貫井徳郎

Profile

1968年生まれ。早稲田大学商学部卒業。93年、第4回鮎川哲也賞最終候補作となった『慟哭(東京創元社)』が、予選委員であった北村薫氏の激賞を受けデビュー。2010年『乱反射(朝日新聞出版)』にて第63回推理作家協会賞受賞、『後悔と真実の色(幻冬舎)』にて第23回山本周五郎賞受賞。著書に、『プリズム(東京創元社)』、『悪党たちは千里を走る (幻冬舎)』、『空白の叫び(文藝春秋)』、『夜想(文藝春秋)』、『灰色の虹(新潮社)』などがある。近著に『新月譚(文藝春秋)』、『微笑む人(実業之日本社)』。

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iPhoneを活用、原稿はクラウドにアップ、Twitterを使いこなす毎日


―― 電子書籍、読書とか電子書籍についてもお伺いしたいと思いますが、iPhoneをかなりご活用されているということなんですが、iPhone5も出ましたが、もうお使いですか?


貫井徳郎氏: 発売初日に買いました(笑)。3時間並んで予約しましたよ。使い方としては、何か気になったことや疑問があったらすぐその場で調べる。それがやっぱり一番ですね。

―― レファレンスというか、資料として使われるんですか?


貫井徳郎氏: あとクラウドにあげて記憶させておきます。自宅と仕事場が分かれているものですから、自宅で調べたことはクラウドにあげておいて仕事場でそれを見るわけです。

―― じゃあ、どこでも同じような状況でお仕事ができるんですね。


貫井徳郎氏: そうですね、とにかくいまは、小説の原稿も含めてなんでもクラウドにあげています。もし僕が出先で編集者から原稿のチェックを要求されても、これで見られるわけです。

――いわゆる電子書籍をご利用されたことはありますか?


貫井徳郎氏: はい。買ったことはあります。でも小説を1冊読み切ったことはないですね。電子書籍で買うのは漫画が主です。7インチディスプレイのGalaxy Tabを使って、読みます。10インチよりも7インチの方が、僕の用途としては適切でいいんです。やっぱりiPadって重いと思うので、長時間使うには辛い。それと、机の上が散らかっているので10インチタブレットを置く場所がないのが、買わない理由です。あと、持ち歩いて、それこそ電子書籍端末として使うんだったら10インチより7インチの方が単行本感覚で持ち歩けますから、いいなと思います。

電子書籍は絶版にならないのがいい


――この電子書籍の登場というのは、出版不況だとか、先ほどのお話にもありましたけれども分厚くて本を読まない状況の中で新しい展望をもたらすと思いますか?


貫井徳郎氏: そうですね。まず実作者として一番ありがたいのは絶版がないということです。僕の本でも、いま現在手に入らないものが何冊かあるんですよ。20年もやっていると、どうしてもそういうことが発生します。それが電子書籍で読めればいいんですが、残念ながら手に入らないものはいま現在、電子書籍になっていない。自分の作品が全部電子書籍になっていたら、常に読者に届くという安心感があると思います。いまさっきも言ったように、4、5年前の本だともう店頭にないという状態ですので。僕なんかまだ置いてもらっている方ですけど、それでもどの書店に行っても全冊そろっているなんてあり得ないですから。

――紙の本をスキャニング、そして電子化して読者が読むということに対してはどのようにお考えですか?


貫井徳郎氏: 物理的な置き場所はどうにもならないので、電子データ化してでも手元に置いておきたい方の気持ちはすごくよく分かります。一番いいのは、出版と同時に電子化されることだと考えています。ですから、今年出した2冊は両方とも、電子書籍との同時発売をしてもらったんですよ。ただ、どんな小説家でもできることではないらしいですが。

―― 読者からの反響はありましたか?


貫井徳郎氏: 反響自体はないんですけど、『微笑む人』は実業之日本社で出した電子書籍としては、漫画以外では一番売れているらしいんですよ。前例がないことをやってもらったので、そういう実績が残せたのは良かったと安堵しています。

作品に対する責任は作家が負うが、編集者は第一の読者であってほしい


―― こういった電子版を含めて、電子書籍が少しずつ普及していく中で出版社・編集者の役割というのがますますクローズアップされていくと思いますが、貫井さんにとっての出版社・編集者の役割はどのようなものでしょうか?


貫井徳郎氏: 難しい質問ですね。小説に対しての責任は、最終的には小説家が全部背負うものだと思っています。出来が悪くても、それを編集者や出版社のせいにはできない。でも、実際には編集者・出版社のサポートの質はすごく作品の出来を左右するので、いいサポートを得られると精神的には楽です。彼らの助けなしで書いていくのは、非常に怖いです。

―― 普段から二人三脚というような感じですか?


貫井徳郎氏: 僕はあまり相談をするタイプではないので、「こんな話を考えました」とポーンと出すだけで、二人三脚という感じではないですね。

―― プロモーションの部分が大きいでしょうか?


貫井徳郎氏: 出来上がってからは、もちろん助けていただきます。あと、執筆中の感想をちゃんと言ってくれる編集者と言ってくれない編集者がいるわけですけど、言ってくれる人の方が当然ながらすごく助けになります。「原稿頂きました。次回もよろしくお願いします」みたいな、そんな返事だけだと、こちらも事務的にしか仕事はできないですよね。さすがにそういう編集者は、最近はかなり減ってきましたけど。

新しい発見をするために、一歩下がって自分の可能性を探る


――今後どんなものを世に発信していきたいと思われていますか?


貫井徳郎氏: 『新月譚』と『微笑む人』は僕の中ではギリギリ、これ以上先がないところまで書いたという意識があるので、次に何を書いていいかどうしても見つけられなくて、それでスランプになっていたんです。仕方なく、いまは少し下がって、また違うところを目指しているという感じです。これまで誰もやっていないことをやりたかったんですけど、毎回毎回そんなアイディアは見つかりません。ですので、いま連載中の2作は少しハードルを下げて、誰もやっていないことではなく、これまで僕がやっていなかったものを書いています。

―― また読者は先生の新しい面が見られるわけですね。


貫井徳郎氏: そうですね。でも、あんまり極端に違うことをやっちゃうと、読者はわりと保守的だから拒否反応を示すんです。だから、拒否反応を示されない程度に新しいことをやっているつもりです。

――最後に、これから小説を書きたい読者の方へメッセージをお願いします。


貫井徳郎氏: 絵や音楽など、そういうジャンルは才能の有無が歴然としていると思うんですけど、小説は分からないんです。自分では判断がつかないですし、人が見ても分からない。急にうまくなることがあり得るジャンルなので。だから、あきらめたらそこで終わります。もし小説家になりたいなら、あきらめずに粘ることが大切ですね。

――粘ることが大切なんですね。


貫井徳郎氏: あとは、自分で才能がないなんて決めつけないで、むしろうぬぼれるくらいの気持ちで頑張ればいいんじゃないかなと思います。僕なんか、それこそ自分に才能があるとは思ってなかったんですが、小説家になれないとは全く考えなかったです。

――それを発掘してくれる方に出会うという運もすごく大事ですね。


貫井徳郎氏: はい。ただ、デビューするには運が大事ですが、デビューした後も大事です。運がないと生き残っていけないですから。デビューする運がないんだったら、まだそういう時期ではないということですよ。運がないのにデビューしても、その後がつらいだけです。僕自身の話をすると、デビュー作が10年後に突然売れ出したんです。別に改定したわけではなく、中身は何も変わってないのに10年たって売れ出したわけですから、これはまさしく運です。つまり、僕は10年たってやっと売れる運がめぐってきたことになります。でも、その10年間にあきらめていたら、そういう運は来なかったので、何事もしつこくやり続けることが大事だと思います。

(聞き手:沖中幸太郎)

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