和田秀樹

Profile

1960年大阪市生まれ。85年東京大学医学部卒業。東京大学付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。日本人として初めて、アメリカでもっとも人気のある精神分析学派である自己心理学の国際年鑑に論文を掲載するなど海外での評価も高い。2007年12月劇映画初監督作品『受験のシンデレラ』でモナコ国際映画祭最優秀作品賞受賞、本年8月には第二回作品『「わたし」の人生』を公開し映画監督としても活躍。

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世襲制度がやる気や学力の低下を招いている


――現在の教育によって、地域間格差だとか、色々な格差が生まれるのですね。


和田秀樹氏: 価値観ですよね。というのは、つい20年前までは群馬県とか山口県とかはすごい教育県だったわけですよね。山口県なんかは、長州藩があったわけだし、そこの出身の岸信介や佐藤榮作っていうのは東大の歴史に残る秀才なんだよね。ところが、そのころは東大合格者数っていうのは、中国地方では山口と広島が多かったんですね。ところが今や山口は中国地方で一番東大に入らない県になった。それは何故か? と言ったら、昔はお父さんお母さんが、佐藤榮作とか岸信介に票を入れて、「お前も勉強してあんな風になるんだ」と子どもに言い聞かせたのに、今は小学校からエスカレーターで進学している人に票を入れてそいつが首相になんかなっちゃったら、「ああ、勉強なんかするよりも、親が偉いほうが偉いんだ」って、子どもが思うのは当たり前でしょう?

――世襲ですか?


和田秀樹氏: そうですね。だから群馬県だって先代の中曽根、福田が出ていたころは前橋高校と高崎高校とあわせて100人ぐらい東大に入っていたのに、今は北関東で一番東大に入らない県になっている。あとは全国で300ある小選挙区の中で、1位と2位の差が一番大きいのは、群馬県の二世議員の選挙区なんですよ。だから結局それは、親が首相だったら、実績がなくても1位と2位の差が日本で一番大きい勝ち方をする。だから親が世襲議員に喜んで票を入れている姿を見ていたら、子どもは勉強なんかするわけないよね。

――底辺がどんどん下がっていくんでしょうか?


和田秀樹氏: そうですね。だから教育目標を「エリートを作ること」にするか、あるいは特別なエリートはいないけど「みんなが賢い国にする」のかっていう、2つの意見に分かれているんですよね。だけどどっちの道を選ぶにしても世襲はよくないと思います。
今じゃ山口県で10人とか、15人ぐらいしか東大に入らないわけですよね。だからホイホイと喜んで世襲議員に票を入れるのはいいんだけれど、やっぱり世襲する以上は、親が恥ずかしくないぐらいのレベルに子どもを教育しないといけない。かつては、大手自動車メーカーだって、みんな世襲だった代わりに東大出か名古屋大学卒だった。それが今は違う。だからいつのまにか売り上げが再びGMとかに抜かれてしまうんですよ。

だから世襲する以上はやっぱり親に勝つぐらいのつもりで頑張ることが必要だと思いますね。アメリカを見ていたって、いわゆる階層が高い社会的地位の人ほど子どもに勉強させるのに、その国を代表する私立の名門校が小学校で入ったら大学まで入れるなんていうのは、世界中どこを探してもないですよ。小学校(慶応の幼稚舎は小学校です)から付属なんていう制度は、まさに「人の上に人を作らず、人の下に人を作らず」の精神に反していると思いますね。

地域間格差を是正するのに役立つ電子媒体の在り方とは


――地域間格差、収入間格差というところを是正するために、こういった電子媒体というのは、それをうち破る助けになりそうでしょうか?


和田秀樹氏: なり得るために何を成すべきか、ということですよね。つまり、今のままでいくと今度は貧しい層に行き渡らない。だから僕は国民背番号制というのは税金のとりはぐれをなくするためにも大事だと思います。それで電子媒体を貸しつけて、年収が一定より少ない層に関してはタダで本にアクセスできるとか、そういうようなシステムがあるといい。つまり不平等と言われるかもしれないけど、貧しい層ほどそういう知的レベルにアクセスできやすくなるとかが必要。貧しい人のほうが現金で渡して豊かな暮らしができるといったら不平等だろうけど、じゃあ、生活保護の代わりに図書券を配るとかさ、まあ、図書券が換金されちゃうと困るんだけど(笑)。そういうような形で貧しい層ほど教育に金を出すという風にするのは、すごく重要なポイントだと思うんです。国家として一番いい形というのは、昔の日本のように、ばかのいない国、貧しい人のいない国で、治安もよくて、製品のクオリティーも高いという国家ですよね。こういう国は周辺国からのあこがれなわけですよね。ところが今の日本の在り方というのは、ばかも多いし貧しい人も多い。治安はまあ、そこまでは乱れていないからまだいいんですが。外国人があこがれないと何がよくないかと言うと、たとえをいうと、ヨーロッパの物だったら高くても買うじゃないですか。それはヨーロッパという国が何となく貧乏人がいないように見えるし、何となくフランス人とかドイツ人って、賢そうに見えるじゃないですか。そのイメージはすごく大事なんですよね。つまり賢そうな国の人が作ったものは、高くても買う。それから豊かそうな国のものだったら高くても買うわけで、いわゆる高級イメージ、知的イメージがないと値段で競争しなくちゃいけなくなる。価格競争を始めてしまうと、北朝鮮という爆弾を抱えているということをみんな気が付いていないわけですよ。韓国が北朝鮮と合併したら韓国の工場になるんだから、価格競争で勝ち目がないでしょ。北朝鮮の何が怖いかと言ったら一番怖いのは、北朝鮮がアメリカ、韓国の工場になることですよね。

日本は中国から豊かな国と見られなくなってきている


――そういったブランディングで勝負するというのはヨーロッパがたけているというか、何百年もかけて培ってきていますね。日本もアジアの中ではそういった存在になっているのでしょうか?


和田秀樹氏: 日本は一時期、短期間にブランディングに成功したんですね。つまり、日本というのは、昭和30年代は加工貿易の国で、日本製品というのはアメリカ人にもヨーロッパ人にも安物と思われていたのに、昭和50年ぐらいの段階では、日本製品は高級品扱いされるようになってきたわけです。だけどその過程で何があったかというと、2つ大きなポイントがあった。1つは日本人の教育レベルが当時一様に高かった。だから1991年に僕が留学した当時というのは、アメリカ人はみんな日本人が賢いと信じていましたね。91年というのは20年前ですよね。だから日本人だというだけで、クレバーだと思われていたとかね。2つめは、ヨーロッパとか色々な国の人たちは、日本はやっぱり豊かな国だと思っていた。アジアの中ではそういうところがあって、まだ日本が豊かな国だと思ってくれているから、日本製品が高級イメージでとられるわけですよね。

――今のこの現状というのはだいぶ変わってきていますよね。


和田秀樹氏: 大きく言うとまず中国人がどうも日本は豊かな国と思ってくれなくなったらしい。というのは、2011年の3月といったら、人々は震災で大ショックになっていたころだけど、ちょうど4月だったかな、中国の2011年の最初の四半期の輸出入の統計が出たときに、輸入相手国のトップがEUになった。それまでずっと、中国の最大の輸入相手国は日本だったんですね。だから中国というのは実はみんな中国との貿易って赤字だと思っているかもしれないけど、日本は中国に対して貿易黒字国なんですよ。それぐらい日本製品に対するあこがれっていうのは中国人は強かった。ところが2011年第一四半期に、一国ではないけれども中国の最大の輸入相手国がEUに変わったんですよ。ということは中国人があこがれて買う品物が日本製品からヨーロッパ製品に変わったということですよね。これは実は1970年代にあったことで、その当時日本人も、それまではアメリカ製品にあこがれていたのに、「ある日突然アメリカって貧乏くさいよね」、と言ってヨーロッパ製品にあこがれるようになったわけです。それからはアメ車なんていったら暴走族の乗る車になっちゃったし、アメリカ製のテレビとかそんなもの誰も買おうとしなくなった。 だから中国人が日本に旅行に来るにしたがって、日本人って貧乏くさいよね、と思うようになったわけです。



――日本が豊かな国ではないと考えるようになったんですね。


和田秀樹氏: ばれちゃったわけだよ。だから生活保護の問題だって、生活保護よりも給料の安い人がいる、みたいなことは法律上おかしいわけだし、本当は毎月10万しか給料もらえなくて、生活保護の基準が13万だったら役所に届け出せば生活保護を受けられるんです、法的には。つまり、働いているのに生活保護に満たないわけだから、差額分は生活保護で受けられるんですよ。だからそういうことをして、ベーシックインカムじゃないけど、国民の所得を底上げするほうが、中国人から貧乏くさい国だと思われないですむわけですよ。

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