屋があるんですけれど、そこをはしごしていく楽しみっていうのがあるんですね。ウインドーショッピングに近いんですけれど。そして出会うと。出会ってしまった時に店主と気が合って、店主の好みと一致すれば、何冊も出会っちゃうわけです。そういう風になってくると、今度は関西の方に行ってみようかなとか、旅行と兼ねて行くようになっちゃったんですけれどね。
城下町は古本屋のあるところが多くて、城下町って栄えたところなので、教養がある人が多かったり、伝統があったりという所で、蔵があったりして古い本を持っていたりする。街に本が残っている所っていうのは、古本屋さんが仕入れをできるので活性化するんですよ。やっぱり街全体が1つの蔵書みたいな形になっていて、飽きたり、人が亡くなったりするとその街の古本屋に流れ込んでくるじゃないですか。
――個人が持っている古本というのはどのくらいの数が循環しているんでしょうか?
北尾トロ氏: どうなんでしょうね?でも古本屋というのは組合があって、位置があって、プロ同士の売買があるんですけれど、そこで売れない本というのは大量にあるわけですよ。持って行っても誰も買わない。そういうのは捨てられちゃう、処分されちゃう。そういう本が結構あると思いますよ。だから出しても実際売れて次の人の手に渡るというとほんの何割かじゃないですかね。
――『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』は、そういった中で、売れる自信のようなものはありましたか?
北尾トロ氏: いやないですね、あれは最初単行本の時は一万何千部とか大して売れていないわけですよ。少し増刷したりして、それでも満足していたくらいですよ、まあまあ頑張ったと。それが文春文庫に入ったんですけれど、その時も文春の人も特に期待もせず(笑)、こういう毛色の変わった物もいいかなといって文庫化してくれたんですけれど、出してみたら売れちゃって慌てて増刷したって感じなので誰にも予測できなかった。結局は3年くらいのギャップがあるわけだから、書店で読者の人が見て決めた、あるいは世の中の裁判員制度に対する関心が高まってきて、単行本の時よりも文庫化された時にちょうど良くなったというか、それぐらいしか考えられない(笑)。あと値段が安くなって、女の人とか通勤途中で気軽に読めるようになったとか。表紙の効果もあったと思いますね。
『フィルム』と同様に『紙』もすたれる
――今回、電子書籍についてもお伺いしてるのですが、今後電子書籍は普及すると思いますか?
北尾トロ氏: そうですね、電子書籍に興味あるんだけれど、今は…どうなんだろうな、みんな質感だとか言ってますけど、僕はデジタルカメラが普及していって、フィルムが駆逐されていった過程と同じようなことが、起きるような気がしてならないです。最初デジタルが出た時に、それまでみんなフィルムで撮っていて、せいぜい使い捨てカメラくらいが最先端だったんだけど、みんな否定したんですよね。「デジタルなんて」とか、「あんなのものはおもちゃだ」とか。子どもたちが遊びで使うと。プロであればあるほど「やっぱりフィルムだよ」とか言っていたんですよ。「俺は絶対にフィルム派で行くぞ」と宣言までしていた人もいたけど、本当にこだわっていた人がみんなやっていけなくなって廃業しちゃったんですよ。田舎に帰ったり、タクシーの運ちゃんになったりとか、それはそれでポリシーつらぬいて良かったんですけれど。
5年くらいして性能がどんどん良くなっていきますよね、キャノンもニコンも本気で始めて、フィルムメーカーがどんどん規模が縮小して印画紙をやめちゃうとか、いろんなことが起きてくると、もうしょうがない。で、仕事としても「デジタルで撮ってください」っていうのが普通になって、今度デジタルで勉強してきた若い世代が社会人になって、ライバルになっていく。そうなると偉そうなことを言っていても、デジタルをこっそり買ってね、いつのまにかデジタルにみんななっちゃったんですよ(笑)。もう今は99パーセントそうだと思いますけれど。全くカメラとの付き合い方は変わったわけですよ。
僕はそれと似たようなことが、電子書籍でも起こるんじゃないかなと思ってるんです。紙の本しかみんな経験していないので紙への愛着があるのは当たり前で、これまで紙と電子を使い比べて吟味した経験がまだないわけじゃないですか。電子書籍に抵抗があるというのは、割と業界内部の話であって、普通の人は読めればいいわけですよね。
Amazonとか楽天のハードを僕は触ったんですけれど、すごく良くできていて安いじゃないですか。だからあの辺りをきっかけとして変わるんじゃないかと。最終的にiPhoneとかスマホで快適に読めるようになった時にガラッと行くような気がするんですよね。