加藤昌治

Profile

1994年、大手広告会社入社。情報環境の改善を通じてクライアントのブランド価値を高めることをミッションとし、マーケティングとマネジメントの両面から課題解決を実現する情報戦略・企画の立案、実施を担当した。情報戦略の企画実施業務を行う傍ら執筆した『考具』(阪急コミュニケーションズ)がベストセラーになる。著書に『アイデア会議』(大和書房 2006年)、『アイデアパーソン入門』(講談社BIZ 2009年)などがある。

Book Information

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電子書籍という新しいスポーツは、ルールもプレーヤーも未開拓


――そのまま電子書籍化するよりは、特性に合った電子書籍ならではの形にしていった方が面白いという事ですね。


加藤昌治氏: そのままの方が読みやすい本もたくさんあると思います。自分自身を含めて、2012年現在では書き手も編集の方も、電子書籍に対するスキルとマインドが、追い付いていないのが現実だと感じます。新しく勉強しなきゃいけない。いえ、勉強ではなくて練習でしょう。紙の書籍と電子書籍とは違う「スポーツ」だと思います。同じ球技だけれどもルールは違うような。ラグビーがサッカーから生まれたようなもので、根は一緒だけれども違うスポーツ。となったら、ルールは覚えなきゃいけないし、それこそ人数も違うし、身体の使い方が全然違うわけじゃないですか。新しいスポーツに対するルールの理解と、勝つための戦術や作戦はまだまだ未開拓だし、ルールや戦略はある程度あったとしても、それに対してプレイヤーである自分の身体ができあがっていないという感じではないでしょうか。スポーツは、練習しないと上手くならないですから。

――では、電子書籍というまだ新しくできたスポーツに関して、作る側も、プレーをする側も、見る側も練習不足という事でしょうか?


加藤昌治氏: 「出版する」とはイコール「試合に出る」ことだと思います。だから本当は練習をもっとたくさんこなしてから試合に出られればいいんですけれども、現時点ではもろもろの環境が、あまりそれを許してくれない。基礎的な練習だとか、練習試合ができれば大分変わると思います。今はいかんせん、いきなり試合になっているケースも多い。残念ながら負け試合も一杯あると思います。比喩が続きますが、プロスポーツってトーナメント制ってほとんどないんですね。基本的にリーグ戦。つまり勝率の世界なので、全勝するチームはまずいなくて6割程度勝ったら優勝じゃないですか。自分がファンのチームを見に行ったら負け試合だったこともそれなりにあって、『コノヤロー、チケット代返せー』と、みんな野次を言うわけですけれども(笑)。
勝率がどれほどなのか? リアルの本でも同じように勝ち負けはあるでしょうが電子書籍に関して言えば、プレーヤーが新しいスポーツに移ろうとしている感じですよね。だから、先に必要なのは練習ですが、僕も含めてみんな大人になってから練習ばかりするのは嫌で、すぐに試合に行っちゃうわけです。
 プレーヤーである作家は、それほど多作でない方ばかりでしょうから、試合数はすぐには増えない。試合に出してもらえないケースもあるでしょうし。とすると、先に出版社、編集の方々が練習を積まれることになるんでしょう。そんなこんなで新しいスポーツに対応した身体作りと作戦を備えつつあるイメージでしょうか。

これからは、「出版社」はプロリーグ、「編集者」は野手、「著者」はピッチャー?


――出版社、編集者というのは競技で言うと、どのようなポジションでしょうか?


加藤昌治氏: もちろんレギュラー選手で、野球で言えば野手。野手は連続試合出場が可能ですから。出版社から本を出す、つまり商業出版をするとはプロリーグにデビューするだと例えてみる。著者さんはプロ契約をした投手。連投してたら肩がすぐ壊れてしまう。中5日、中6日の休息が必要です。ピッチャーがボールを投げないとプレイが始まらないあたりも似ている感じです。
 ただ契約したけれども一軍の試合に出られずにそのまま終わっちゃう人もいれば、一度だけ活躍して「どこに行っちゃったっけ?」みたいな人もいる。著者が投手個人だとすれば、編集者が野手、そして出版社は球団。常に成績がよくて、活躍する選手がたくさんいて、かつプロだからビジネスとしても成立するし、ファンを常に楽しませ続けるのがプロスポーツ球団としての仕事ですよね。可能性として多くの報酬を獲得できる可能性はありますが、著者はあくまでも「パーツ」です。



優れたコーチとは理論と練習をセットで生徒に教えられる人


――ファンを楽しませる要素が大事という事なのですけれども、ご自身で、執筆するにあたって心掛けている事、というのは、何かありますか?


加藤昌治氏: 非常に登板数の少ないピッチャーなので・・・(笑)。“身体知”のような身体を動かす構造と、実際に身体を動かしてする練習とのバランスは意識してます。書籍は読者を行動させるだけの強制力はないのでそこが難しいところですね。またまたスポーツに例えると、プレーヤーとしては上手いんだけれども、コーチとして人に教えるのが上手な人と下手な人とがいる。スキーなんか典型だと思いますが、子どもの頃から滑っている人って説明下手が多い。言葉で説明できないんですね。教える際に指示代名詞が頻発する。『ここがこうなるからこうなるじゃない、ね?』と非常にハイコンテクストに教えてくれる(笑)。

――音声だけで聞くと全く理解できないと思います。(笑)


加藤昌治氏: 「ほら、ここがクッとなってさ、スーッとなって」みたいな(笑)。ところが、大学生ぐらいからスキーを始めた人は、自分自身が分からなかった経験を覚えているから、構造と練習がセットになって頭に入っている方も多い。構造と練習とがセットになっている方が、大人になってから始める人に教えるには理解が早いのではないか、という仮説は持っています。この仮説、バランスは本を書く上で意識します。だから「アイデア」が天から降ってくるのを待つだけじゃなくて、理屈、構造があった上でたくさん出さないと上手くならないよね? と。「考える」「アイデアを出す」ってスポーツですよと言ってます。

――スポーツと同じですか?


加藤昌治氏: 教え上手なスキーの先生は、5、6人をまとめたチームレッスンでも生徒さんによって指示ポイントを変えるんですね。綺麗に丸くターンする練習をしていたとして、「佐藤さんは目線を上げて」、「田中さんは足首の角度に気を付けて」とか、同じ事をさせるんだけれども意識させるポイントを変えて指示する。人間の身体がスムースに動くためのツボは人によって違うので、先生はその違いを見抜いて、それぞれの入り口、ツボを変えてあげる。その結果、みんなが同じように滑れるようになる仕組みです。生徒が同じように身体を動かせる経験を作れる人が一番優れたコーチだと思っています。

――なるほど、自分をコーチになぞらえるわけですね。


加藤昌治氏: ジャンルがなんであれ、人によってツボは違うので「全ての指導法が自分に合うわけではない」と思います。『考具』の中には21ぐらいのやり方が載っていますが、読者の方それぞれに、合う合わないが分かれるはず。全部ハマる人っていないでしょう。それぞれの発想法を開発された方は、その方法が一番だと信じていらっしゃるかもしれませんが、合う合わないがあることは、本を書く上で前提としています。だからこそ、いろんな方法があるし、それはそれでいいんじゃないかと。どの方法を使おうと、結果いいアイデアが出ればいいんじゃないですかという立場で。
 道具と人との間には相性があります。それに上達するにしたがって道具も変わります。いつまでも初心者用の道具では物足りなくなってくるでしょうし、道具の数が増えるかもしれない。それでOKだと思います。自分が使いこなす発想法も、そうやって増えたり変わっていいと思います。また、自分の人生が変わってしまうようなインパクトのある本に出逢うことについても、本自体も人によって違うでしょうし、同じ一冊だとしてもタイミングも含めて相性があるのだろうと。

著書一覧『 加藤昌治

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