後藤武士

Profile

1967年、岐阜県生まれ。青山学院大学法学部卒。執筆・講演のほか、教育評論家・活字講談家・世相評論家・平成研究家などの一面を持つ。学習法、読解力育成、などのメソッドでも一世を風靡。代表作「読むだけですっきりわかる」シリーズは累計280万部超。とりわけ2008年文庫化出版の『読むだけですっきりわかる日本史』はミリオンセラーであると同時に超ロングセラーとなっている。他に監修本として、『NHK麻里子さまのおりこうさま! 篠田麻里子の150字で答えなさい!』(アスコム)や『まんがと図解でわかる世界史』(別冊宝島)など。 http://www.takeshigoto.com/

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日本一、地に足の着いたミリオンセラー作家



歴史、地理、世界史、さらには政治経済や読解力をわかりやすく解説した本『読むだけですっきりわかるシリーズ』(宝島社)は、累計280万部のヒットを飛ばし、数年たってもなお売り上げランキングに入るロングセラーです。その作者である後藤武士さんは、電子書籍のあるべき役割などを、独自の視点で面白く分析されています。他にも、執筆スタイルから私生活の趣味に至るまで、じっくりとお話を伺いました。

信頼性を落とすようなものは作りたくない


――現在のお仕事やお取り組みについて、ご紹介いただけますか?


後藤武士氏: 仕事は、ちょうどいま、一つ大きいものが終わったばかりです。(※取材当時)『読むだけですっきりわかる』シリーズに世界史版があるんですね。一昨年かな、古代と中世書いて、その後、近代書いて、次が現代編なんだけど、まあ、正直言うと締めきりを延ばしまくって近代までで、とめちゃっていたんです。

――規模が大きいテーマですね。


後藤武士氏: そうそう。引き受けた時に考えたことは、「類似本の模倣やダイジェスト版、便乗本だと言われたくない」でした。そうすると、当然、内容は多くなり、あっという間に2冊、3冊になってしまった。近代編までやった時に、自分の中では「もういいかな」という感じだったけど、やっぱりその辺は読者さんも版元も許してくれそうにないので、6週間、ホテルで缶詰になって執筆していました。缶詰といっても、世間で想像するほどキツいものではありません。その辺は編集さんが信頼して下さっているから、割合に身動きは自由でしたよ。

――普段の仕事場はどちらですか?


後藤武士氏: まちまちです。自宅であったりホテルであったり。最近はホテルが多いですね。この2か月間で、家に帰ったのが1週間位、残りは全部ホテルにいた気がします。連載とか短いものなど、自宅で書けるものは自宅で書きます。ただ、やっぱり単行本や書き下ろしとか、テーマが大きいものになると自宅では書きづらいので、どうしても外になっちゃう。だから家と外と半々ぐらいの確率ですね。

――執筆される際のスタイルについてもお伺いします


後藤武士氏: パソコンを使っています。目の疲労や肩こりがひどくて困っています。執筆で目をダメにしちゃったんですね。少しは回復してきてるけど、趣味が読書とドライブと映画なので、目が弱ると全部ダメなのがつらい(笑)。体をダメにしてお金を稼いだって意味がないから、半年ほど、療養したんです。最初は一年療養するつもりだったんだけど、気がついたら社会復帰させられてました(笑)。今も、今日、明日、明後日で7件ぐらい案件を抱えているんですが、ほとんどお断りすることになると思います。やっぱりセーブしながらでないと、良いものが作れない。それから他の方のチャンスをつぶしちゃってもしょうがないし。「本」というものに対する信頼性を落とすようなものは作りたくないから。

――厳選された1冊を出すことに、こだわりを持っていらっしゃるんですね。


後藤武士氏: そう。同じ多作でも、意味のあるものであればいい。例えば、これとこれは内容が違うとか、同じ内容でもレベルや対象とする読者層が異なるとか。いまどうしても出さなきゃいけないテーマとかもあるわけですね。もちろんそれを周囲がOKしてくれないと出せないけど、必然性や、クオリティーを保てる場合は出していくべきだし、そうじゃなかったら控えるべきだと思っています。もちろん、仕事だからそんなことは言っていられないこともあるけど、幸い、いまのぼくはクオリティーを考えられる状態だから。「衣食足りて礼節を知る」で、やっぱりそれなりに踏まえてやらないと。

自費出版がメジャーに


――いまは、依頼されて書くというお立場であると思いますが、ここに至るまでの、道のりや、苦労された話をお聞かせ願えますか?


後藤武士氏: それはもう「最初の本を出した時」ですね。以前は会社を経営し、塾を開いてたんですが、教えることに関しては「自分は化け物だ」と思っていました。だけど、その客観的な証拠が何もなかったんですね。本来、教える能力とは別の指標である超難関校の合格者数とか、年商がいくらだとか、客観的な指標ってどうしてもそこにならざるをえない。だから一冊目を出すまでは本当に大変でした。ちょうど、読むだけシリーズから学習法が出たばかりですが、アルファブロガーの方が取り上げてくださったらしくて、ネット書店では品切れになっていました。でも、あれ、コンテンツは、ぼくが一番初めに自費出版で出した本とほとんど同じ。当時はどこも引き取ってくださらなかったから自費出版という選択肢しかなかった。どんなにいいコンテンツがあっても、それを認められるだけの裏打ちとしての実績とPRできる度胸や力がないとダメってことですよね。

――そうなんですか!どのようにして、メジャーになったのですか。




後藤武士氏: ある書店さんが好意で置いてくださって、そしたら月に100冊くらい売れて。それでいまの宝島社の編集さんに拾っていただいたんです。ほぼ同じ内容でタイトルや表紙などリニューアルして宝島社から四六版で出したら、八重洲ブックセンターのフロア別のトップ10に入って、増刷も何度かあったけど、その時はそこまででしたね。スマッシュヒットまで。で、さらにそれが文庫化されたんだけど、当時はまだ宝島さんは文庫が今ほど強くない頃で…。

――まだ、宝島社の看板である海堂尊さんも、後藤さんも出ていないころですね。


後藤武士氏: そう。「このミステリーがすごい!大賞」はあったけれども、宝島社文庫版のぼくの勉強法の本がどこに置かれていたかというと、アダルト文庫の隣に置いてあった時代です(笑)。当然、売れるわけがない。コーナーに行くのですら恥ずかしい。ところが、宝島さんの文庫が強くなって、置き場も変わると、品切れになった。そのときに、「コンテンツの確かさは間違ってなかったんだな」と確信しました。ただ、それが認知されるかというのは、「運」も含めての問題。で、0%の運を60や70%までもっていくことはできるけど、100%には持っていけない。「運」というのは、オール・オア・ナッシングみたいなところがあって、一つ堰(せき)を切れば一気にくるけれども、切るまでは、どこまで上がろうが進もうが同じ扱いですね。だからここはすごく苦労したと思います。

――これで作家として大丈夫だ!と思った瞬間はありましたか?


後藤武士氏: いやいや、それがなかったんですよ。最初は、宝島はメジャーだから、ここから出せば人生が変わるだろうと思ったけど、これが変わらない。じゃあ増刷になったら…変わらない。ランキング入りしたら…変わらない。2冊目出したら…変わらない。どこまでいっても変わらない、もう一体どこまで行くんだろうなと思いましたね(笑)。未だに何も変わってない気さえします。ただ、自分自身のことを客観的に一つの取材対象として捉えると、明らかに変わっているんですね。例えば「仕事を選ばせていただく」なんてことは、昔はできなかったことだし。

――作家としての基本姿勢というのは、当時から変わらないですか?


後藤武士氏: 変わっていないつもりですけれど、もしかすると、シリーズで出した本に火がついた時ぐらいに、何か変わったのかもしれません。その頃から一気に声を掛けてくださる版元さんの数が増えたので。ぼく自身を客観的に分析すると、今は3回目のブームの最中。既に2回のブームを経験できたことは「ありがたいことだな」と思います。静かで動きがなくなってもあまり焦らずに穏やかでいられるから。でも、実は最初にブームが来た時、すごく怖かったんです。

――怖いというのは、どういうことでしょう?


後藤武士氏: 「ブームは作っちゃダメ」だと思っていたんです。ブームというものはいずれは廃れてしまう。ぼくはこの仕事を長くやっていきたかったから、それは避けたかった。そのためには、上がり下がりが激しいより、そこそこのところで仕事はコンスタントにあった方がいい。でも、いったん極端に上がってしまうと、そうはいかなくなる。例えばオファーをくださる編集の方も、頭の中で、そこそこの部数を想定してしまっているようで。さすがにミリオンはともかく、30万部とか10万部とか、あて込んでいらっしゃるのが、わかるんですね。企画通過に際してのハードルが高くなっている。いけないことに、ぼくは「この企画だとそこまでは無理ですよ」と言っちゃう。やっぱり出すタイミングとか出し方っていうのがあるし、30万部を狙うやり方と10万部、5万部を狙うやり方は、それぞれ違っているんですよね。

――どのような違いがあるのでしょうか?


後藤武士氏: ぼくの場合はヒットの延長がホームランになるのではなく、ホームランを打つ時はホームランを狙って打ちます。ということは当然、ピッチャーのどの球を打つかによりますね。自分の打席の中で、ホームランボールが来るとは限らないし、そういう意味ではミリオンというのは、チャンスさえあれば出せるけど、そのチャンスが毎年回ってくるかというと、そういうわけにはいかないですよね。

――打った打球をホームランにするために、積極的に宣伝やPRなどをする作家さんも見られますが、後藤さんはどう考えていらっしゃいますか?


後藤武士氏: いまの物書きさんというのは、ほとんどがほかに職業を抱えていらっしゃって、セミナーや商材販売のため、あるいは名刺代わりに本を売る。その本を売ったことで箔(はく)を付ける。そういう人ならいいと思うけど、ぼくの場合、初めから、執筆自体を本業にしていくつもりだったんです。だからAmazonキャンペーンも、自費出版の時に1度だけやりましたけれども、プロになってからは一度もやったことはないですね。

――役割がはっきりしているということですね。


後藤武士氏: ネットでの呼びかけも一切やらない。ブログとかも放りっぱなしだし、TwitterもFacebookもIDは持っているけど、自著のプロフィールには載せていません。なぜかというと、「プロ」というものにこだわりがあるから。もちろん、そういったことをやっていらっしゃる方を否定するわけじゃなく、考え方の一つとしてですね。ぼくは、物書きのプロというのは書けばいいのであって、営業は営業をしてくださる方がいらっしゃると考える。営業まで自分自身がやるというのは、その段階で物書きのプロではなくなると思ったんです。だから、ゼネラリストになるのなら、どんなテーマでも扱える書けるというゼネラリストになりたい。「執筆も営業もやりますよ」というのではないんです。

著書一覧『 後藤武士

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