紙の本はなくならない。紙と電子はよい形での共存をしてもらいたい
2002年に『ダーク・バイオレッツ』(電撃文庫)で作家としてデビュー。『偽りのドラグーン』シリーズなど、電撃文庫で主にホラー、ファンタジーなどのシリーズ物を執筆する人気作家でいらっしゃる三上さんに、ご自身の読書歴や電子書籍についてのお話を伺いました。
人気シリーズ『ビブリア古書堂』の続編を準備中
――ここ最近、執筆されているものはございますか?
三上延氏: ええ、今のところは『ビブリア古書堂の事件手帖』の続きを出さないといけないので、その執筆にかかっています。一応今年の冬に刊行予定なので、その準備に追われているというか。
――今年の冬ですか? それではお忙しいですね。
三上延氏: そうですね。色々なメディアからの取材も頂いていたので、執筆の為にまとまった時間が取れず、ようやく本格的に始めた所です。
――執筆スタイルについてもお伺いしてもよろしいですか?
三上延氏: 午前中はノートパソコンを持ってファミリーレストランで書いて、午後に家に戻って書くというパターンですね。パソコンも使っているんですけども、一旦ノートに全部下書きをし、それを練りながら打ち直すというスタイルです。どうしても家で仕事を始めようとすると、なんかうまく集中できないんですね。周りに色々誘惑するものがあるので、まずファミレスのようになにも無い所に行って、仕事をするという風にしています。そのほうが、いくらか進むような気がするんです。
――パソコンで書かれる時に、ソフトは何を使われているのでしょうか?
三上延氏: デビューしてからずっとテキストエディターを使っています。最近のテキストエディターは縦書きで入力できるので、そうしています。ノートに下書きする段階でも縦書きですし、打ち込む段階でも縦です。本のフォーマットというのは縦書きなので、見直しもそのほうがしやすいかなという事で。執筆のペースは、本当にその時によってバラバラで、原稿用紙1枚書けない時もあるし、追い込まれてどうしようも無くて一気に原稿用紙40枚書く時もありますし、一定にならないですね。アイデア詰まるとウロウロ歩き回って、そういう時にひらめくという事もあります。
6畳の仕事場には本が多いが、取捨選択して管理している
――仕事場は、本がズラリとある感じなのでしょうか?
三上延氏: 本当にごく普通の6畳間です。最近引っ越したんです。その前が4畳間の仕事場だったんですけど、本が入りきらなくなっちゃって、ちょっとだけ広い所に移りました。本は確かに多いんですけども、ものすごいというほどではないと思います。個人的には、本をできるだけ必要以上に買わない事にしているんです。際限が無くなってしまうし、スペースが足りなくなってしまうので、そこらへんはどうにか収めているというか。「本当にこれは必要なものか」というのと、「読み終わったら処分してもいいか」と言う基準で選んでいる感じでしょうか。
――作家という道に進まれる事になったきっかけや、読書体験をお聞きしてよろしいですか?
三上延氏: 両親に聞くとかなり早い時期から勝手に絵本を読んでいたらしいです。僕には3歳上の兄がいたので、絵本が家にあったんですね。それでその中から好きなものを2、3歳から読むようになっていたらしくて。だから最初の頃何を読んでいたかはあまり記憶に無いんです。『おしいれのぼうけん』(童心社)という絵本があって、それは結構好きでしたね。ストーリーは、言う事を聞かない二人の子どもが、押し入れの中に閉じ込められて冒険をするという、幻想的っていうか怖い感じの本で。それと、谷川俊太郎さんが訳した『マザーグース うたのほん』(草思社)が出たんですよ。それが凄い印象に残っていましたね。マザーグースって結構残酷な歌が多いじゃないですか。それに絵がついていて。怖がりだったんだけど、怖いものに興味があったんですよ。だからそういうのを繰り返しこわごわだけど、ずっと読んでいるみたいな子どもでした。
――作家を志したのはいつごろでしょうか?
三上延氏: 高校生ぐらいだと思いますね。高校で文芸部に入って、自作の小説を読んでもらう友達ができた。面白いといってくれて、中にはつまらないと言われたものもあったけれど。文芸部なので、小さなコピー誌の本を出すんですね。当時はガリ版だったかな。それを校内に配っていたんですけども、主に部内で読み合っていた。その中で自分は小説がちゃんと書けるんじゃないかという思い上がりが生まれましたね。「自分は将来小説家になるに違いない」と勝手に思い込んでいたんです。
作家になるか古本屋で社員になるかの人生の岐路に立った時
――大学卒業からデビューまではどのように過ごされましたか?
三上延氏: 大学でもやっぱり小説を書いていて、純文学めいたものだったのですが、箸にも棒にもかからなかった。大学卒業をする時にも就職しないで「小説家になる」と周囲に宣言して、アルバイトをしながら書いていたんです。中古レコード屋でアルバイトしていたのですが、結局デビューができなくて、なんにもうまくいかなかった。それで一旦小説を書くのをやめてしまって、古書店に入ったんです。1年ぐらい働いていたのですが、「社員を目指さないか」とお話を頂いて、もう1回考え直したんですね。「古書店の店員になるか、もう1回小説家を目指すか」という人生の岐路に立った。それで後1年だけ小説を頑張ってみて、それで無理だったら本当に諦めてしまおうと思ったんです。その時に「自分は今まで何をやってきたのか」という事と、「これから何をすべきか」という事、「本来自分が何をしたかったのか」をつきつめて考えたんですね。自分が小説家になろうとした目的は何だったんだろうと・・・。僕は、結局は誰かに読んで、面白いって言って欲しかったんですよね。だからその原点に返ろうと。それで初めてエンターテインメントの小説を書こうと思いついて、原稿を電撃文庫でライトノベルの新人賞に送ったんです。結局入選はしなかったんですが、編集部の拾い上げというか、賞に受からなくても編集者がついてデビューできた。ライトノベルはちょっと他のジャンルとは違う部分があるんです。受賞歴が無くても割と食べていける可能性があるというか。ライトノベルの場合だと編集者と作者の二人三脚で計画を立ち上げる部分が結構ある。それで僕も編集の方から色々教わるというか、「エンターテインメントはこういう風に書く」ノウハウを学びながら仕事をしていった感じですね。
――古書店で働かれていらっしゃったんですね。当時と今と何か変化を感じられる部分はありますか?
三上延氏: そうですね。昔から比べると、個人書店さんは減りつつあって、代わりに駅前の大きな店舗が中心になってきましたね。それもまた大きな書店が出そろってくるとその中でも競争があって、小さくなる所もあるし、大きくなる所もあるし、選別されている感じがあります。また、ネットの書店が出てきて、書店が存在する意味合いも大きく変わってきたと思いますし、それこそ電子書籍も普及しはじめて、それによって今度は「本そのものの形」が変わっていくんだろうなと。ネットで買う場合は、何を探すのかっていう目的がハッキリしていないと、たどり着きづらい部分があると思うんです。実際に書店に行くと一気に色々な本を見る事ができて、新しい本を発掘する事もできるという意味では、実際の書店に利点はあると思いますね。
著書一覧『 三上延 』