森沢洋介

Profile

1958年神戸生まれ。9歳から30歳まで横浜に暮らす。青山学院大学フランス文学科中退。大学入学後、独自のメソッドで、日本を出ることなく英語を覚える。予備校講師などを経て、1989~1992年アイルランドのダブリンで旅行業に従事。TOEICスコアは985点。現在千葉県浦安市で学習法指導を主眼とする、六ツ野英語教室(TEL.047-351-1750)を主宰。『英語上達完全マップ』、『どんどん話すための瞬間英作文トレーニング』(ベレ出版)などの書籍多数。
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難しい言葉をあえて使わなくなった現代。表現が貧しくなった


――たくさん本を読まれて育ってこられたと思うんですけれども、本が昔と今と、こういう風に変わったなというご感想はありますか?


森沢洋介氏: 僕は本の内容自体は楽しむんだけれど、装丁やカバーとかにはほとんど興味ないですね。例えば、物質としての本、芸術品としての本を好まれる方はいるでしょう。僕は全くそれがないので、ハードカバーじゃなくてソフトカバーで読んでも十分です。ただ、内容に関しては、言葉がすごく軽くなったという感想がありますね。昔は少し難解な文章でものを書かれた先生とかが、読者に擦り寄っていたりする。書き手に回ってみると致し方ないところはあるんですけれど。例えばこの『語彙制限本』というペーパーブックがありますけど、これは外国語学習者用に、3000語くらい、あるいはもっと語数レベルを落として書くのですごく大ざっぱな、木で鼻をくくった様な表現になったりするんですよ。そっけない表現に。それから幼稚な感じに。全体として、出版される本が全部ではありませんが、そうした傾向が90年代の半ばくらいから見られるようになったと思います。

――読み手に擦り寄るというのは、具体的にどういうことでしょうか?


森沢洋介氏: われわれのころは、もし難しい用語にぶつかると、それを理解しなきゃいけないもの、克服しなきゃいけないものと思ったし、こういう言葉を使ってみようという「知的背伸び」のようなものがあったと思うんです。そうしたある種の向上心を持って本を読んだものですけど、ある時期からそれがすごく減ってきてね、「何この難しい言葉、読む気ないよ」という読者が増えてきたような気がします。

――それでは、今の出版の状況も、一方的に出版社が作り上げたのではなく、読者側にもそのような傾向はあるということですね。


森沢洋介氏: もちろんそうです。それは必ず相互関係、または共犯関係というのでしょうか。例えば、ある国の政治家の質が悪いとしたら、それはもちろん選挙民がいてのことですから、両者の相互作用ですよね。

教師として教えるだけでなく、生徒からも「教わる」刺激がたくさんある


――教室を15年間されてきて、社会人の方や色々な生徒の方と接してこられて、何か感じるところはございますか?


森沢洋介氏: やっぱり勉強される方はすごいってことですよね。本当に頭が下がる思いですよ。僕なんか、これを生業にしているわけですから、ある程度英語ができてしかるべきなんですけど、多くの生徒の方は企業で責任のある高度なお仕事をされていて、時間的にも精神的にも、大変なストレスや負担がありながら、僕の教室に通っていただいているんです。例えばある生徒さんは、毎日2時間くらい勉強されているのですが、その方はもちろんもともと英語がおできになって、TOEIC700台くらいから始められて、900を越える力をつけて、さらに向上させて自分の英語力を上げていらっしゃるんです。こういう方がすごく多いんですが、本当に頭が下がるし、自分自身がすごく刺激を受けますね。

――やっぱり英語において日々の訓練というのは重要なのでしょうか?


森沢洋介氏: それは非常に感じますね。それから、レベルの高いクラスの方々は、技術的にはお一人で勉強できるんです。授業にいらっしゃらなくても、数ヶ月に1回のカウンセリングで十分力を延ばしていけるんですが、さっき申し上げた生徒さんなんかは、まさにペースメーカーとしてここをお使いになっているんですね。

――ペースメーカーといいますと。


森沢洋介氏: 自分の姿を客観視できる方々が多いので、僕に頼るってことはなくて、「この先生は英語に関してはノウハウを多少自分より持っているわけだから、それは採用してみよう」っていうことでね。だから、僕は一方的に教える、何かを与えるという状態ではなくて、「君の方法論を聞こうじゃないか、それで採用できるものは受け入れて、それで役立てていくよ」という感じです。

――サロンのようですね。


森沢洋介氏: 全く五分五分の関係ですね。まさにパートナーシップですね。

――そうなると、お互いが切磋琢磨し合えるのですね。


これからの著作には、浦安教室でつちかったフィードバックが盛り込まれる



森沢洋介氏: そうですね。今まで僕が書いてきた本は、まだ房総にいたころの蓄積が多いんです。その時はね、本当に初心者が多かった。今申し上げた、親鳥がひなに与えるタイプの教え方が多かったので、テキストもそういうところがありますが、これからの本は、浦安で蓄積してきたノウハウが、これからテキスト化、書籍化していくんです。ですから、僕と生徒さんがやりとりして、そのフィードバックから上がってきたメソッドが、これからの書籍に生かされていくので、本当に楽しみですね。

――そういう新しい本は、皆さん楽しみというか、驚かれると思うんですが。


森沢洋介氏: 僕も非常にその点では恵まれていると思いますね。僕よりずっと力がおありで、素晴らしい仕事をされている方はたくさんいらっしゃると思いますが、ただ、僕のように濃密なかたちで生徒さんと相互作用し合える経験に恵まれている人というのは少ないと思うので、それは本当に恵まれていると思います。

紙の本には、深い愛着がある


――電子書籍について伺えればと思います。紙の本の電子化については、何かご意見はありますか?


森沢洋介氏: 全くもって僕にはわからない世界ですね。ただ、僕自身の紙の本に対する愛着は深いですね。電子といえば、自分の書いたコンテンツがアプリになって、去年くらいから出始めたので、ようやく最近iPod touchを買って自分でも使い始めて検証しているところです。そうするとね、ある種のトレーニングには、アプリは非常に向いている、紙のテキストより向いていると感じました。ただ、電子書籍を僕が読むかどうかで言うと、今この瞬間は、紙のにおいがしたものをたわませながら読みたい。ただ、未来はわからないですね。僕と同世代の多くの方も電子書籍をお読みになっている方は多いですから。

――逆に、今はデバイスが板の様な形だと思うんですけれども、どんな風になったら読みやすいというのがありますか?


森沢洋介氏: そうですね。まずたわむことですよね、本の様に。それから紙のにおいがするといいですね。あの印刷紙のにおいですよね。

英語学習には、アプリなどで機械的な反復が効果的


――英語教育の可能性として、アプリも含めて、電子書籍の有用なところはどこにあると思いますか? 


森沢洋介氏: まず、アップデートが可能でしょう。ここはこうしたほうがいいっていうときに、すぐアップデートできて、購入者のデータに反映される。これは本だと、改訂しなきゃいけないわけで、電子書籍だとその反映は早いですよね。それから今言った様に、外国語というのはトレーニングの側面がすごく多いので、機械的な反復などには、アプリの様なものはすごく合います。それから電子書籍は半端な時間が利用しやすいですね。複数のテキストや辞書的なものや紙やペン的な機能をiPadやiPhoneなど、1つにまとめることができる。それは学習機材としても、大変なポテンシャルを持っていると思います。

――実際にアプリを出されているということですが、ご自身の出されているアプリの特性をご紹介いただけますか?


森沢洋介氏: 今申し上げた様な、ハンディで持ち運びしやすく、そしてすき間時間を利用してできる。それから、例えば、瞬間英作文のトレーニングがあって、日本語が流れてきて、それに対して、一拍pauseがあって、そして答えが流れるっていうね。そのpauseを自由に変えていける。初期は長めのpauseを取っておいて、段々短くしていくとかね。トレーニングがカスタマイズできるところがいいですね。

――アプリを出そうというお話になったのは、出版社さんとのやりとりの中で生まれたものですか?


森沢洋介氏: まず出版社さんからですね。従来の出版社さんは、模索の時期だと思いますよ。電子書籍化やアプリを、やりたくないとおっしゃる出版社の方もいらっしゃいますしね。従来の出版社の方々は、紙に対する愛着があるでしょうから。

理想の出版社は「放し飼い」してくれるところ


――出版社の役割というのは、これから変化してくると思われますか?


森沢洋介氏: 僕にとっての理想の出版社や、編集者との関係というのは、ある意味放し飼いにしてくれるところですね。多少僕の著作が売れたりすると、ありがたいことに色々なところからお話をいただくんです。「こういう本を書いてくれませんか」とか、「こういうテーマをこういうページ数で書いてくれませんか」とかね。でも僕は、本当に申し訳ないんだけど、それはできない。僕の本は自分の学習経験とか指導経験であがってきた、一種、植物が自然に生育する様にできたものを本として出していくスタイルなんです。それから言葉使いなんかも、「ちょっとこの表現は最近の読者にうけないでしょうから」って言われたときでも、譲れないときもある。僕のそういうところを理解してくれないと難しい。だから最初に僕の本を出してくれたベレ出版さんは、僕にとっての理想の出版社ですね。僕自身のイマジネーションを最大限に引き出してくれて、時々軽くお尻をたたいてくださるのでありがたいですね。

――今後新しいテーマの出版予定などはございますか?


森沢洋介氏: これから2、3年の間に、5、6点を出版していきたいですね。

――最後に、このインタビューを読まれている読者の方に、何かメッセージをいただけますか?


森沢洋介氏: そうですね英語を教えている者として、英語を「選択しない」という方法もあります。もし選択しなかったら英語を「忘れればいい」ですから。でも英語を勉強することを選択するんだったら、ゴールをしっかりと見据えたほうがいい。例えばゴールが「ネイティブスピーカーになる」だったら、それは不可能かもしれない。けれども、さっき言った様に等身大の外国語を、英語の話者とコミュニケーションが成り立つ英語を身につけるのは十分可能なので、それには継続して勉強することが必要です。ぜひ勉強を継続してください。まずは等身大の目標を立て、そして継続することですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

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