北尾トロ

Profile

1958年、福岡県生まれ。法政大学卒業。編集プロダクションを経て26歳でフリーライターとなる。30歳を前にバンド活動、同名の「脳天気商会」という会社を、ライターの下関マグロ氏たちと設立。40歳を前に、インディーズ出版活動を開始し、『廃本研究』を制作。1999年、インターネットを使った古本屋「杉並北尾堂」をオープン。40代後半からは、日本にも「本の町」を作りたいと考えだし、2008年5月、長野県伊那市高遠町に、仲間とともに「本の家」を開店。 2010年9月、ノンフィクション専門誌『季刊レポ』を創刊。編集発行人をつとめる。代表作に「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」がある。

Book Information

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『電子書籍』がメインで、『紙』が『おまけ』になる時代


――今回出された電子書籍なんですけれど、読者の顔というのが見えやすくなりましたか?


北尾トロ氏: 反響ですか? 俺よくわからないんですよ。

――例えばお金を使わない読者の人達が、おもしろいものを無料で見て、次は購入するといった形に繋がるといったことはあると思いますか?


北尾トロ氏: その発想はダメだと思います。電子とかネットで宣伝して、お金になるところは本屋でというのは、これまでの付け足しというかダメだと思うんですよ。もっと独立した、ネットで買ってもらって暮らしていますよみたいな人が増えてきてなんぼというか。

――新しい出版の在り方ということでしょうか?


北尾トロ氏: 俺なんかが面白いと思うのは、『本屋なんかでは買わせません』みたいな(笑)。『なんで本を本屋が独占しているんですか』ぐらいな感じの、ネットだったら世界中で見れるわけだから『ここが一番の本屋じゃないですか?』ぐらいの意気込みの所が出てきてほしい。本当にそうなったら困るかもしれないけども。

実際過渡期においては本が全然売れていかないと、誰も食べていかれないからライターとしては困るんですけれど、ちょっと引いてどっちが面白いだろうと考える。本を読み込むツールとしてネットを考えている限りは、ネットには本気で行かないわけだから。最高にできたものを紙とネットとどっちに持っていくかということですよね?それをネットの方に持っていくと。プリントしたけりゃどうぞ、ぐらいな価値観の転換というか。

――今までとは違う新しい価値観というのが大切でしょうか?


北尾トロ氏: 僕らくらいになっちゃうと子どものいる世代になるので、うちの子どもとか見ていてこれは確実に来るなあと、学校で小学校1年からパソコンかあとか。そうなっているともう時間の問題、教育がそうなっているんだから。だからそこにしがみついていてもしょうがない。僕もそこはグラグラと悩むところで、「この電子書籍を作りました」とやると、一旦確実に紙が売れなくなるとことは予想できるわけですね、電子書籍の方が安いから。読めればいい人は全員こっちに行くんですよね。するとどうするの?っていうのはあるんですけれど、僕もそうだし、多少遊びの要素というかそれも含めて楽しめる人達、企業に属していない連中とかが実験でそういうことをやっていて、絶対ゼロにはならないと思うんですよね。こういう人はデーター化はされないけれど体感的に積み重ねていく中で、じゃあ電子書籍を次はこういう風に作り込もうとかいろいろなアイディアが出てくる。だからやらないと解らない。

僕も注意しないとなと思っているのは、電子書籍は凝らなきゃコストはかからないと。データー版出してダウンロードしてもらえばいいんだから、こっちを売って損しないようにって考えちゃうんですけど、やっぱり発想として、こっちは『これもあります!』みたいなもので、紙にこだわりたい人はどうぞって言って、そして経済的な基盤というのはむしろ電子書籍みたいな切り替えのできる、僕はまだできないですけど、電子書籍がおまけじゃなくて、主戦力で紙の本がこだわりグッズみたいな特装版みたいなものですね。わざわざ紙で作りました、だから1,000円なんですよみたいな(笑)。

電子書籍で元取るよという風に。小さいところだったら可能だと思うんですよ、人数も少ないし。大きい出版社では絶対無理なので、プライドもあるし伝統もあるしそんなだったら会社辞めます! くらいの、創業者に申し訳ないみたいなことなので彼らは。だから待っていてもできないです。あの人たちもどこかに乗っかる強力な何かが出てきたときにシステムに乗っかって、うちは本なんですけどまあ売れちゃうのでしょうがないんですよ、というポーズを取らせてあげないと取り組めないという。だからすごい様子見していますよね。

――これから古本業界・出版業界に突っ込もうとする若者に対して何か一言いただけますか?


北尾トロ氏: 古本に関しては本当に店を持つかネットでやるかはいろいろあるんですけれど、そんなに大きな規模で展開するというのは現実的にAmazonがあるから難しいんですね。Amazonでマーケットプレイスをやる以前以後でガラッと状況は変わっていますから。値段チェックをAmazonでみんなするわけですから、やりにくいと言えばやりにくいですよね。ただ副業とか、もともと本が好きでそれをうまく回していきたい人とか、あと店を開くというのは場を持つということで、そこにいろんな人が訪ねてきたりして、売れる売れないとは別の付き合いが始まる。

図書イベントとか本に関連するイベントはすごい盛んになっていって古本市とかいろいろな所でやっていますし、マニアというか本好きの間の情報網というか、退屈している間がないくらいいろんなことをやっていますからどんどん世界が広がると思うんですよ。そういう意味で、趣味とちょっとした副業みたいな気分で楽しくやりたい人にはやってみたらと言いたいですね。それでいっぱい儲けてやろうというのはなかなか難しいし、お金だけにこだわるならマーケットプレイスでせっせとやってらっしゃる方はいっぱいいらっしゃるんで、金なのか、それともそうじゃない場なのかというのを自分で見極めて選んでいくといいですね。

今、『山田うどん』がキテます


――今後の北尾さんの展望を教えていただけますか。


北尾トロ氏: 『レポ』がまだ赤字なんで、『レポ』をまず黒字にしたいというのがありますね。さっきも言ったように電子書籍とかやったことがないことを体験したい。自分だけではできないわけですよ、やり方もよくわからないし。ただ、こういうのをやっているといろんな人が集まってきてくれて、無償で手伝ってくれたりするんですね、世代関係なく。その中で僕なんかよりネットに通じている人に誰か電子書籍やらない?って言ったら、ちょっとやってみたかったんだよ、みたいな人がいると思うんです。そういう人と一緒にやったりとか。普段ライターとしては1人で仕事しているから、そうじゃない所の仲間と何か一緒に作るとかってのは、いい年して覚えた楽しさですね(笑)。『レポ』はとにかくいろんなことをやりつつ、読者をもうちょっと増やしてこの先も続けていきたい。

もう一個は、多分夏のうちに信州の松本に引っ越すと思うんですよ。そうなるとここは残すんですけれど行ったり来たりの生活になるので、ここに寝泊まりしたりとかになってくると思うんですけれど、それが楽しみというかですね(笑)。

――何かお気に入りの物件を見つけられたんですか?


北尾トロ氏: いや、まだそこまでではないんですけれど、前からいずれ東京を離れたいねというのがあって、震災なんかもあったので、子供は今まだ小さいので馴染める。あと松本は冬寒いので、とにかくワンシーズン、1年間住んでみて、それから気に入れば本格的に移住というのがあるんですけれど、トライアルでやってみるという話が決まりそうなんで。そうなると生活のリズムが一変するのが自分的には楽しみですね。

――また全然違ったものが作品に出てきそうですか?


北尾トロ氏: やっぱりそこはライター根性があるんですよ。特に僕みたいなタイプは。何かやることによってそれを書いていくタイプだから、田舎と都会の二重生活だったらそりゃ書きたくなるでしょ(笑)。だから言葉は悪いけれど、これはネタだなと。それも自分で狙ってネタを探してやると、そこに下心というのがあるんですけれど、どちらかというと今回はうちの奥さん主導だから巻き込まれ型なんですよ、やむなく(笑)。こんなことしたことないからね。50過ぎてしたことないことって割と貴重になってくる。多分ちょっと面白そうだなとかちょっと田舎暮らしいいなとか思う人って割といると思うのね。その人達がどんなものなの?っていう何かをやらざるを得ないんですけれどね。

でも変なことで迷うんですよ。ここ事務所じゃないですか、布団もないし。だから最初は西荻でどこか風呂なしでいいからアパート借りて寝るだけの場所を、と思っていたんですけれど、良く考えたらそんなことをし始めると「松本に行くか、オレ」って(笑)。だって子供に会いたいというのがあるけれども、なるべくここで不自由な暮らしをある程度して。隙ができたら帰りたいというぐらいにしておいても、だんだんと慣れてくるに決まっているからこれは借りない方がいいとか、移動手段をどうするかとか、面倒くさいなというのもありちょっと面白いかもと(笑)。この企画のいいのはトライアルなので、無理だったら帰ってくればいいという(笑)。なんちゃってなので、先が読めない感じがね。

あと、今は山田うどんにハマっていて。じゃあ記念に今日はこれをあげる。ストラップなんですけれど。ローカルなチェーン店で、関東の牙城を守っていて、それの本を作るんです。今ちょっとうどんが来てますね、個人的に。まず山田うどんやって、全国でうどんどころがあるので。最初は正統派で讃岐とか稲庭って考えたんですけれど、ちょっとらしくないなと思って(笑)。やっぱり庶民が集まるチェーン店、地方豪族を訪ね歩くというのがいいかなと。ちょっと離れた山田うどんなんて誰も知らないんですよね。うどんを盛り上げていきたいなと思ってますね。うどんどころはいっぱいあるからね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 北尾トロ

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