全世界どこでも読める電子書籍に可能性を感じます
チャイナ・インフォメーション21代表。1981年横浜銀行に入行、銀行派遣で北京大学留学。86年、北京事務所を開設し初代駐在員として勤務。海外経済協力基金派遣出向、銀行主任調査役アジアデスク長、川崎商工会議所中国ビジネスアドバイザー等を経て、2001年退職。現在は中国ビジネスに関わる日本企業の支援、セミナー、執筆活動などを展開している。『中国とのつき合い方がマンガで3時間でわかる本』(明日香出版社)、『中国ビジネス<超>成功戦術252』(明日香出版社) 、『中国ビジネスの“ツボ”-ハウツウ集大成版-』(重化学工業通信社)など、多数の著書を出版する筧さんに、中国ビジネスについて、電子書籍の活用法、心に残る本など、お聞きしました。
中国ビジネスに「役立つ本」を届けたい
――まず電子書籍についてお話を伺おうと思います。筧さんは電子書籍についてどう思われますか?
筧武雄氏: 電子書籍って、出始めたのが3~4年くらい前ですよね。紙媒体ではなく、問屋を通さずに、ネットでダウンロードして読むということですよね。私は、電子書籍が出始める前から、インターネットでやっていたことがあるんです。もう5~6年、もっと前かな。ネットが普及し始めて、いろいろな掲示板が使えるようになったじゃないですか。私は本を26冊ほど出していますが、私の投げかけたテーマについて、読者から質問や意見をネット上で挙げてもらったんです。私が一方的に答えるのではなく読者同士で議論をしてもらって、それにまたコメントする。これが結構活発になって、そこで出た情報や話題を元に、また本を書いたり雑誌を作ったり、立体学習とでも言えばいいでしょうか。それは紙の本・雑誌・新聞と平行してネット上でも同じものを出したんです。例えば当時われわれの業界では『チャイニーズドラゴン』という中国ビジネス専門情報紙がありました。そこで『中国ビジネス最前線』という連載をしていたのですが、その時、同じ『リアルタイム中国ビジネス最前線』の掲示板を同時にネット上でも立ち上げて、情報交換、質疑応答、意見・議論を交わしていました。その内容を整理して次の著書で活用したりもしました。そんな風に紙媒体に付加価値を付けることをウェブ上でやっていたんです。その後、電子書籍が出てきて、これはさらにいろいろな活用性があるなと思っています。
――どのような活用を考えていらっしゃいますか?
筧武雄氏: 私のやっている仕事、扱っている内容は、中国ビジネスのことなんですよね。でも中国で本を販売するためには、すごく制限がある。まず、日本語の書籍を売っている書店が中国には1、2店しかない。印刷物が手に入らない。ところが、日本からはすでに2~3万社の企業が中国へ進出していて、その人たちは最新のビジネス情報を欲しがっている。私は、ビジネスの実務の情報を出しているでしょう。どういう現象が起きたかというと、私の本が成田空港の書店で、過去開店以来最高の売り上げを記録したんです。飛行機に乗る前にビジネスマンたちが買っていく。むこうでは買えないから、社員に配ったりしていると思うんです。もう一つの問題は、中国で日本の本を買うとすごく高い。約2倍の値段になる。ここ1、2年くらい前から日本の物流業者さんが中国に入って書籍の流通を始めましたが、それでもやっぱり値段の問題が残る。あと、実際、本屋さんは北京と上海にしかない。日本企業が工場を作って進出している工業団地などは郊外の街ですから、手に入らないんですよね。Amazonで頼んでも送ってくれないからね。中国は物流もまだなくて、通関しなければいけないですから。となると、やっぱりソリューションとしては電子書籍しかない。ですので、3冊くらい前の本から電子書籍化して、最初はCDにしようという話でしたけど、ダウンロード式の電子出版でもいいんじゃないかって、出版社に話を持ちかけたんです。ところが、大手さんはなかなか渋いんですよ。
――そうなんですか。
筧武雄氏: 電子書籍そのものに関して、著作権の問題や、問屋さんに流通が届かないとかいろいろあって、決して熱くならないんですよね。特に、中国だから、いくらでも裏コピーして印刷されてしまうとか。流通でそれをやりすぎると国内で本が売れなくなっちゃうとか。色んな問題があって、大手さんでは今のところ実現していません。せいぜいできるのは、断片的にメールにつけて送るとか、コピーできないPDFにしてばら売りにするとか、その程度のことですね。実際、会社の方もあまりセールスしていないし、単行本の形では出せていないのが現実です。
――著作者が出したいと言っているのに出せない状況なんですね。
筧武雄氏: 便利な電子出版も宝の持ち腐れだという気がします。ニーズも必要性もあるし、意義もあることだけれども、実際の実用化には難しい問題もいろいろあるんでしょうね。
――2002年に初版が出た『中国とのつき合い方がマンガで3時間でわかる本』(明日香出版社)は、08年時点で40版を超えています。このような本も、電子書籍だと最新情報に更新しやすいですよね。
筧武雄氏: 紙の単行本でも基本的にはデータ化してメールでのやり取りになったけれども、修正や追加などの更新の手間そのものはそれ程変わらないんじゃないかな。
――電子書籍の方が、読者には、最新版になったことを伝えやすいですか?
筧武雄氏: 自分でメールなどすればできると思いますが、出版社はまだそういったことまではやらないですよね。出版社は基本的に、問屋ベース、書店ベースだから。ですから、読者より書店の売れ筋やニーズをマーケティングしている。読者とは直接つながっていないですよね。読者と直接情報をとっている出版社は、少ないですよ。
――著作者としては読者の顔を見たいと思いますか?
筧武雄氏: 書いた方からすれば、完全に読者に目が向いている。読んで役に立ってもらえればいいことなので、値段がいくらとか、売れ筋がどうとかあまり気にしないですね。多くの人に知ってもらうというより、やはり「役に立つ」ということですよね。情報やノウハウを知らないと失敗してしまう、間違ってしまうようなことも、あらかじめ知っていれば準備ができるし、覚悟もできる。特に中国ビジネスは、日本とは法律も習慣も社会の仕組みも全く違うから、つまずいたり、驚く人が多い。ですから、あらかじめ知識として頭に入れておくのは絶対に必要だと思います。そのために、いろいろ本を書いているわけです。
――個人的に電子出版できるとしたら、読者の声もダイレクトに伝わってきそうですね。そういったご予定やお考えはありますか?
筧武雄氏: 実は、翻訳会社をやっている知人が電子書籍を始めたんです。アップルストアと提携して、ブック集を出せるようになった。ですので、彼のところでやってみようかと。去年の暮れぐらいからだったかな。
――宣伝はされていますか?
筧武雄氏: ホームページにあげているだけ。でも、検索すると結構上の方にヒットしますよ。
――みなさん、欲しがっているんですね。
筧武雄氏: やはり、情報はみなさん欲しがっています。日本国内だと地方に行くほどニーズが強く、中国現地ではなおさらです。あと電子書籍にすると値段が安いじゃないですか。手ごろっていうのもありますよね。コピーを防ぐ技術も進歩してきたし。
40年たっても読み返す本
――筧さんと本との関わりについてお話を伺えればと思います。最近読んだ中で印象に残っている本はありますか?
筧武雄氏: 岩井三四二の『村を助くは誰(た)ぞ』(講談社) 。戦国時代、織田信長と斎藤道三の国取り争いのはざまで生き抜く、濃尾平野のただなかにある村の人々を描いた全6本の短編集です。戦いの中、どちらにつくべきか悩みながら懸命に生き抜く農民のしたたかさ、はかなさが非常によく書けているんです。背景や細かい部分まで、歴史の事実をよく調べて書かれていますね。何よりテーマがいい。利権を争う人たちの中で力を持って戦うのは戦国武将ですよね。その「はざま」で生きる一般庶民の賢さや「したたかさ」がよく描けています。結局、農民が一番強いみたいな。
――何か現代に通じる部分がありますね。
筧武雄氏: 例えば今の中近東やアラブの戦乱でも、コアな部分は共通していると思うんです。要するに何かの利権や資源を人間が荒らす。国と国もそうだし、個人と個人でも同じ。食べていく一つの収入源というかね。生きていく収入源を奪い合って争いが起きる。それが、歴史なんですよね。そういう意味で、この本は非常によく書けている。岩井三四二さんの本は好きで、ほかにもよく読んでいます。実はこの方、本を書くための取材で、何年か前に私のところに来たんですよ。中国の明時代の遣明船について、中国のことを教えてくれと言って。ですから、応援している人でもあるんです。
――筧さんは本をたくさん読まれますか?
筧武雄氏: 最近、特にここ10年くらい、ネットができてからは、読み物って言ったら本より電子情報資料が圧倒的に多いですね。時代小説なんかは、どちらかというと息抜きや夜寝るときに読みますね。
――筧さんの人生の転機となった本はありますか?
筧武雄氏: アメリカの小説家、カート・ヴォネガットの『スローターハウス5』(早川書房)。欧米ではベストセラーになって、私は英文でも読みました。SFですが、私は高校生のころ読んで、すごく印象が強くて。本はいろいろ読んでいますが、30年40年過ぎても、影響していますね。
――今でも読まれますか?
筧武雄氏: 繰り返し何度も何度も読みますね。今、手元にある文庫版も何冊目かですよ。古い本はみんな捨てちゃったので、生き残っているのはこれだけ。文庫版も、もう絶版かもしれないですね。
――古い本は捨ててしまいますか?
筧武雄氏: 持っているものもありますよ。定期的に見直して、読まないのは捨てるか売るかですね。でも、どちらかといえば、本としては持たないようにしています。ここ20年くらいは読むより書く方がメインですし、資料なんかも、とっておくとあっという間に膨大な量になるので、それは自分でデータベースを作って、自分で電子化してハードディスクの中に入れています。そうすれば、劣化も紛失もしないし、検索をかけられるから早いでしょう。じっくり読む本とは別に、そういう情報処理をやっていますから、瞬時に見極めて、使えると思った本はどんどんPCデータ化してとっておきます。
著書一覧『 筧武雄 』