本に、「人生を変える」ような「何か」を期待するなんてナンセンス
――ほかには、この20年の間に、世に出回っている本は、装丁も含めて内容などはどのように変化してきましたか?
石原壮一郎氏: よく目につくのは話題になっていたり、売れている本だったりしますが、即効性を求めて元を取ろうという“さもしい欲望”につけ込んだ本が増えているように思うんですよね。本なんて本来、役に立つようなものじゃないと思うんですよ。ハナから期待し過ぎちゃいけないと思うんです。読んで何かのきっかけになって、そこから自分の行動について考えるきっかけぐらいにはなるかもしれませんけど、そこから何かを得たり、そこでひとつの言葉に衝撃を受けて人生が変わることになるっていうことは、それはもうずうずうしいにも程があると思うんですね。たかが1,000円や2,000円のもので。それはもちろん、その分は楽しんでもらおうと思って書いているんですけども、この本を読んだ意味だとか、自分はこれだけ成長したとかっていうことをわかりやすく提示されていないと満足しない人が増えたというか。
――費用対効果みたいなものですね。
石原壮一郎氏: 遊び半分で本を読むというか、楽しいから本を読むという余裕がなくなっていると思いますね。雑誌なんかも売れないって言われていますけども、雑誌は何が役に立つか、何が書いてあるかがよくわからなくてめくっているのが楽しいんですよね。だからこそ、全然知らない人がコラムを書いていたりとか、知らないお店が紹介されていたりして、世界が広がるわけなんです。でも最近は例えば、「この雑誌を買うと仏像を特集している」とか、「仏像について詳しくなれる」というあらかじめの担保がないと買わない。一冊の中での特集ページの比率が、どんどん高くなっていますよね。でも、むしろ特集ページが3分の2も4分の3もあったら、その分、雑誌としての面白さは減ってしまうと思う。だったらムックか本を買ったらいい。雑誌を買うというのは、「なんか面白いことが載っているだろう」と思ってその雑誌を信じること。うろうろと「何か面白いことないかな」と散歩をするみたいなものだと思うんです。
「この本がほしい」と思うときはAmazonで。リアル書店は楽しむために行く。
――ご自分が読まれる本や資料はどちらで購入されるのですか?
石原壮一郎氏: すぐにこの本が欲しいっていうときはAmazonですよね。リアル書店2でAmazonが1ぐらいかな。2:1ですね。でもリアルな本屋に行くと無駄遣いしちゃうんですよね。
事務所が池袋に近いんだから、ジュンク堂やリブロに行けばいいじゃないかという話なんですけども、最近はそれさえ面倒くさくなってきていますね。
――多い時は何冊ぐらい購入されるのですか?
石原壮一郎氏: 昔は本を見た時に買っておかないと、次いつ買えるかわからないっていうのが鉄則だったんですが、今はどんな本もあとからでも手に入るようになったので、あんまりいっぺんには買わなくなりました。今日はこれについて集めようっていうときには20冊ぐらい買って帰ります。
電子書籍の良さは、まだ実感できない
――絶版や流通問題にからめて電子書籍についてもお伺いしたいんですが、電子書籍はそういった問題をクリアするでしょうか?
石原壮一郎氏: 電子書籍になれば本はいつまでも残ってくれるし、便利は便利だと思うんです。ただ、おかげで本との「一期一会の出会いの喜び」っていうのが薄れてしまって、余計なことしやがってという思いもありますね。例えば女の子とデートして「今日なんとかしなきゃ」っていう気持ちっていうのは大事だと思うんですけども、「今日がダメでも次があるし」と何度でもやり直しが利くような錯覚を抱かされているような。「世の中から消えてしまうものがない」ということは、情報の受け止め方や付き合い方に、多少影響があるんじゃないかと思いますけどね。
――逆に電子書籍の可能性としてはどうですか?
石原壮一郎氏: 実際、電子書籍やアプリで自分の本をたくさん売ってもらっているんです。それは非常にありがたいんですが、なんでわざわざこの本を電子書籍で買う気になってくれたんだろうと思うこともある。自分自身としてはまだ、電子書籍で本を買うということの必要性をまだ感じたことがない。この先電子書籍がどんどん広がって、それを使いこなすと便利なんだろうということはわかるんですけども、誰か僕に「電子書籍はこんなにすごい、すてきなものなんだ」ということをぜひ教えてもらいたいですね。
――石原さんは電子書籍を使って読書をされますか?
石原壮一郎氏: iPadが出た時に、最初のモデルを買ったんですけども、2が出る時になって、ほとんど使ってないことに気がついて、人にあげてしまいました。
著書一覧『 石原壮一郎 』