筧武雄

Profile

1981年に横浜銀行入社後、銀行派遣により北京大学留学。北京事務所を開設し初代駐在、帰国後、国際協力銀行出向等を経て、2001年に銀行退職。横浜国立大学経済学部非常勤講師、神奈川県産業貿易振興協会国際ビジネスアドバイザーなど多くの役職を経て、現在も横浜市企業経営支援財団グローバルビジネスエキスパートなど、日本企業を支援する中国ビジネスコンサルタントとして活躍中。主な著書に、『中国ビジネスの投資・ビジネスガイドブック』(エヌ・エヌ・エー)、『改訂版 中国のことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版社)、「中国がわかるトピック24」(通信講座「シゴトの中国語 速習パック」収録、アルク)、『中国ビジネスのツボ・ハウツウ集大成改訂版』(重化学工業通信社)など。

Book Information

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紙には紙の良さがある


――電子書籍は利用されていますか?


筧武雄氏: 私ね、毎日嫌っていうほどPC画面を見ているから、50代半ばになって目が悪くなっちゃって、本当は印刷活字で読んだ方が楽なんですよね。でもスマートホンやタブレットPCでは文字を拡大できるのはありがたいです。携帯もそうだけど、最大の大きさにして見ているんですよ。メガネは使いたくないので。ただ、画面があまり明るいとやはり眼が疲れますよね。一番いいのは、活字の大きな本ですけどね。残念ながら電子書籍は、そういう目の関係であまり。もう少し若ければ使うんですけれども・・・(笑)。あとね、iPadとか、高いですよね。普通の人が普通に買える値段ではない。もう少し、一般に普及するような装置、読める機械がないと。ダウンロードできるのはいいですが、いちいちパソコンを立ち上げてっていうのはちょっと手間がかかる。今の状況では、電子書籍で読むのは、やはり情報資料にとどまりますね。長編小説は読む気になれない。iPadクラスで安いものが出てくれば、ずいぶん普及するんじゃないかな。

――では今は、基本的には紙の書籍を読んでいらっしゃるんですね。


筧武雄氏: 画面ではなく紙に印刷してという感じです。自分で書く原稿でも、画面でやればいいんですが、画面で見るのと紙で見るのと、やはり違うんですよね。だから、一度必ずプリントアウトして、読み返して直します。雑誌類であれば画面で修正することもありますが、印刷業者の方のソフトが違うみたいで、単行本はまだそれができないようです。電子化となると、出版社や印刷会社のシステム自体の切り替えも必要になってきますよね。でもまぁ、今は税務署だって全部電子化していますし、ストックの保管・保存を考えれば、電子化した方がいいですよね。電子書籍の特徴は、世界全国どこでもダウンロードできて、本屋がなくても読めること。これなら、中国の片田舎で会社をやっている人でも、ネット環境さえあればすぐに情報を取れる。読者の立場を考えれば、本屋さんに行けない人たちがいっぱいいるわけだから、新しいものは電子書籍で同時出版できればいいんですが・・・。出版社もここ1、2年でだいぶ考え方が変わってきているような感じがしますね。

――ようやく、という感じですか?


筧武雄氏: ようやくですね。今、ネット絵本みたいなものも増えてきているじゃないですか。それこそ電子書籍を中国で事業にしたいっていう相談もあるくらいで。むこうはiPadがすごく普及しているので、ネット人口が何億人で世界一でしょう。スマートフォンだってすごい勢いで出ている。ああいうところで書籍を電子化したら普及しますよね。そういう意味で言えば、中国や台湾、フィリピンなどは日本より進んでいます。本だけでなく、気象情報、税金の申告、行政の各種届け出、許認可、決済・・・。ほとんど電子化されていますよ。合理的ですね。紙を使わない。

――電子化があまりに進むと、「電子だけじゃ味気ない」みたいなノスタルジックを感じたりなさいますか?




筧武雄氏: ノスタルジックとか、思い入れとかではなく、紙の本は紙の本でその利便性が別にある。要するに電気がなくても読むことができる。いつでもどこでも、持っていれば、電池なんか関係ない。それに、読み返すのも簡単ですね。ペラペラペラって好きなページをバッと開けられるでしょう。夜寝る前にひっくり返って読むときに、電源入れて立ち上げてって、やる気にならないですよね。あとは、書き込みができる。紙ならではの良さは、記録が残ること。私は、銀行に勤めていたので、そういうルールや規則をよく知っていますが、紙のものがなぜ大事かというと、修正したり、後から書き換えたり訂正したら、記録が残るから。電子書類では残らない。だから、銀行や保険所、お役所などの保守的なところは、紙ベースを手放さないんです。改ざんしたり、誰か書き換えたりしても全部わかるように。帳簿類なんかでも、0を一個書き足すとか数字を改ざんするとか、電子データだとできてしまうんですよね。ログをとることはできますが、なりすましをされちゃうと。ウイルスの問題もあるし、データを破壊されてしまったら大変ですからね。

作者と読者と出版社、みんながハッピーに


――筧さんの今後の展望を教えていただけますか?


筧武雄氏: 20代30代に「やりたい」と思っていたことは、実はほとんどやってしまったんです。本も出したしテレビにも出た、ラジオにも今出演しているし。だから、次のステップで何をやるかを今考えている最中です。私は、中国ビジネス関係のノウハウ本の出版や、情報発信、解説などをずっと手がけてきましたが、実は自分自身で中国で事業をした経験がないんです。人に「ああした方がいい、こうした方がいい、こういうやり方がある、これをやると失敗する」とアドバイスして、そういうことはいろいろ知っている。だけど自分自身が事業をしたことはない。だから実体験で、自分でやってみたいっていうのは常にありますね。具体的に言えば、自分が中国に行って何か事業をやってみるとかね。例えば古本屋とか貸本屋とか、電子書籍でもいいですけどね。自分で体験してみたいっていうのはありますね。一人ではできないから、誰か一緒にやってくれる仲間と、あとはタイミング。そこらへんが合えば、ぜひやってみたい。いろいろご相談に来るお客さんや問い合わせに来るお客さん、研究会やセミナーに来られる企業の皆さん方にも、新規事業を起こしたいという方は多いんです。その中で、「面白そうな波長の合うような人が、私と一緒にやってくれないかな」とか。そういう考えも時々おきますね。

――いいですね。中国語版のサイトで日本文化を紹介するものなどは多くありますか?


筧武雄氏: そういったサイトはいくつもありますよ。今特に多いのが旅行業界です。中国は人民元高で景気がいいから、日本にも中国の人がたくさん旅行に来ている。ツアーや料金など旅行の情報は、むこうのサイトでむこうの言葉で発信しないとわからないじゃないですか。中国で募集するわけだから。だから近畿ツーリストやJTBも、中国のウェブサイトのサーバーを使って発信して、顧客募集してツアー旅行を組んでいるんです。すごく積極的にやっていますよ。あとは、買い物。いわゆるインターネット通販ですよね。すごく伸びています。中国にはいわゆるバイヤーモールがあって、日本のサーバーにデータをのせてもむこうでは検索で引っ掛からないんです。ですから、日本でいくら立派なサイトを中国語で立ち上げてもダメなんです。中国のドメスティックサーバー、貸しサーバーを借りて、そこにホームページを立ち上げないとヒットしない。

――Facebookも使えないんですよね。


筧武雄氏: Twitterもダメ。政府が管理していないといけないから、仲間同士で勝手にできるものは認められない。You Tubeもダメ。自由にアップできるものはとにかくダメなの。全部検閲があるから。

――その中に飛び込んでビジネスは大変ですか?


筧武雄氏: 特にネット上では大変です。検閲があるので、中国政府に批判的な文章表現や内容で問題になったケースは、過去にいくらでもありますよ。でも、敢えてそういったところで、実際に自分が面倒を見てきた中で、今度は自分が何かやってみたいなって。

――最後になりましたが、筧さんにとって本はどんな存在ですか?


筧武雄氏: いわば「ショー・ビジネス」ですね。発表会、作品展示みたいなもの。初めて本を出してから、20年たっていますが、自分の言いたいこと、書きたいことを書いても、あまりみんな関心をもたないですね。独りよがりな感じになってしまって。言いたい放題、書きたい放題していた時期もありましたが、そういうものは面白半分で見られることはあっても、長期に部数を伸ばしたり、広く受け入れてもらえるものではない。なら逆に、どんな本が売れ筋かって、一生懸命マーケティングをして、同じような本を一斉に出しても、これまた全然売れない。読者の好みに合わせて書く本も、やっぱり売れないんです。
小説でもそうですが、要するに「読みやすい、読んでわかる、受け入れられやすい本」ってありますよね。あとは「役に立つ」。わかりやすくて、面白くて役に立つ。文章表現も一つのテクニック、こなれてこないとできないでしょう。だから、自分にとって本は、そういう技の見せ所。これを見てください、読んでくださいっていう。で、読者から、「役に立ちました」って言ってもらえれば一番うれしいですね。
出版社の方にもよく言うんですが、演劇と似ていますよね。俳優と観客と劇場 3つともハッピーじゃないと成功って言わない。本の世界でも同じですよ。作者と読者と出版社。この3人がハッピーになって、その事業は成功なんです。演劇や映画と一緒、どんな本も「作品」ですよね。作者だけが頑張っても、出版社だけが頑張っても、読者が置き去りにされてはダメなんです。みんな両立しないと、その事業は成功しない。いい作品を作るためには、そういう風に考えていかないといけないですよね。そういうところから「良い作品」、「良い本」、「ベストセラー」っていうのは生まれるんだと思います。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 筧武雄

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