ずっと文章を書くのが好きだった
―― 本を執筆されるきっかけは、何だったのでしょうか?
岡嶋裕史氏: 文章を書いたりするのは好きだったんです。例えば小学生の時に雑誌にプログラムを載せてもらったりした時も、説明文を自分で書かなくちゃいけなかった。そういう文を書くのもすごく好きだったので、生きているうちに1冊出せたらいいなとは思っていたんですね。2000年ごろに、コンピューターの試験対策本を作るのだけれど、時間がないのでライターを公募するという企画があったんです。「これはいいかもしれない」と思って、その企画に応募して、何十ページか分だけ書かせていただいたのが一番最初ですね。
――執筆をされている時に資料などはお使いになりますか?
岡嶋裕史氏: はい、Amazonで買います。僕は、めちゃくちゃだらしないので何を買ったか完全に忘れているんです。Amazonだとダブった本を買おうとすると「前に買いましたよ」と教えてくれるので、便利に使っています。
―― リアルの書店とAmazonの割合はどれ位でしょうか?
岡嶋裕史氏: ほぼ100パーセントAmazonですね。リアルの書店で「これを買おうかな」と決めるんですけれど、持って帰るのが重いので家でAmazonで頼みます。リアルな書店は、やっぱりAmazonの影響でメガストア化が進んでいますね。品ぞろえの点でどうしてもAmazonと比べると見劣りがしちゃうので、購買機会を逃さないようにメガストアになってきているのだと思うのですが、それのあおりで普通の本の雑誌化が進んでいるなと何となく感じます。
読者の視点から見ると、単行本の雑誌化が進んでいるように見える
岡嶋裕史氏: 最近は本の中身も何時間で読み捨ててなんぼ、みたいな風になっているのかなと。僕は、出版業界のことに詳しいわけじゃないので分かりませんけど、何となく一読者としてはそんな感じの印象を受けますね。書き手として言えば、すごく点数が増えているのでチャンスが増えてありがたいなと思います。僕が初めて出させていただいたときは全然実績がなくて、いわゆる昭和の考え方だと教養新書が出せるようなキャリアじゃ全然なかったんですけれども、それでも出させてもらえた。ただ、たくさん売れる感じではないので、チャンスをものにしてもお金がもうかるかどうかは分かりませんが。
――このような時代において、先生にとっての理想の出版社・編集者はございますか?
岡嶋裕史氏: 出版という、いままで個人にとってはハードルが高かった行為自体が、電子出版で簡単にできるようになっていますので、出版工程自体はプロとアマの差がなくなってきちゃっていると思うんですよ。だから出版社とか編集者がこれからプロデュースするという意味合いが強くなっていくのかなと思います。書籍の点数ばっかりどんどん増えていきますから、その中で売れる本というのは、ますます割合が減っていく。それをきちんと売っていくためには広告を打ったりブランド管理だったりとか市場調査だったりとか、個人の力ではちょっとできないところにフォーカスしていくといいのかなと思います。
電子書籍は持ち歩きやマニュアル閲覧に利便性がある
―― 先生ご自身で電子書籍の利用というのは?
岡嶋裕史氏: 最近外に出ているので、電子書籍は外だと便利だなと思います。やっぱり重くないですし、持ち歩きが楽です。大量に本を出先に持っていく人にとっては本当に得難いものかなと。あと、電子書籍って元がホームページじゃないですか。HTMLってもともとマニュアル閲覧用のプロトコルですから、そもそもマニュアルを読むのに向いている。クリックするだけでハイパーリンクしてくれるのがすごく便利だなと思います。あとミステリーを読んでいて「残り何ページだからこいつが犯人だろう」というのも電子書籍だと分からないとか(笑)。そういう利点というのはあるのかなと思いました。
―― ちなみにデバイスは何をお使いでしょうか?
岡嶋裕史氏: iPadを使っていますが、もうちょっと軽いといいなと思います。いまはデバイスは板ですよね。あれが、くるっと巻けるようになるといいなと思う。もう一昨年ですかね、SONYがペンに巻ける有機ELディスプレイを発表してますよね。そろそろ今年か来年あたり出てこないかなと思ってるんですけど。
―― そうなるとやっぱり爆発的に状況というのは変わってきそうですか?
岡嶋裕史氏: どうでしょうね。僕は、紙は紙ですごく好きなので。これから流れ的には電子書籍に進んでいくのかもしれないですけど、人が言うよりはゆっくりかもしれないなと思っています。紙にしても、僕が子どものころに既に、「お前が大人になるころにはペーパーレス化するぞ」と言われていたのに、いま、紙って逆に増えている気がするし。紙の本も好きな人がいるだろうなって思いますね。いくらタブレットで手書きもできますと言っても、利便性としてはまだ紙が上ですよね。機械も高いですから、旅先に持っていって荷物が重けりゃ捨てて来るというのも電子書籍だとやりにくいので。何百年も使われてきただけあって、本は情報を持ち運びするツールとして完成されていると思います。だからそうそう簡単に100パーセント、電子に切り替わるものでもないんだろうなと思います。
紙が100%なくなるということはない
―― そうなると紙と電子というのは両立、共存していくものということでしょうか?
岡嶋裕史氏: ですね。寝転がってクシャッとやっちゃってもいいし、よだれを垂らしても別に紙の本なら惜しくない、みたいなところもあるので。
――先生ご自身は、紙の本の電子化において、本を断裁することに何か抵抗はございますか?
岡嶋裕史氏: 特にないですね。1回作ったものが紙だけじゃなくて電子化されて読んでもらえるというのはすごくうれしいです。
――先生がおっしゃった検索やリンクに今後の可能性というのがあるのかもしれませんね。
岡嶋裕史氏: そうですね、ゲーム分野だと昔からノベルゲームとかあるじゃないですか。ああいうのもアリでしょうし、色々な書籍というか、字を書いて読ませるという枠を超えて広がっていくんだろうなと思います。
子どもにコンピューターの魅力を伝える「1冊」を!
――最後に、今後の新たな取り組みなどをお教えいただけますか?
岡嶋裕史氏: 僕自身も色々な本に出会って人生が変わったなと思うので、やっぱりコンピューターに興味をもってもらえるような子ども向けの「最初の1冊」みたいな本が書けたらいいなと思っています。ここ2、3年そういうことを考えていて、ゼミ生さんに本作りに参加してもらっているのもその一貫ですね。やっぱり、すごく低年齢なところに対してまだリーチをしていないと思うので、そういう本が書きたいなと思っています。なかなか市場規模とかの面で実現できずにいるんです。岩波ジュニアさんで1冊そういった本を書かせていただいたんですけれども、実際に読んでいるのは高校生とかになっちゃうので、小学生に向けた本が書ければいいなと思っているんですね。専門書というのはきっと用語が難しい。コンピューターってすごく単純にしか動けないので、本来は分からないような仕組みじゃないと思うんです。人間の方が頭がいいわけですから。でも、技術者が使っている言葉が違っていて、その言葉が一般的な人たちと合ってないだけなんです。だから、そこがつながるとスパッと理解できるのかなと思うんです。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 岡嶋裕史 』