本は多面的な考え方を促してくれる
――そうした中で、読書が手助けになるんでしょうか?
和田秀樹氏: 読書っていうのは、やっぱり賢そうに見せるためには非常に重要な武器ですからね。なぜかというと、今、私がテレビのコメンテーターはすっかり降ろされちゃったけど、やっぱりテレビという媒体は物事に対して一面的な論じ方しかさせてくれないわけですよ。例えば、今の生活保護に関してだって、本当は見栄っていう側面もあるし、本来生活保護よりも給料のほうが安いっていうのはおかしい。ヨーロッパだったら生活保護より安い給料の会社なんて誰も来ない。だから最低賃金を底上げしているんだよね。でも、そういったことを話す人はテレビには出してもらえないわけです。
――偏った見方だけが情報として流れているんでしょうか?
和田秀樹氏: 原発だって、怖いって言っている人しか出してくれない。だからやっぱり反論が起こるのが怖いとか、あるいは意見がまとまらないと視聴率がとれないと思っていたりするんでしょうね。これは非常に変な話なんですが、テレビとラジオとを比較して見ると、テレビだったらコメントを30秒以内にしろと言われるわけで、ラジオだったら7分は話を続けなければいけない。だとすると、同じ話のふくらみ方がテレビよりラジオのほうが広いわけ。さらに本というのは、それを1冊の本に広げないといけないから、色々な例外とか、色々な実例とかを挙げていかなきゃいけなくなる。だから言いたいことは1つであったとしても、それを1冊にふくらませるのにどうするかということを、僕らみたいな年に40冊も50冊も出す人間にとってみたら、そのふくらませ方が重要なわけですよね。だから本というのは、少なくとも一人の人間が知恵を絞ってつくるんだよね。そしてテレビで言っていることというのは、誰でも知っているレベルになっちゃうわけですね。そんなもんで賢くなれないでしょう。
――本は、知恵を振り絞ってたくさんの方面から考え抜いてできた結晶なんですね。
和田秀樹氏: テレビに出ている人が頭がいいと思うかもしれないけど、非常に一面的に断片的なことを言っているわけでしょ。あのテレビに出ている物知り連中の言っていることは、ネットを引けば出てくるものばっかりですね。だから知識というのは、基本的にはインターネットで得られる時代になってくる。そうなってくると、情報とか知識よりも、考え方とか考えることのほうが当然価値が出てくる。要するにその人の持っている知識はインターネットで調べがつくんだけど、その人の持っている考え方のほうは、やっぱりトレーニングが必要だし、あるいはほかの人の考え方を見ていかないと、色々な思考パターンというのは身に付かないわけ。だから読書が大事でしょうという話なわけですよね。
和田さんが最近読んでいる本とは
――今回は本との関わりについてお伺いしておりますが、直近で、この本は面白かったなというのはありますか?
和田秀樹氏: 今ちょうど、秦先生の『陰謀史観』という本を読んでいるんだけど、話のタネにはなると思うんですよね。色々な『陰謀史観』がどんな形で作られていったかとか、あるいはアメリカと日本のある種の歴史を通じた情報操作の話が書いてあります。そういう意味では、本というのは、話のネタとか、物事の例え話にするために利用できますね。僕は、人が言わないことを言っている本というのは好きですね。『陰謀史観』の他には、そんなに新しい本じゃないけれど、2~3年前に読んだ『ヒトラーの経済政策』という本があった。ヒトラーという人を戦争狂いのおかしい人間ととらえるのは簡単なんだけど、金正日とヒトラーと何が違うかというと、金正日や金日成というのは、戦争できる経済力に国を変えられていない。ところがヒトラーというのは、ドイツがボロンボロンの貧乏国で、1日に10倍の値段になるようなインフレを止めて、戦争が始まった1938年の段階ではヨーロッパでは一番豊かな国を作っちゃった。そこの鍵はなんだろうという研究が非常に面白いんです。つまり人間はいい面も悪い面もなければ、歴史に名を残さない。ヒトラーが豊かな国を引き継いでその国を戦争に追いやったというんだったら話は別だけど、貧しい国を建て直してその後、戦争狂いになっちゃったという面白い話です。
――ヒトラーの経済面での功績という面に焦点を当てた本なんですね。
和田秀樹氏: 一番印象的だったのは、ヒトラーというのはアウトバーンを大量に作ったことで知られているんだけど、アウトバーンはドイツにとってみたら、その後の国の遺産になるわけですね。ヒトラーが経済政策としてのアウトバーンを重視したのは、国民に金を持たせることだった。アウトバーンを作るときに法律で、使った金の46%は人件費に充てろということを言っているわけです。だから今、自民党が消費税が上がったと同時に国家強靱化法案とか言って200兆円ばらまきをやると言っているわけだけど。「いくらばらまいたか」ではなく、「いくら大衆に渡ったか」が大事ですね。自民党の場合は公共事業にものすごい金を使っても、土建屋がもうけて自分たちの懐に入るようにしてきたことが問題なわけですよ。だから生活保護というのは一方で考えれば、これほど人に渡る率が高い公共事業ってない。一般的に10兆円公共事業をやったら、民に降りてくるのって2兆。ところが生活保護の場合は9兆5千億か、9兆8千億ぐらいは民に渡る。だからこれは元官僚の政治家に聞いた話なんですが、だいたい官僚とか政治家というのは、給付を嫌う。給付というのは子ども手当とか生活保護だけれど、それだと利権が生じないんですよ。だから役人はマスコミをだまして、子ども手当をやる代わりに教育を充実させろと言う。子ども手当だったら親が飲み代に使うかもしれない。だったらその金を教育に当てたほうが良いと言わせるけど、教育に当てると、今度は学校を作ろうとか先生を雇おうとかって話で、そこで利権が出てくる。その「利権」に気づかないから、メディアは役人の言いなりに動くんだよね。
本だって“ブラインドテイスト”するべき
和田秀樹氏: マスメディアの人たちっていうのは、肩書至上主義ですよね。だからワインとかブラインドで飲むことがあるみたいに、本をブラインドで読んでほしい。表紙を外して誰が書いたのかわからない本を読んでて、自分の頭でどっちの言っていることが正しいのか考えてみてほしいですね。ただ、マスコミの人たちが、テレビに出す時に東大教授の誰々さんと言ったほうが、視聴者が信じるということもあるからでしょうね。視聴者も中身を読むよりも表紙を見るわけでしょう。だから肩書よりも中身で本を選べるようになれば、読書家としては、かなりまともだと思います。
―― 一般的に、「あの先生が書かれているから正しいはずだ」と読んでしまうことが多いですね。
和田秀樹氏: 日本で一人としてノーベル経済学賞をとれそうな人もいないわけだし。外国から見たら二流もいいところでしょう。だいたい大学の教授が40歳ぐらいで教授になって、定年になるまでずっと居座れること自体がおかしいんですよ。アメリカはグラントが集められなくなったらクビですから。だから能力が高ければドラッカーみたいに九十いくつまで教授ができるわけですよ。
――読者自身が内容で判断できるようになった方がいいんですね。
和田秀樹氏: そうですね。だからワインでもブラインドテイストというのは最初は遊びで始まったんだけど、ブラインドテイストが始まることで初めてアメリカのワインは評価されたんですよね。ちょっと飲みにはアメリカのワインはうまいですから。
――ワインは値段がピンからキリまでありますけど、味は値段に比例しますか?
和田秀樹氏: 結果的にそうなるようになってきたんです。というのは、昔はいわゆるブランドのほうが値段が高かった。今でもフランスワインというのは値段と味なんか全然比例していないですよ。ロマネコンティがうまいかと言ったら、よっぽど状態が良くて、よっぽどヴィンテージがよくないかぎりおいしくないでしょうね。私が知る限り値段を出すだけの価値があるとしたらペトリュスとルパンぐらいで、あとはハズレのないワインというのは、あまりないでしょうね。ところがそれと比べたら、ナパのワインなんかは、ロマネコンティなんかと比べたらそれこそ10分の1どころか50分の1ぐらいの値段で、3~4万のワインでめちゃくちゃうまいワインなんていっぱいあるわけだから。フランスに関しては、有名なテロワールだったり有名なブランドだったりしないと売れないわけだけど、アメリカのワインはロバート・パーカーが大衆の舌の代表として味見をしてくれて、パーカーがうまいというワインはだいたい素人が飲んでもうまいわけです。そうするとパーカーが高い値段をつけると自動的に価格が上がっていくから、アメリカのワインはそれこそ新人王を狙う若手以外は5年目10年目のベテランになってくると、うまいほど高くなってしまう。
――先ほどのブラインドテイストは本にも同じようなことが言えるのかなと思うのですが。
和田秀樹氏: 一般論から言うと、そういう人たちが理論をモデルチェンジすることや、新しいことを言うのってまれなわけですよね。だからどう若手を探すかっていうのは非常に重要なわけです。「この人の本って1冊読めば十分だよね」、という話になる。だから僕なんて結局、じゃあ5年前10年前と違ってくるということをなるべく狙いたいということですよね。
著書一覧『 和田秀樹 』